ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

読書

千葉雅也『現代思想入門』を読んで

ネットで評判になっていた本で、中には「絶賛」している人も見えたので、読んでみたのですが、フランスのフーコーはともかく、デリダやドゥルーズは何となく「やり過ごして」きた面があるので、著者の独自の読み(解釈)とはいえ、「二項対立」や「差異」の…

『文読む月日』 まとめ読み

一日ひとつずつ読み進めるはずが、怠けてたまってしまったトルストイ『文読む月日 上』の5月下旬部分をまとめ読みしました。来月からは、中巻(第二分冊)です。 この部分に限らず、本書全体に、神への信仰を通じてより良く生きるべきという話が多いのですが…

ロシアの良心たち

AFP BB News にロシアで反戦の声を上げる人たちの記事がいくつかあります。 5月22日付の記事で紹介さている画家のエレーナ・オシポワさんは、独ソ戦でナチス・ドイツによって2年半近く続いた「レニングラード包囲戦」を経験した女性で、これまでウクライナ侵…

小泉悠『ロシア点描』

最近すっかり「売れっ子」になってしまった感のある著者ですが、そこは(自称でもある)「オタク」的なロシアの軍事専門家、小生には、ロシアのウクライナ侵攻がどうなっていくのかについてどんな分析をし、どんな見通しを持っているのか、という興味がまず…

見田宗介『宮沢賢治 存在の祭りの中へ』

社会学者の見田宗介さんが4月1日に亡くなったことを知りました。 <評伝>希望のリアリズム、表現 社会学者・見田宗介さん死去:朝日新聞デジタル むかし見田さんの『宮沢賢治 存在の祭りの中へ』(岩波現代文庫版 2001年)を読んだら、無性に「賢治」に会い…

小川・成田編『世界史の考え方』

この4月から高校の授業科目が模様替えされます。国語の新科目「論理国語」をめぐっては、文学の扱いについて、いろいろと反響を呼びました。社会(地理歴史)の方は、長らく日本史と世界史の二本立てで進んできた「歴史」の授業に、新たに「歴史総合」という…

暉峻淑子『対話する社会へ』

「対話が続いている間は殴り合いは起こらない」というドイツの言葉があるそうです。なるほどと思います。この言葉を心に留めた筆者は、やがて「戦争・暴力の反対語は、平和ではなく対話だ」と考えるに至ります。平穏な日常を下支えているのは、暴力的な衝突…

O.ファイジズ『ナターシャの踊り』

上下巻合わせて800頁を超える力作。原著は2002年刊行ですが、日本語訳が出たのは昨年2021年8月です。訳者の鳥山さんによれば、途中から巽さんと中野さんの二人に応援を頼んだとのことで、よくぞあきらめずに(抄訳にせずに)最後まで訳しとおしてくれたと、…

『文読む月日』7

今日は短く。 トルストイの『文読む月日』の3月27日の欄を見ていて、一昨日の「ヤジ排除訴訟」判決のことを連想しました。改めて、原告の二人と弁護団、関係者、そして、当たり前の判決を出してくれた裁判長に、心から敬意を表します。 3月27日… (四)…人び…

『戦争は女の顔をしていない』

NHKの「100分de名著」のシリーズでも取り上げられていた、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』が、再び読まれているという話を知りました。番組の講師役だった沼野恭子さんは毎日新聞の取材を受けて、「アレクシエービッチ氏は…

歴史は何の役に立つのか?

明日は3月11日。 あの日の夜、真っ暗になった道を灯りがひとつ、またひとつと、学校に向かってきて、最後の生徒を送り出してから慌てて自宅に戻ると、家の中は無茶苦茶になっていましたが、家族は無事でいてくれました。津波や原発のことを知ったのはその後…

『現代ウクライナ短編集』

藤井悦子さんとオリガ・ホメンコさんの共編訳による『現代ウクライナ短編集』は、元の版が1997年刊で、1980年代から90年代の作品を集めたものです。60代以上の人にとっては自身の若い頃を重ねて「一昔前」くらいの感覚で読めたとしても、30代以下の人にとっ…

『文読む月日』6

アベシンゾー氏のことを書くと(あと橋下氏もそうですが)、罵詈雑言としか思われません(もちろんそれはあるのですが)。しかし、毎日ウクライナの映像を見ていると、この侵攻(戦争)を指示する人間と「同じ未来を見ている」などと発言した人物を、なぜこ…

片山ふえ『オリガと巨匠たち』

片山ふえさんの『オリガと巨匠たち――私のウクライナ紀行』(未知谷 2010年)を読みました。副題にあるとおり、片山さんの西ウクライナの旅日記なのですが、案内人のオリガ・ペトローワさんをはじめ道中で出会うウクライナの人々の人生と時々の風景がみずみず…

毎日新聞150年に寄せて

昨日毎日新聞は創刊150年を迎えたそうです。1872(明治5)年2月21日、東京で最初の日刊紙として「東京日日新聞」第1号が発刊されたのが最初ということです。が、調べてみると、まだ旧暦の時代だったので今の暦で言えば3月29日のようなのです。まあ気にしない…

