ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

阿武町の給付金誤入事件のこと

 山口県阿武町で起きた新型コロナ対策の臨時特別給付金の誤入金の件は、使い込んだとされる人が5月18日に逮捕されましたが、偶発事の積み重なりがこういう事件に発展することには唖然とします。12ヶ月くらい前までは、平穏な日常を生きていたはずの当事者たちには、もっとその思いが強いでしょう。
 しかし、そもそもなぜ「誤入金」などという事態が起こったのか、肝心のスタートの部分の報道が変に曖昧で、釈然としません。テレビなどでは、逮捕された人が、何月何日どこにいくら送金したか、時系列を追って実に詳しく報じられています。それに比べると、あまりに落差が大きい気がします。何か意図でもあるのではとさえ思ってしまいます。

 誤入金の経緯に最初に触れたのは、5月7日付の「週刊女性プライム」でしょうか。担当した4月に採用になったばかりの新人職員がミスをしたとして、こう書いてあります。

《山口・阿武町 給付金4630万円誤送金》役場関係者から有力情報!返還拒否する“疑惑の移住者”を直撃 (2022年5月7日) - エキサイトニュース

そもそも、なぜこんな間違いが起きてしまったのか?
「新人職員が振込先の住民リストが入ったフロッピーディスクと町長の決済印が押された振込依頼書を銀行に渡したんですが、その依頼書に誤記載があったようです。振り込みが終了した段階で、山口銀行の職員がおかしいのではないかと役場に指摘して、ようやくミスが発覚しました」
 もはや見ることのなくなった昭和の遺産『フロッピーディスク』を使用していることも注目されたが、山口銀行側の希望だという。
……これが誤送金の一連の流れなのだが、ある町民からはこんな指摘も。
「ミスをした新人職員を責めるのはおかしい。そもそも、上司が二重、三重にチェックしていない役場の体制自体があり得ないでしょ。ベテラン女性職員がやっていたから、慣れっこになっていたんじゃないか。新人職員は責任を相当感じていて夜も眠れず、精神的に追い詰められている状態。妻子もいるのに、かわいそうだ」

 フラッシュメモリとかならともかく(それでも疑問符はつきますが)、今時フロッピーディスクでデータをやりとりする銀行があるというのがちょっと信じがたい話です。まあしかし、方法が古いからミスがあってもしょうがないとは言えません。もっと具体的な経緯に触れた報道はないのだろうかと思っていたところ、昨日(5月20日付)毎日新聞が次のように報じました。

阿武町の4630万円誤入金 なぜ容疑者が振込先だったのか | 毎日新聞

……町によると、給付手続きは本来、給付する463世帯分のデータを記録したフロッピーディスクを銀行に届ければ手続きは完了だったが、担当職員の操作ミスで通常は出ない振込依頼書が印刷された。依頼書は、金融機関コードの順に並んだ申請世帯のリストの1番目の名前だけが印刷される仕組みで、田口容疑者に4630万円を振り込む依頼書が銀行に提出された。
 金融機関コードとは、国内の金融機関に割り当てられた4桁の番号で、振り込み手続きなどで金融機関を指定する時に使われる。大まかに、メガバンクみずほ銀行は0001)、都市銀行地方銀行(山口銀行は0170)などの順に番号が振られている。町は、申請世帯の口座の多くが地方銀行とみられる中、約1年半前に町外から移住してきた田口容疑者の口座がメガバンクだったため、1番目になったとみている。 

 しかし、この記事を書いた記者たちも、容疑者の彼が名簿のトップにきたことはわかっても、なるほど、だから誤入金に至ったのかと、腑に落ちるわけではないと思います。かりに町から提出されたデータに誤りがあったとしても、銀行にとって、自治体の給付金業務を請け負うのは今回が初めてではないでしょうし、申請世帯のリストが1件プラスその他大勢(空白?)で、その「その他大勢」に支給されるべき総額をリストの最初の世帯に振り込むような内容だったら、誰が見ても不自然に思うでしょう。先方からの依頼内容に銀行は原則として口を出せないとしても、一切疑義を挟めないかといったら、近年の特殊詐欺への対応からして、そんなことはありません。実際、この銀行の職員が後で気づいてすぐに役場に連絡しているのですから、なぜそれが、そのときにはできなかったのか。こういう場合、銀行側は複数名で点検したりはしないのか。この面で銀行の「過失」も相当大きいように思います。

 そう思うのは、大概の人が銀行で大金を下ろしたり、他に入金振込をすると、体験的に言って、必ずしつこく「どういうお金か」と銀行側から尋ねられるからです。小生は、昨年父親が亡くなり、兄弟で遺産分配することになって、千葉県の某大手地方銀行で個人宛に大金を送金することになりましたが、案の定、窓口で「どういうお金ですか」と、くどくどと確認されました。法人宛ならともかく、個人宛に不自然な大金が振り込まれるのですから、詐欺犯罪が横行する世の中では当然の話です。山口県の銀行だけ、大金の振込や入金に「警戒」感が薄いはずがありません。銀行側では確認をしないのか、という記者からの質問に対し、山口銀行は「金融機関では、たとえ町役場であっても、お客さまの情報には守秘義務がありますので、お話しするわけにはいきません」(同銀行広報室――前出5月7日付「週刊女性プライム」)と、そんなことを尋ねていないのに、ピント外れのおざなりな回答コメントをしています。

 複数の眼による点検を怠ったという意味では阿武町役場も同様です。しかも、暢気に対応しているうちに、入金されたお金は口座から連日出金されていたのです。「連絡がとれなくなった」と、なぜ2週間以上も悠長に構えていたのか。早い段階で(ここでも複数で)対応を協議し、預金の仮差し押さえの申し立てなど、必要な措置をとっていれば、食い止められた「被害」もあったのです。この件が大きく動いたのは全国的なニュースになってからのことです。町長をはじめ、あまりに危機管理意識が欠けていると言わざるを得ません。

 今回の報道では、逮捕された人は、過去や私生活も含めて洗いざらい報じられ、一人悪者にされていますが、阿武町役場にしても山口銀行にしても、この件で良識ある(普通の)対応をとったとはとても言えないのですから、彼と同様にしろとは申しませんが、もう少しツッコまれてもおかしくないわけで、これで不偏不党の公平性のある報道と言えるのか(「週刊女性プライム」の第一報は、その点では、バランスのとれた記事でした。これが時間が過ぎるにしたがい、容疑者の人間性や行動へと報道ぶりと世間の眼が収斂されていくのです)。
 といっても、これ以上のことはわかりません。まさかと思いますが、この件には、つつくとやぶ蛇になるような事実がまだ眠っていて、だからメディアを抱き込んで恣意的一面的な報道を仕向けるのでは、と。そういう勘ぐりがいつもの邪推であればいいのですが…。




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