ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

IRの幻想

 今日は短く。
 IR(カジノを含む統合型リゾート)誘致に手を挙げかけた自治体は当初いくつかありましたが、結局先月末に申請したのは大阪府・市と長崎県の2つだけとなり、北海道や横浜、和歌山などは「戦線離脱」したかたちです。3カ所程度を想定していた政府(国土交通省)には落胆があるようですが、今や、安倍政権が「観光立国」の起爆剤にしようともくろんでいた2014年当時とはかけ離れた状況にあります。

 鳥畑与一さん(国際金融論)がインタヴューで「カジノをするために世界中から富裕層が集まる世界はもう消えている」と言っています。IRは清算しなければならない安倍政権の負の遺産のひとつだと思います。以下、毎日新聞5月20日付記事からの部分引用です。聞き手は野田樹・記者です。

「富裕層はもう集まらない」 専門家が語る日本型カジノの危うさ | 毎日新聞

 IRは、収益エンジンのカジノが巨大な利益を生み出し、その利益で世界最高水準のMICE(マイス、国際会議場や展示場の施設)を運営することで日本の国際競争力を飛躍的に向上させるのが当初の目的だった。しかし、既にその前提は崩壊している。
 例えば、大阪は当初の計画で10万平方メートル以上のMICEの整備を挙げていたが、事業者側への配慮から規模を縮小し、2万平方メートルでの開業を認めた。段階的に10万平方メートル以上に整備するよう求めているが、日本で一番大きい展示施設は東京ビッグサイトの約11万5000平方メートル。世界に対抗するMICEを作るためにカジノが必要だとしていた当初の大義名分はどこにいったのか。収益エンジンのカジノがエンストを起こしているため、制度設計自体が崩れ去っている。

 状況の変化は、米国のカジノ市場で如実に表れている。2021年の粗利益は過去最高の530億ドルになったとしているが、内訳をみると、コロナ禍前(2019年)から急増したスポーツ賭博(366%増)や「iゲーミング」(614%増)などオンラインカジノの貢献が大きい。米国では地上型カジノ市場の飽和が進み、オンラインへの移行が加速している。マカオ市場も富裕層をカジノに招待する仲介業者への規制強化で急落している。カジノをするために世界中から富裕層が集まり、お金を落としてくれる世界はもう消えている。それなのに、日本はこの状況下でも地上型カジノの開業を目指している。収益確保のため、今後オンラインカジノも解禁すべきだという話になりかねないと危惧している。オンラインへ移行すれば、設備投資や雇用が減り、地域への恩恵は小さくなるだろう。

 大阪も長崎も、どちらの計画もカジノ中心になっており、日本の観光や国際競争力を引き上げようとする視点が乏しいように思う。コロナ禍で大手カジノ企業が日本進出から次々と撤退するなか、長崎では大規模IRの経営実績が乏しい事業者が選ばれ、運営能力や資金調達の確実性に懸念が出ている。大阪は1兆円規模の投資だが、事業者のMGMリゾーツ・インターナショナル(米国)の出資は全体の2割ほど。あとは、共同事業者のオリックスや少数株主の地元企業が出資し、日本の大手銀行が融資する。国が最初にIRの絵を描いた時は、海外資本が日本に巨額の投資をしてくれるという話だったが、絵に描いた餅だった。

 カジノには「コンプ」と呼ばれるサービスがある。客へのポイント還元のようなもので、航空券や食事、ホテルの宿泊が無料になったりする。日本でも温泉地などの大型ホテルが屋内でさまざまなサービスを提供して宿泊客を囲い込もうとしているが、そのイメージに近い。ギャンブルをすればするほど還元される仕組みで、米国では利益の3割ほどを還元している。コンプの活用は大阪、長崎の計画にも盛り込まれているが、IRの中でしか利用できなければ、周辺地域への波及効果は小さくなる。本来は地元で使われるはずだった観光消費がカジノに吸い取られるだけで、IR周辺ではマイナスの経済効果が発生する恐れがある。一方、自治体はギャンブル依存症や治安対策の社会的コストもかかる。(大阪の計画では年間1兆円超、長崎では約3300億円の経済効果があるとされているが)大きな経済波及効果があるというのは、幻想ではないか。

 国の認定を受けて開業にこぎ着けても、期待する経済効果が生み出せるかは非常に疑問だ。一方で地域社会はカジノを抱え込まないといけない。治安対策などの社会的コストはずっとのしかかってくる。事業者が撤退する可能性もあり、自治体は今後も非常にリスクを背負った選択を迫られることになるが、マイナス面も含めた合理的な選択をしているようには思えない。

 山口県阿武町の給付金誤入金事件で逮捕された人は、口座に入金された4600万円以上の大金をオンライン・ギャンブルでつかってしまったという話です。JRA日本中央競馬会)も、このコロナ禍に売り上げの9割は電話・インターネットだといいます(今度、仙台に馬券販売をしない競馬の観戦施設をつくる計画があるようです。大画面を見ながら投票は各自スマホでどうぞ、ということでしょうか)。
仙台に競馬観戦施設 JRA、中心商店街に開設検討 | 河北新報オンラインニュース / ONLINE NEWS

 土地(賭場)がなくてもギャンブルが成立してしまう時代に、なおも土地整備に執着する理由は、私的な(公的な、ではなく)利益とメンツ以外にはありません。IRは「戦争」ではありませんが、引き際を誤ってこのまま税金を投入すれば、「国破れて山河あり」のごとく、跡地に寒風が吹きすさぶことになるのではと心配です。 





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