ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

三角関数と金融の天秤

 千葉県選出のある衆議院議員が5月17日の財政金融委員会で、今後の日本にとって学校における金融教育の充実が必要だと主張し、同様の連投Tweetをしていて、ちょっと話題になっていました。教育内容の優先事項をめぐって、三角関数と金融を秤にかけている件については、多くの方が指摘しているとおりだと思います。
https://twitter.com/Kenta_Fujimaki/status/1528339973971161088

 最終的には「趣味」に優劣はつけられないのではないか、くらいの印象ですが、学校で実用的なことを教えるべきだというこの議員さんの考えが間違いだとは思っていません。しかし、委員会での質問を見ていたら、この「実用」話には、何か怪しいというか、軽薄なところが感じられます。動画から一部文字に起こしてみます。

衆議院インターネット審議中継<2時間10分30秒過ぎあたりから>

……金融教育が大事というのは多くの人が考える(賛同する)ところだと思います。文科省の取り組みなどで少しずつ増えているようですが、現実として、高校生は英語、数学、国語などの主要科目に比べ、金融経済の勉強などはほとんどやっておりません。ひとつの理由として、大学受験にしめるウエイトがかなり小さいからです。私自身もそうでした。受験に関係のない科目の勉強はほとんどしておりませんでした。学校の授業も全然聞いてませんでした。世界史は何度も0点をとったと記憶しております。私の場合はちょっと極端だった気もしますが、(みんな)多かれ少なかれそうなんだと思います。金融の知識の重要性の学びをすすめて欲しいなどというのは、ある意味、理想論で、現実問題として、高校生は受験に関係のない勉強はほとんどしません。文科省として大学受験改革に取り組み、金融経済に関する問題のウエイトを増やし、金融教育の改革につなげるお考えはありますでしょうか?

文科相政務官:教育課程上の中学校や高校の授業内容や大学入試での出題状況について一般論的な説明のあと、「指導の充実を図ることは大変重要」と答える)

 私は大学受験の時、英語が苦手だったので、得意の数学で得点を稼ごうとして、数学ばかり勉強しておりました。浪人時代は、家で一人で朝から晩までサイン・コサインをやっておりました。10代の貴重な日々をサイン・コサインに捧げておりました。受験の翌日以降、この20年くらい、サイン・コサインは一度も使っておりません。あの日々はいったい何だったんだろうと今だに考えます。サイン・コサインは測量や航空機の姿勢制御、地球といろいろな星の距離を測ることなどに使われるそうです。これは一部の人びとが使う専門知識の範疇なのではないでしょうか。日本全国の高校生にがっちりと教え込む必要があるのでしょうか。その分野に進む人が専門知識として学ぶということではないのでしょうか。別に三角関数を学ぶことを否定しているわけではありません。三角関数は人類の叡智の一つで、我々の生活の基盤を支えてくれる重要なものです。ただ、知識として、多くの人には三角関数よりも金融の知識の方が、人生を生きていくうえで大いに必要ではないかということです。そういったものを教えることこそが教育ではないかと私は考えています。……

 いくつか小言の類いを並べますと、この議員さんは、高校生は受験(大学入試)に関係のない勉強はほとんどしないから、まず、大学入試における金融のウエイトを高め、高校生に勉強させるべきと述べています。勢い余って「日本全国の高校生が」と言いますが、日本の高校生の大学・短大進学率は6割弱です。6割弱の高校生を一括りにして、大学受験に関係のないことを高校生は勉強しないと言ってしまうのは、かなり乱暴で失敬な話です。除外されたかたちの4割強の高校生については言わずもがなです。自分の体験だけがすべてではないことを知る意味で、「日本全国」を回り、高校生や学校教員らとよくお話をされることを望みます。とりわけ、いわゆる受験進学校ではない学校に通う高校生とその家族(保護者)の声は、直に聞くべきです。千葉県選出とはいえ、国政を担う議員なのですから。

 また、話をおもしろおかしくしたかっただけかもしれませんが、10代の貴重な時間に朝から晩までサイン・コサインをやったのに、その後の20年の人生でサイン・コサインは無縁だったと、三角関数に身を捧げたことを後悔?して、「いったい何だったんだ」と「総括」しているようですが、それはまだ早計です。動機はともかく、朝から晩までやれたとすれば、それは「好き」「得意」以上の意味があるはずで、三角関数は「人類の叡智」とおっしゃるのですから、その奥の深さを実感するためにも、この機会に、高校時代に得意だったという数学を、なおさら学び直してみてはいかがかと。国会議員としても、貴重な時間を無駄にすることにはならないように思います。
 最近は素人や初心者にも本質的な部分をやさしく解説してくれる良書が増えました。小生は、数学は不得意科目でしたが、学校で働くようになってから、この手の本にいろいろと教えられ、数学の先生にいろいろと質問できるようになりました。高校生の時に読んでいたら、もっと数学に興味がもてたのになあと何度も思いました。でも、その思いがあったから、隣接領域を意識しながら自分の授業に幅をもたせようと努力できたと思っています(結果はともかく)。人は、生きていれば変わっていくものではないでしょうか。

 趣味の問題はさておき、当座、三角関数よりも金融の知識の方が必要な人もいますが、逆に、金融よりも三角関数の知識の方が必要な人もいるでしょう。人にとって生きていくうえで大切なことが何かわかるのが、いつになるのかはわかりません。要は、学びたいことをいつでも学べる環境があって、多くの人に学ぶ機会が保障されていることが大切です。政治の仕事は教育環境や条件の保障をするのが第一で、あまり教育内容にかかわってほしくはありません。子どもに何を教えるかを考えることは大切ですが、教育課程を整えることは教育のほんの一部だと思います。

<追記>
 この議員さんについては、「あまり…」ではなく、「一切…」かかわるべきではないかもしれません。
https://twitter.com/so_nx/status/1528398735922892802







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