真野森作『ルポ プーチンの戦争』

今日で(やっと)北京オリンピックも終わりです。カーリングって2週間ずっと競技をしてきたことになるんですね。本当に本当にお疲れ様。あと一息です。 しかし、終わったとたんに世界が望んでいないことが現実化するかもしれません。非常に心配です。 『ルポ…

15のとき

皇室スキャンダルに加担するようで嫌なのですが、去年の3月、北九州市の「第12回子どもノンフィクション文学賞」の佳作に選ばれた秋篠宮悠仁さんの作文に、すでに発表されていた他の文章と酷似する箇所があると指摘されています。誰が気がついたのか知りませ…

O.ホメンコ『ウクライナから愛をこめて』

著者のオリガ・ホメンコさんは東京大学の大学院に留学したことがあり、現在はキエフの大学で日本の歴史を教える親日家で、作家、ジャーナリスト、翻訳家だそうです。本書はウクライナ人の著者が日本語で書いたエッセイ集ですが、その温かな視線によって綴ら…

逃走と抵抗

2月9日付朝日新聞に「現代の逃走論」という記事があり、ヨシダナギさん(フォトグラファー)、今井紀明さん(NPO法人「D×P」理事長)、浅田彰さん(批評家 大学教授)の3人の話が載っています。 「逃げ」や「逃走」には否定的なニュアンスがついて回ります。…

芝健介『ヒトラー 虚像の独裁者』

菅直人・元首相が1月21日付Twitterで、橋下徹氏(ら)の弁舌の「巧みさ」をヒトラーにたとえたことが維新の怒りを買い、党として、なぜか菅元首相本人ではなく、立憲民主党に謝罪・撤回要求をするという珍妙なことが起こっています。世間の耳目を引き立憲民…

清水透『ラテンアメリカ五〇〇年』を読んで

最初に書いておくと、これは書評ではありません。清水さんの『ラテンアメリカ五〇〇年 歴史のトルソー』(岩波現代文庫 2017年)を読んで、何となく頭に浮かんだことを書き留めたものです。 本書は講義録がもとになっているようですが、小生のような門外漢に…

トルストイ『文読む月日』5

毎度引用している、北御門二郎さん訳のレフ・トルストイ『文読む月日』(ちくま文庫)の原題は「КРУГ ЧТЕНИЯ(クルーク・チテーニャ 読み物の輪)」という。最も古い訳本は、ロシア文学者・原久一郎さんによる1934年の『一日一善』で、この題名は、1880年代…

市場はいつか牙をむく

国交省の統計不正に関する識者のコメントを最近の朝日新聞から拾ってみた。 『アベノミクスによろしく』(集英社インターナショナル 2017年)の著者で弁護士の明石順平さん。 統計の基になる「生データ」を消しゴムで消す。まさか国の重要な統計でそんなこと…

国が何億かけても隠蔽したい事実

図書館に本を返しに行ったついでに本棚を眺めていて、野上忠興著『安倍晋三 沈黙の仮面 その血脈と生い立ちの秘密』(小学館 2015年)が目に留まった。今さらと思いながら、数ページめくって読んでみた。同情など一切する気はなかったが、読んでいて「気の毒…

ジョージ・オーウェルとの「遭遇」

最近ジョージ・オーウェルに二度「遭遇」した。 1回目は先週の水曜に本屋で。時間つぶしに小さな本屋に入ったところ、偶然『一杯のおいしい紅茶』というオーウェルのエッセイ集を見つけた。2020年刊の新版である。こんな小さな書店の本棚に並ぶなんて、こう…

「開戦記念日」と「愛国心」

昨日12月8日は「太平洋戦争開戦の日」。 作家の伊藤整は、80年前1941年のこの日、報せを聞いて昂奮し、夕刊を買うために新宿へ出かけた。「太平洋戦争日記」にはこう記されているという。……午後一時出かけると田中家の裏の辺でラジオが日米の戦争、ハワイの…

「マイクロアグレッション」のこと

「マイクロアグレッション Microaggression」――不勉強にも、初めて知った言葉だが、「あからさまな」差別とまではいかないが、曖昧で無意識かつ見えにくい(認識されずにいる)差別のことを包括する語らしい。 TBSラジオのSessionのパーソナリティーの荻上チ…

金平茂紀『筑紫哲也『NEWS23』とその時代』

金平さんの『筑紫哲也 『NEWS23』とその時代』(講談社)を読了した。楽しいことばかり書いてはなかったが、一気に読んだ。 先日来、金平さんのインタヴューのことや筑紫さんの最後の「多事争論」(先日の引用と金平さんの本書での引用がちがうのだが…)のこ…

2008年3月28日「多事争論」より

金平茂紀さんの『筑紫哲也NEWS23とその時代』を読んでいる。食卓上においたまま、食後に少しずつ読むことにして、昨日6章まできた。 「おかげ」でテレビをいっそう、というか、ほとんど見なくなった。ジャーナリストの筑紫さんが「越境」してその可能性に挑…

『海をあげる』 本屋大賞受賞のこと

上間陽子さんの『海をあげる』(筑摩書房)が「本屋大賞 2021年ノンフィクション本大賞」に選ばれたという。実際に本を読んだ者として、受賞を喜ばしいと思う反面、このあと「商業ベース」に乗せられていくことを思うと、少々複雑な思いもする。 早速、今朝…