ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

ロシアの良心たち

 AFP BB News にロシアで反戦の声を上げる人たちの記事がいくつかあります。
 5月22日付の記事で紹介さている画家のエレーナ・オシポワさんは、独ソ戦ナチス・ドイツによって2年半近く続いた「レニングラード包囲戦」を経験した女性で、これまでウクライナ侵攻に抗議するプラカードを掲げ、何度も警察に拘束されてきました。日本でも名前は知らなくとも、動画や写真は見て「ああ、あの人だ」と思う方は少なくないと思います。
https://twitter.com/olliecarroll/status/1502159841631997960
反戦活動家のロシアの高齢女性、警察に連行される。レニングラード包囲戦の生存者として声を上げた | ハフポスト NEWS

AFPの記事にはこうあります。

……アパートの部屋にある自作のプラカードには、反戦と反政権を掲げるメッセージがあふれている。「私たちは子どもたちにどんな世界を残していくのか──それがプラカードに込める思いです」
 他にも「使い捨ての兵士にされるのはごめんだ」、「妻よ、母よ、戦争を止めよう」、「私たちは帝国主義による挑発的な政治の犠牲者だ」といった言葉が書かれたポスターが並ぶ。
「私は声を上げ続けてきました。沈黙は、自分の国で起きていることに賛成するのと同じだからです」とオシポワさんは言う。「だから、私は抗議に行くのです」
 何度も拘束されたせいで警察にすっかり顔を覚えられ、最近では連行されずにまっすぐ家に帰されることもあるという。
「とうの昔に怖くなくなりました」とオシポワさん。「自分の国で恐れてはいけません。自分の国を愛するなら、その国の責任は自分にあると思うべきです」

「沈黙は賛成と同じ」 ロシアで声を上げる76歳の反戦画家 写真8枚 国際ニュース:AFPBB News

 ウクライナ侵攻に反対の声を上げる「一握りしかいない」ロシア正教会の聖職者の一人、ゲオルギー・エデリシュテイン司祭と友人のイオアン・ブルディン司祭の話は5月4日付の記事です(年齢は省きます)。

……2月24日にロシアが軍事行動を開始して以来、ロシア正教会の最高指導者キリル総主教(Patriarch Kirill)は好戦的な説教を展開。ロシアとウクライナの歴史的な一体性を損なおうとする「敵」を制圧するため、当局を中心に「結集」するよう国民に呼び掛けている。
……
侵攻翌日の2月25日、エデリシュテイン司祭は、友人イオアン・ブルディン(Ioann Burdin)司祭が記した書簡に署名した。そこにはこう書かれていた。
ウクライナ住民の血は、ロシアの支配者や作戦命令を実行する兵士の手をぬらすだけではない。戦争を承認し、あるいは沈黙を守っている私たち一人ひとりの手をぬらしている」
 書簡はコストロマ州カラバノボ(Karabanovo)村にあるブルディン司祭の教区教会ウェブサイトに掲載されたが、その後、削除された。コストロマの府主教は、ウクライナ軍事作戦に反対している司祭は160人中2人だけだとして、書簡を非難した。
 だが、ブルディン司祭は批判をやめなかった。
 3月6日の礼拝では、戦闘で命が失われていることについて説教した。
 その日のうちに捜査当局から呼び出しを受け、尋問された。3月10日には、ロシア軍の「信用を失墜させた」罪で3万5000ルーブル(約6万3000円)の罰金を科された。再犯すれば3年以下の禁錮刑が科される可能性がある。

 それでもブルディン司祭は軍事作戦を非難する。州都コストロマ近郊の自宅で「私にとって『汝、殺すなかれ』という聖書の戒めは、無条件のものだ」とAFPに話した。
 ブルディン司祭によれば、プロパガンダに影響されやすい聖職者も多く、制裁や訴追の恐れもあり、ウクライナ侵攻に反対する人はほとんどいない。メッセージアプリのテレグラム(Telegram)に自身のチャンネルを持つブルディン司祭も、警察に監視されている。
 エデリシュテイン司祭は、ブルディン司祭について「私より勇気がある。私はもう引退している」と語った。……

ロシア正教会司祭、ウクライナ侵攻を批判 投獄も覚悟 写真11枚 国際ニュース:AFPBB News

 4月19日付の記事には、ウクライナや平和をテーマにした壁画を描くウラジーミル・オフチニコフさんの話が紹介されています(年齢は省きます)。

 元エンジニア、ウラジーミル・オフチニコフ(Vladimir Ovchinnikov)さんは、この小さな町で何十年も前から建物の壁に絵を描いてきた。だが、ロシアがウクライナに侵攻して以来、ウクライナや平和をテーマにした絵を描くと塗りつぶされるようになった。
 最近、近郊の村の以前は店舗だった建物に立ち寄ったところ、壁に描いた青と黄のウクライナ国旗が白いペンキで塗りつぶされているのを見つけた。
 鉛筆を取り出し、その上にハトの絵を描き始めた。すると、住民の男性がやって来て「警察を呼ぶぞ」と言われたという。
 だが、オフチニコフさんは絵を描く試みを続けることに恐怖は抱いていない。「この年になると、何も怖くない」と語った。

 ボロフスクでは、ウクライナ国旗の色の服を身に着けた少女の頭上に爆弾が三つある絵を描き、3万5000ルーブル(約5万4000円)の罰金を科された。この絵も白く塗りつぶされたが、オフチニコフさんはその上に1羽のハトを描いた。
 罰金が科されたオフチニコフさんに、150人以上から寄付が集まった。
 オフチニコフさんは、ボロフスク周辺では知られた存在だ。
 1942年にナチス・ドイツ(Nazi)から町が解放されたことを記念して描いた絵の1枚は、町内の徴兵事務所の壁に飾られている。
 最近手掛けた壁画の一つでは、ロシアとウクライナの国旗の色のリボンを髪に飾り、手をつないだ2人の女性を描いた。この絵は今のところは塗りつぶされていない。
「(ウクライナとの)友情は壊れてしまった。こんな時代もあったのにと懐かしむことしかできない」とオフチニコフさんは言う。
……
 オフチニコフさんは、ロシア社会が新たに「分断」されつつあり、「非常に悪い方向」に進みかねないと懸念している。一方で、平和を促進する芸術の力を信じており、これからも絵を描き続けるつもりだ。
「私が絵を描くのは、自分なりの理解を示すため。そして多分、他の人に影響を与えるためでもある」と話す。
「政治に無関心な人」「何が起きているかを知らず、ただテレビの前に座っている人のために」

塗りつぶされても恐れない、平和の壁画描く画家 ロシア 写真8枚 国際ニュース:AFPBB News

 フランスのポール・ヴァレリーは、1928年に刊行されたある本の著者に寄せた序文で、こう書いています。

……我々は昔も今も、互いに、商業や戦争、時の政治判断あるいは主義主張としての政治、すなわち相手を敵だと考え、敵なら軽蔑しなければならないということが大事な意味を持つ諸関係を通してしか、知らないということだ。
 この種の関係はどうしても表面的になる。そういう関係なら相手の人間性の深奥について完全に無知であっても構わないということになるが、そればかりでなく、無知であることが要求されるのだ。内奥の生活が分かっていて、相手の感受性が自分の感受性をもって推し測れるようになったら、相手をだましたり、怒らせたり、排除したりすることは大変心苦しいし、ほとんど不可能である。……

(恒川邦夫訳「東洋と西洋」、『精神の危機』所収 307-308頁)

 彼ら彼女らは、無知に抗し、感受性を取り戻すロシアの良心だと思います。




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