ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

政治の裾野

 トニー・ブレア元英国首相の回想録を読み終えて、一国の首相を務めるには、相応の知識はもちろんのこと、不屈の闘志やバイタリティーなど、総じて普通の人間のレベルでは済まないパワーが必要なことを改めて思い知りました。それはおそらく首相とか政治家に限った話ではなく、組織の代表にはそういう人物が選ばれる下地というか裾野が英国にはあるということでしょう。もちろん権謀術数はあるでしょうけれど。
 翻って、この国はどうかと考えますと、残念ながら、現実には「そういう人物」が選ばれる構造になっていないといいますか、特に政治の世界では、選ぶ方にも選ばれる方にもおおよそふさわしからぬ事例ばかり目についてしまいます。今朝などは、X(ツィッター)を眺めたら、「岸田首相の長男・翔太郎氏」というトレンドが立っているので、何かと思ってのぞいてみると、翔太郎氏が議員会館地下のコンビニでチョコ菓子を買ったのを目撃したという(在京テレビ政治部記者の話を膨らませた)記事に対するコメント類なのですが、岸田さんを貶める(貶めたい)延長みたいな話です。ブレア首相も在任中は「難癖」レベルの誹謗中傷に年中晒されていたようですから、こういうのはわが国だけの特殊な現象ではないでしょうけれど、いくらなんでも首相の息子がお店でチョコを買ったら「「唖然」とする買い物」ってことはないでしょう。じゃあ、あなた、翔太郎氏が何を買ったら「唖然」としないんですか、と問い返したくもなります。首相としての岸田さんを擁護する気など1ミリもありませんが、政治への関心を「その程度」に差し向ける(貶める)効果しかない記事(内容)にトレンドを立てて過剰に反応している場合ではない気がします。
岸田首相の長男・翔太郎氏、ひっそり秘書活動に復帰も…議員会館のコンビニで「唖然」とする買い物 | Smart FLASH/スマフラ[光文社週刊誌]

 現下の政治のトップニュースは、自民党の裏金議員の「処分」をどう決着させるかですが、これほどの腐敗なのに真相(深層)は何も明らかになっていません。しかも「処分」と言っても、実質的にさして痛くもなさそうな内容ばかりで、たとえば「党員資格停止」など、時間がたてば元通りになるのは見え見えです。これでは、当該議員たちの多くにとっては、庶民的に言うと「一時停止違反」か何かで交通違反の反則切符を切られた程度の重さしかないでしょう(塩谷、世耕の両氏は怒ってるそうですが……)。国会でずいぶん時間を割いて「騒いだ」けれども、結局はこんなものです。この問題は、他の多くの人たちが言っているように、特別委員会などしかるべき調査機関を設置して別個に調査するのが筋で、国会審議は国民生活に直結する制度づくりや法案審議に時間を費やすべきです。

 国民一般の関心が他所に向けられているあいだにも、国会では重要案件の「審議」が「密かに」進められています。「密かに」というのは、こそこそして堂々としていないという意味ですが、ひどいなと思うのは、(筋違いにも)子育て支援の財源に(税金でなく)健康保険料をあてるという政府の方針です。しかも、国民の負担は増えないと言いながら、首相も大臣も、額がいくらになるか明確にしないのです。昨日の「地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会」(←長いですね)の大臣答弁などはかなりひどい内容です。buuさんが答弁を起こしてくれています。負担額がいくらになるのか、お答えしかねます、という押し問答を長々と繰り返したあげくの場面からですが、一部引用をお許しください。動画は3:31分頃からです。
https://twitter.com/buu34/status/1775442267345744054
【国会中継】衆院 地域・こども・デジタル特別委員会 子ども・子育て支援法改正案について質疑(2024年4月3日) - YouTube

