ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

イデオロギーと気まぐれ

 イデオロギーという言葉は今でもあまりしっくりする言葉ではないのですが、初めてこの言葉を目にしたのは、たぶん大学に入って、上級生が今年の目標を「イデオロギーを乗り越えて卒業すること」と答えた(書いてあった)何かの記事を見たときかなと思います。?? その後、たぶん授業だと思いますが、マルクスの『ドイツ・イデオロギー』を読むはめになり(訳文がよくなくて悲劇でした 笑)、本の内容ともども、ますます意味不明となり、この語に嫌悪感というか恐怖感さえ覚えるようになりました。当時の辞書の類には「観念形態」などと書いてあったと記憶していますが、自分の日常生活とはかけ離れた別世界の言葉だと思っていました。
 その後「共産主義イデオロギー」とか「天皇制イデオロギー」とか……冒頭にくっつく言葉から類推して、意味するところがおぼろげに見えてきました。最近の辞書類は昔に比べるとずっと丁寧で――曰く、「社会集団や社会的立場(国家・階級・党派・性別など)において思想・行動や生活の仕方を根底的に制約している観念・信条の体系」とあります。当人の発想や行動を「根底的に制約」している点がポイントだと思うのですが、一般的に言われる思想や信条などよりは、かなり政治的意味合いの濃い、共同性(幻想)の強い思考パターンと解釈しています。それゆえ、他人がこの語を使った文章を引用する場合はともかく、自らが書く文章でこの語を得意になって使う気にはなれませんし、他人に向けて、この人の発想はイデオロギーにとらわれているなどと書く場合は(極めてレアですが)なおさらそう思います。

 しかしな、と思います。高市首相の場合はどうなのだろうか、と。保守色の強い政治家と評されることが多い人で、統一教会の家族観の影響を受けているという推測もできますが、イデオロギー色が強い人とまで言えるのかどうか、少しためらいがあります。イデオロギーに言動が制約されているかというと、わりと実利的に動いている面が多々あるからです。この場合の「実利的」というのは、自己都合で自分に有利かどうか、支持層に受けるかどうかを勘案するといったほどの意味です。ふつう実利とイデオロギーが自己の内部で対立した場合、どちらを(どの程度の割合で)とるかで、その人の性格(イデオロギー性)がわかりそうですが、高市の場合、二者択一というより、実利性がまさっているがゆえにイデオロギーを取るという妙なねじれもあります。平たく言って、「柔軟」と言えば柔軟ですが、悪く言えば「いいかげん」、とても原理原則に忠実で、それに反することを厭う人間という感じはしません。

 昨日の衆院予算委員会で高市首相は、旧姓の通称使用の法制化に関し、パスポートや運転免許証などに旧姓を記載する場合に「(結婚後の戸籍名との)併記を求める検討が必要」と述べたと報じられました。先月には旧姓のみを記載する「旧姓単記」を検討するよう指示すると言っていたはずなので、これは何か「後退」している感じがしますが、高市曰く「特に大きな方針変更を行ったということではない」そうです。えー!? 単記併記とすることは「変更」ではないのか? どちらも通称使用の拡大の延長上の話で、問題の解決にならないという意味では、「変更なし」ですけれど(笑)。いずれにしても中途半端です。
首相、パスポートに旧姓「併記検討必要」 単記で指示も「変更なし」 | 毎日新聞

 2月27日の衆院予算委員会でも、高市首相は「(通称使用により)不便や不利益を感じる方をさらに減らすことができる」と述べてました。「減らす」とはゼロにする気はない、つまりは根本的に解決する気はないという意思表明です。フリーアナウンサーの長野智子さんはラジオでこう言っていたそうです。東スポの記事からの引用です。
長野智子 高市首相〝旧姓使用〟法制化に反発「無理筋すぎる」「海外で相当トラブルになる」 | 東スポWEB

 高市首相はこの日の衆院予算委員会で、「(旧姓の)単記も可能とする取り組みが進めば、婚姻などによる氏の変更に不便や不利益を感じる方をさらに減らすことができる」と旧姓の通称使用の意義を強調。その上で夫婦同姓の原則を維持する考えを示し、法案提出に向け「必要な検討をしっかり進めていく」と述べた。
 このニュースに長野は「ちょっとね、無理筋すぎるなっていうところが結構ありますよね」と切り捨てた。
 理由について「これパスポートには併記できますよみたいな話なんですけど、航空券とかビザは戸籍名、あとはパスポートでは旧姓も表記できるけれど、ICチップは戸籍名だからできないとか」と具体例を挙げ「海外で特にすごくね相当これはトラブルになると思うし、なにせ手続きわいざつで事務負担が高そう。これ本気でやるんですかね?」と首を傾げた。
 コメンテーターの畠山理仁氏が「選択制(選択的夫婦別姓)にした方がシンプルだと思いますけど」と感想を述べると、長野も「いや、本当なんですよ」と強く賛同していた。

 こっちはOKだけど、あっちはダメ。基準が万人に明確ならまだしも、これでは結局場合分けを覚えるしかありません。官僚には得意とする芸当かもしれませんが、外国を含む実務の現場を混乱させる悪手でしょう。しかも、先週までは「単記」と言っていたのに、週が替わったら「併記」では、制度設計にかかわる側も、えーっ!? と思うでしょう。こんな「気まぐれ」変更を「変更なし」と涼しい顔で通そうとするのは、今月に発表された内閣支持率が上がっていたこととおそらく関係があるように思います。イデオロギーとは相性がよくないはずの「気まぐれ」――それを答弁で口にして平然としている――これは本人が王か独裁者気取りということでしょうか。世論調査で「支持する」と回答した人たち、調子に乗せすぎですよ。
【速報】高市内閣の支持率71.8% 前回から1.9ポイント上昇 JNN世論調査(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース




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