ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

テキサス州の小学校銃乱射事件

 銃社会アメリカの「病理」と言われる惨劇がまた起きました。5月24日、米国テキサス州の小学校で銃乱射事件が起き、多数の子どもや教員が巻き込まれました。ニューヨーク州のスーパーで10人が死亡した銃による凶行から、まだわずか1週間のことです。

 翌25日の記者会見で、事件の説明をしたアボット州知事共和党)が銃の規制に一切触れなかったことから、会場にいたオルーク元下院議員(民主党 11月の州知事選でアボット氏の対立候補と目される)から「(知事は事件が)予測出来なかったと言ったが、十分に予測できた」と詰め寄られる一幕もあったようです。
 以下、5月26日付朝日新聞記事からの引用です。

「これはあなたの責任だ」 米銃撃事件の会見、知事に詰め寄ったのは:朝日新聞デジタル

……アボット氏の発言が一段落したタイミングで、会場にいたオルーク氏は舞台前まで歩きながら「知事、言いたいことがある」「(事件は)予測出来なかったと言ったが、十分に予測できた」などと発言。アボット氏は直接答えなかったが、舞台上の関係者からは「この場に不適切だ」などの批判が上がり、オルーク氏は講堂から退場させられた。

 退場しながら、オルーク氏は「これはあなたの責任だ。何か違うことをすると選択するまで、あなたの責任だ」とアボット氏に向けて発言。会場の外では報道陣に「この5年間で、米国史上で最もひどい乱射事件のうちの五つが、テキサス州で起きている。そのたびに彼はこのような会見を開くだけだ」と批判した。
 そのうえで、アボット氏について「唯一したことは、銃所持を容易にしたことだ」と指摘。27日からテキサス州ヒューストンで開かれる全米ライフル協会(NRA)の総会でアボット氏らが登壇予定であることなどが、その姿勢の表れだとした。

 オルーク氏が退場した後、アボット氏は会見で銃規制について問われたが、「18歳が(アサルトウェポンなどの)長銃を購入できるようになったのは60年以上前からだ」と主張。「他人を撃つような人間には、メンタルヘルスの問題がある」「私は学校を安全にするために17本の法案に署名してきた」などと述べ、銃規制の必要性を暗に否定した。……


 アボット州知事が銃規制反対論者の「代表格」ということもないでしょうが、世界人口の5%に満たない国に、世界の個人が所有する銃の半分近くが集中し、世界で起こる銃乱射事件の3分の1近くの現場になっている国(余録:「世界人口の5%に満たない国が… | 毎日新聞)の、さらに事件頻度の高い州で、繰り返される悲劇の原因を、銃撃犯のメンタルの問題という一般論に帰するのでは、「無策」と言われてもしかたありません。オルーク氏の言動が選挙目当てだとしても、この状況で銃規制に後ろ向きな発言をするアボット氏の神経には、小生も「あなたのせいだ」と言いたくなります。

 事件のあった日、プロバスケットボールゴールデンステート・ウォーリアーズのスティーヴ・カー監督は試合前の会見で、銃規制を拒否する議員に怒りをあらわにしましたが、これは日本のテレビでも取り上げられていて、小生も目にしました。
「もううんざりだ」相次ぐ乱射事件に、NBAウォーリアーズのカー監督が怒りを爆発(ロイター) - Yahoo!ニュース
 
 著名人のSNSの反応をまとめた記事もありました。
米テキサス州の小学校での銃乱射事件、セレブや著名人が反応 

 事件の直後でもあり、米国世論の大半は銃規制の強化を支持すると思われます。しかし、他方で、最近の米国では、銃の購入件数がむしろ増加しているという指摘があります。5月27日付東洋経済ONLINE上のブルームバーグの記事によれば、銃乱射事件は銃の需要を抑えるのではなく、逆に、実際のデータでは、議会が何らかの銃規制措置に動く前に入手しておこうと考える人々によって、購入件数が増え、こうした動きを熟知する投資家たちによって、事件翌日の25日の米株式市場では、銃器メーカーの株価が上昇したというのです。
銃乱射事件多発を受けて米市民は銃購入ラッシュ | ブルームバーグ | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

 アメリカでは、建国以来自衛のために武装するのは当然のことで、銃を持つことは言論・表現の自由などと同じ基本的人権だという頑迷なる理屈がずっと通されてきました。自分のことは自分で守るという精神は結構ですが、大草原でポツンと一軒家に暮らしているわけではないのですから、自分を守るなら、敵に囲まれるよりも、周りと友好関係にある方が、平和と共生の理にかなっています。もし、武器を手にしながら握手を求めたら、相手は当然訝るでしょうし、威嚇すればますます不信感が募るでしょう。武器を持てば持つほど、身が危険になっていくとしたら、逆効果です。これは、合衆国建国のはるか以前に、北アメリカの先住民が指摘した話に重なります。銃頼みの社会建設は、初発の時点ですでに間違っていたのだと思います。以下は、学校で使った昔の授業資料の一節です。

 イギリスからやってきた「開拓」者がアメリ東海岸に「入植」し、のちにヴァージニアと命名された植民地建設が始まったのは1607年のこととされていますが、それから2年後の1609年のある日、食料徴発に現れたイギリス人の指導者ジョン・スミスに対し、先住民の首長ポーハタンは次のように述べたといいます。

 キャプテン・スミス殿。あなたがこの地に来たことに、私は疑問をもっている。私は親切にしてあげたいのだが、この疑問があるので、それほど親切に救いの手をさしのべるわけにはいかないのだ。というのは、あなたがこの土地に来たのは、交易のためではなく、私の国の人民を侵し、私の国をとってしまうためだ、と多くの人がいっているからだ。この人たちがあなたにトウモロコシをもって来ないのは、あなたがこの通り部下に武装させているのを見ているからだ。この恐怖を取り払って、われわれを元気づけるよう、武器を船においていらっしゃい。ここでは武器はいらない。われわれはみな友人なのだから…。
(富田虎男『アメリカ・インディアンの歴史』 雄山閣 45頁)

 アメリカで銃犯罪が繰り返され、銃がなければ身を守れないからと、ますます銃が購入されて業者がほくそ笑む様は、ウクライナで戦争が長引いて、ますます米国他がウクライナの支援に兵器を送り、武器商人らが儲かる構図と同じです。 それはともかく、Black Lives Matter や MeToo で人種差別や性暴力の撤廃に声を上げてきたアメリカ市民が、銃規制だけは無理だとあきらめる理由はないと思います。

<追記>
事件が起こったテキサス州のヒューストンで、5月27日から29日まで開催される全米ライフル協会(NRA)の年次総会で、公演を予定していたミュージシャンが出演を取りやめると発表したとのこと。

CNN.co.jp : 全米ライフル協会総会、ミュージシャンが相次ぎ出演キャンセル - (1/2)



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