ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

読書

良知力さんを読んで

良知力 らち ちから さんという早逝した社会思想史家の著書『向こう岸からの世界史』(未来社 1978年10月刊)を読みました。1848年のヨーロッパ、特にオーストリア・ウィーンの革命をめぐる話なのですが、学生の頃に一度読んで、よくわからず、就職してから…

森山軍治郎『ヴァンデ戦争』

副題は「フランス革命を問い直す」です。文庫として出たのは今年の5月ですが、元の版は1990年代半ばに出ていて、当時、本屋で目にした記憶はあります。ひょっとしたら、手に取って眺めていたかもしれませんが、副題から「歴史修正主義(右派的な歴史の書き換…

1945年8月6日朝「経験の大きな黒い塊」

今日は短く。2008年に亡くなった加藤周一さんが1945年8月6日の後の広島を回想した文章です。 広島には一本の緑の樹さえもなかった。見渡すかぎり瓦礫の野原が拡がり、その平坦な表面を縦横の道路と掘割の水が区切っていた。石造の建物がいくつか、崩れ落ちず…

佐々木実『市場と権力』を読んで

一昨日の「一月万冊」で、ジャーナリストの佐藤章さんが紹介していた本で、副題は、「『改革』に憑かれた経済学者の肖像」――この「経済学者」とはむろん竹中平蔵氏のことです。本書は2013年に刊行されたものですが、2年前に文庫化されたタイトルは『竹中平蔵…

奈倉有里『夕暮れに夜明けの歌を』

活躍中のロシア文学研究者の半生を綴った評判のエッセイを読みました。著者は研究者としては若手から中堅どころととらえるのがよいと思うので、「半生」という語はまだ適切ではないかもしれませんが、本の最後に「かつての自分といまの自分はまったく別人と…

伊藤俊一『荘園』

副題は「墾田永年私財法から応仁の乱まで」。荘園とその制度的変遷を追いながら日本中世史を一瞥した労作です。すでにかなりの人に読まれているらしく、今後、この方面の標準的テキストとして読み継がれていくのではないか、と人から言われたので、がんばっ…

千葉雅也『現代思想入門』を読んで

ネットで評判になっていた本で、中には「絶賛」している人も見えたので、読んでみたのですが、フランスのフーコーはともかく、デリダやドゥルーズは何となく「やり過ごして」きた面があるので、著者の独自の読み(解釈)とはいえ、「二項対立」や「差異」の…

『文読む月日』 まとめ読み

一日ひとつずつ読み進めるはずが、怠けてたまってしまったトルストイ『文読む月日 上』の5月下旬部分をまとめ読みしました。来月からは、中巻(第二分冊)です。 この部分に限らず、本書全体に、神への信仰を通じてより良く生きるべきという話が多いのですが…

ロシアの良心たち

AFP BB News にロシアで反戦の声を上げる人たちの記事がいくつかあります。 5月22日付の記事で紹介さている画家のエレーナ・オシポワさんは、独ソ戦でナチス・ドイツによって2年半近く続いた「レニングラード包囲戦」を経験した女性で、これまでウクライナ侵…

小泉悠『ロシア点描』

最近すっかり「売れっ子」になってしまった感のある著者ですが、そこは(自称でもある)「オタク」的なロシアの軍事専門家、小生には、ロシアのウクライナ侵攻がどうなっていくのかについてどんな分析をし、どんな見通しを持っているのか、という興味がまず…

見田宗介『宮沢賢治 存在の祭りの中へ』

社会学者の見田宗介さんが4月1日に亡くなったことを知りました。 <評伝>希望のリアリズム、表現 社会学者・見田宗介さん死去:朝日新聞デジタル むかし見田さんの『宮沢賢治 存在の祭りの中へ』(岩波現代文庫版 2001年)を読んだら、無性に「賢治」に会い…

小川・成田編『世界史の考え方』

この4月から高校の授業科目が模様替えされます。国語の新科目「論理国語」をめぐっては、文学の扱いについて、いろいろと反響を呼びました。社会(地理歴史)の方は、長らく日本史と世界史の二本立てで進んできた「歴史」の授業に、新たに「歴史総合」という…

暉峻淑子『対話する社会へ』

「対話が続いている間は殴り合いは起こらない」というドイツの言葉があるそうです。なるほどと思います。この言葉を心に留めた筆者は、やがて「戦争・暴力の反対語は、平和ではなく対話だ」と考えるに至ります。平穏な日常を下支えているのは、暴力的な衝突…

O.ファイジズ『ナターシャの踊り』

上下巻合わせて800頁を超える力作。原著は2002年刊行ですが、日本語訳が出たのは昨年2021年8月です。訳者の鳥山さんによれば、途中から巽さんと中野さんの二人に応援を頼んだとのことで、よくぞあきらめずに(抄訳にせずに)最後まで訳しとおしてくれたと、…

『文読む月日』7

今日は短く。 トルストイの『文読む月日』の3月27日の欄を見ていて、一昨日の「ヤジ排除訴訟」判決のことを連想しました。改めて、原告の二人と弁護団、関係者、そして、当たり前の判決を出してくれた裁判長に、心から敬意を表します。 3月27日… (四)…人び…

『戦争は女の顔をしていない』

NHKの「100分de名著」のシリーズでも取り上げられていた、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』が、再び読まれているという話を知りました。番組の講師役だった沼野恭子さんは毎日新聞の取材を受けて、「アレクシエービッチ氏は…

歴史は何の役に立つのか?