山井和則(委員/立憲):……今日の日経新聞の社説を見て頂きたいんですが、今朝の社説「この試算で育児支援の議論は深まらない」、私が言ってるんじゃありません、日経新聞ですね。「支援のため、誰にどんな負担を求めるのか、その情報が示されなければ、制度の実像は見えてこないはずだ」と。「それなのに、子ども家庭庁が29日に公表した支援金制度による負担額の試算は「極めて限定的な内容だ」と。ちょっと念のため読み上げます「給付と負担を一体で見た時、子育て世帯にどんな受益がある制度であり、それが世帯所得によってどう変わるのか、支え手となる人達の負担は、単身や夫婦二人などの世帯類型や所得別にどうなるのか、こんな基本的な情報を、なぜ示さないのか、不思議でならない」となってるんですね。……<中略>……やっぱり、年収が200万か400万か600万か800万か1000万かの場合、850円、被保険者一人当たりの負担額はいくらになるのか、これ、知りたいの、当然だと思いますよね。自民党さんも知りたいですよね?これねぇホントに、それによって全然イメージが違うからね、……<中略>……これね、負担ですからね、国民の皆様に負担を強いる時に、平均的なイメージは、自分は分かっているけれど、高所得の方、低所得の方がいくらになるかは、(担当大臣が)私は理解してません、というのはね、それはやっぱり、当然、話にならないわけで。日経の社説でも、「これでは何か都合の悪い情報を隠しているとの批判を受けてもおかしくない。実質的な負担は生じないとの主張も国民の不信を高めかねない」ということなんですね。これ、委員長、私達は、建設的に前向きな、子育て支援の財源の議論をしたいと思ってるんですけど、一番国民が関心をもってる不安に思ってる負担がね、わかんないということでは、これ、今後ね、審議して行くにあたって、毎回これね、所得別の負担額出してくれ、って、こんな議論できませんから。言っちゃ悪いけど私も、(質問が始まってから)もう30分経ってますけどね、もっと中身の議論したいわけですよ、言っちゃ悪いけど。ハッキリ言って。でもこれはね、あのー、まず加藤大臣、お伺いします。出してもらえませんか、次の審議までに。やっぱこれね、繰り返し言いますよ、山井が言うんじゃないですよ、日経新聞さんが社説で言ってるんですから、それはね、多くの国民の素朴な感情ですよ。負担、自分の場合、いくら増えるの?って。せめて、それ示さないと、審議が深まらない。たとえばね、ラーメン食べられませんか?言われてね、額いくらですか?って言われて、それは言えませんとかね、値段によって、この制度いいか悪いかって、やっぱ思うじゃないですか。それをね、平均的なレベルは見せますけれど、このー、所得階層別には見せられませんと言うことでは、国民はね、喜んでいいのか、悲しんでいいのか、反対していいのか賛成していいのかも、わかんないわけですから、加藤大臣、次の審議までに、日経新聞も社説に言ってるわけですからね、所得階層別の負担額、出して頂けませんか?

加藤鮎子・子ども政策等担当大臣あのー先ほど、えーまぁ、個別、のけいさ……、その所得が低い方、高い方との、あのー、事をまったく把握していない、というような、あのー、ご指摘のように受け止めましたけれども、そういう事では、ありませんで、えー、あのー、計算方法や、把握、あのー、計算方法・考え方は、私自身把握しておりますし、あと、お尋ねの年収別の拠出額については、そのぉ、具体的なキチッとした数字で出すということは、数年後の賃金水準等によることから、えー、現時点で、えー、一概に申し上げることは出来ないという事を申し上げてございます。えぇ、他方で、被用者保険、に関する支援金額は、あー、先ほども申し上げましたけれども、所得、負担能力に比例する、ものでございまして、どの制度においても、拠出額は令和3年度の医療保険料額の4~5%とぉ見込まれますので、あのー、簡単にこう、区切って、えーそれに対していくらと、自分自身が当てはまらないケースで、お示しをするよりも、お一人お一人が、ご自身の、医療保険、料額とを見た上で、えー、たとえばぁ、4%から5%をかけて、イメージをわかせて頂く方が、ご自身に引き寄せたイメージを、わかせて頂けるものと、このように、考えてございます。

山井:いや、私、こんな法案聞いたことないですよ、負担額はご自身で計算して下さいってね。そしたら法案審議成り立たないじゃないですか。負担を求めるのは政府なわけですよ?そしたらたとえば、この健康組合、平均850円ですけれど、高所得者によっては2倍の、1700円を上回ることは、あるんですか、ないんですか?

加藤あのー、通告を受けておりませんこともありますし、個別のケースについてはお答えを控えさせて頂きます。
 ……<中略>……
山井:いくらなのか分かりませんと言うのはね、これはやっぱね法案審議として成り立たないんですよ、極端な言い方したら私達もね、賛成反対が決めようがないですよ?いくらかが分からないんだから。まだ100歩譲って、3年後に分かりますって言うんだったらいいけど、3年後も給与明細見ても永遠に分かんないんでしょ?将来的にね?そんないい加減な制度、入れるなってことになっちゃいますよ?これ、ハッキリ言って。これね、ぜひ委員長、ま、キツク言えばね、これ、ホント、政府による審議拒否だと思いますよ?繰り返し言います、日経新聞の社説で「これでは議論が深まらない」って言ってるんだから、ぜひ次の委員会する時には、こういう議論でね、30分も時間使わなくていいように、所得階層別ではいくらです、という資料を出して、次の、先の議論に行きたいと思うんですけど、委員長いかがですか?(後日理事会協議)……

 途中、子どもとかけ算の答え合わせをしているような問答のシーンが長くて閉口しますが、「個別のケースについてはお答えを控えます」というセリフを護符のように繰り返されては、こちらは「どんぶり勘定」さえできません。加藤大臣の答弁を見ていると、今のこの国で国務大臣を務めるのに必要なのは、相応の知識ではなく、時間潰しの技術、官僚の作文を執拗に繰り返すことのできる「不屈の闘志?」であるように感じます(あとは「親の七光り」でしょうか)。比較するだけ無駄ですが、この国からブレアさんのような首相が現れるのは当面無理、それどころか、かなり後退してしまっている感じさえします。

 しかし、状況が人をつくるのだとすれば、このままでは済まないでしょう。一昨日病院に行ったら先生にダメだし?されてしまったので、生きているあいだに「そんなシーン」に遭遇できるかどうかわからなくなってきましたが(笑)、いろいろなところで活躍している若い人たちを見ていると、「政治不信」だの何だのと、いくら「諦念」を誘導されても、希望を捨てる必要はないと思っています。


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