明日は3月11日。 あの日の夜、真っ暗になった道を灯りがひとつ、またひとつと、学校に向かってきて、最後の生徒を送り出してから慌てて自宅に戻ると、家の中は無茶苦茶になっていましたが、家族は無事でいてくれました。津波や原発のことを知ったのはその後…

『現代ウクライナ短編集』

藤井悦子さんとオリガ・ホメンコさんの共編訳による『現代ウクライナ短編集』は、元の版が1997年刊で、1980年代から90年代の作品を集めたものです。60代以上の人にとっては自身の若い頃を重ねて「一昔前」くらいの感覚で読めたとしても、30代以下の人にとっ…

『文読む月日』6

アベシンゾー氏のことを書くと(あと橋下氏もそうですが)、罵詈雑言としか思われません(もちろんそれはあるのですが)。しかし、毎日ウクライナの映像を見ていると、この侵攻(戦争)を指示する人間と「同じ未来を見ている」などと発言した人物を、なぜこ…

片山ふえ『オリガと巨匠たち』

片山ふえさんの『オリガと巨匠たち――私のウクライナ紀行』(未知谷 2010年)を読みました。副題にあるとおり、片山さんの西ウクライナの旅日記なのですが、案内人のオリガ・ペトローワさんをはじめ道中で出会うウクライナの人々の人生と時々の風景がみずみず…

毎日新聞150年に寄せて

昨日毎日新聞は創刊150年を迎えたそうです。1872(明治5)年2月21日、東京で最初の日刊紙として「東京日日新聞」第1号が発刊されたのが最初ということです。が、調べてみると、まだ旧暦の時代だったので今の暦で言えば3月29日のようなのです。まあ気にしない…

真野森作『ルポ プーチンの戦争』

今日で(やっと)北京オリンピックも終わりです。カーリングって2週間ずっと競技をしてきたことになるんですね。本当に本当にお疲れ様。あと一息です。 しかし、終わったとたんに世界が望んでいないことが現実化するかもしれません。非常に心配です。 『ルポ…

15のとき

皇室スキャンダルに加担するようで嫌なのですが、去年の3月、北九州市の「第12回子どもノンフィクション文学賞」の佳作に選ばれた秋篠宮悠仁さんの作文に、すでに発表されていた他の文章と酷似する箇所があると指摘されています。誰が気がついたのか知りませ…

O.ホメンコ『ウクライナから愛をこめて』

著者のオリガ・ホメンコさんは東京大学の大学院に留学したことがあり、現在はキエフの大学で日本の歴史を教える親日家で、作家、ジャーナリスト、翻訳家だそうです。本書はウクライナ人の著者が日本語で書いたエッセイ集ですが、その温かな視線によって綴ら…

逃走と抵抗

2月9日付朝日新聞に「現代の逃走論」という記事があり、ヨシダナギさん(フォトグラファー)、今井紀明さん(NPO法人「D×P」理事長)、浅田彰さん(批評家 大学教授)の3人の話が載っています。 「逃げ」や「逃走」には否定的なニュアンスがついて回ります。…

芝健介『ヒトラー 虚像の独裁者』

菅直人・元首相が1月21日付Twitterで、橋下徹氏(ら)の弁舌の「巧みさ」をヒトラーにたとえたことが維新の怒りを買い、党として、なぜか菅元首相本人ではなく、立憲民主党に謝罪・撤回要求をするという珍妙なことが起こっています。世間の耳目を引き立憲民…

清水透『ラテンアメリカ五〇〇年』を読んで

最初に書いておくと、これは書評ではありません。清水さんの『ラテンアメリカ五〇〇年 歴史のトルソー』(岩波現代文庫 2017年)を読んで、何となく頭に浮かんだことを書き留めたものです。 本書は講義録がもとになっているようですが、小生のような門外漢に…

トルストイ『文読む月日』5

毎度引用している、北御門二郎さん訳のレフ・トルストイ『文読む月日』(ちくま文庫)の原題は「КРУГ ЧТЕНИЯ(クルーク・チテーニャ 読み物の輪)」という。最も古い訳本は、ロシア文学者・原久一郎さんによる1934年の『一日一善』で、この題名は、1880年代…

市場はいつか牙をむく

国交省の統計不正に関する識者のコメントを最近の朝日新聞から拾ってみた。 『アベノミクスによろしく』(集英社インターナショナル 2017年)の著者で弁護士の明石順平さん。 統計の基になる「生データ」を消しゴムで消す。まさか国の重要な統計でそんなこと…

国が何億かけても隠蔽したい事実

図書館に本を返しに行ったついでに本棚を眺めていて、野上忠興著『安倍晋三 沈黙の仮面 その血脈と生い立ちの秘密』(小学館 2015年)が目に留まった。今さらと思いながら、数ページめくって読んでみた。同情など一切する気はなかったが、読んでいて「気の毒…