ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

報道倫理とジャーナリズム

 この表題はちょっと大げさかもしれません。でも「真のジャーナリスト」とか、大学でジャーナリズムの担い手を教育しているという文言を見てしまうと、ちょっと看過できませんので、大風呂敷と思いつつこのタイトルで。

 3月23日付のダイヤモンドONLINEにアベシンゾーのインタヴュー記事があります。会員限定の有料ページなので中身がわからないのですが、例の「核共有」の話のようです。
安倍晋三元首相に直撃、なぜ非核三原則に抵触しても核共有の議論に踏み込むのか | 混迷ウクライナ | ダイヤモンド・オンライン

 このインタビューは3月9日に行われたようですが、同じ日、アベは朝日新聞編集委員とも会っていて、その際、インタヴューの結果、週刊ダイヤモンドがどんな記事を出すのか不安?に思ったらしく、この朝日の編集委員に中身を確認するように指示したようです。そこで、この編集委員は翌10日夜、旧知の間柄だという週刊ダイヤモンドの副編集長に電話し、「私が全ての顧問(?)を引き受ける」ので、「ゲラを見せてください」「ゴーサインは私が決める」などと話したというのです。当然ながら、週刊ダイヤモンドの副編集長はこれを断り、後日「編集権の侵害に相当する」として、朝日新聞社に抗議。朝日は事実関係を確認し、この編集委員を4月13日(来週水曜)付けで処分する(停職1カ月)とのことです(当人は4月20日付で退社する意向とのこと)。
朝日新聞、編集委員を報道倫理違反で処分 本人は反論「恣意的な調査に基づくもの」: J-CAST ニュース【全文表示】
安倍晋三元首相の記事、事前に見せるよう要求 朝日新聞が編集委員を懲戒処分へ:東京新聞 TOKYO Web

 この朝日の編集委員は自ら釈明の記事を書いています。 
朝日新聞社による不公正な処分についての見解|峯村健司|note

 「A氏(週刊ダイヤモンド副編集長)は外交・安全保障を専門分野とする記者ではなく、ニュークリアシェアリングについての正確な知識がないことも想像できる」とか、「ボーン・上田国際記念記者賞」や「新聞協会賞」を受賞したとか、どうでもいいようなことも随所に書かれていますが、そうした長々とした「装飾」を剥ぎ取って、シンプルに論点だけを取り出せば、新聞記者が政治家に依頼されて発刊前の記事を見せろと週刊誌の編集部員に迫った(が断られた)、これを所属新聞社が報道倫理違反として処分するのは適切かどうか、ということのようです。
 処分が適当かどうかについては、当人が処分は違法だと言っているので、この先、裁判で白黒がつくと思います。しかし、まあ、自分の新聞社でない、他所のメディアがこれから出そうとする記事に対して、「誤報」を防がなければならないからゲラを見せろ、などとよく言えるものだなあというのが率直な印象です。しかも、今回の件は、自分のバックに政治家がいるのですから、これはジャーナリストとしての姿勢そのものが問われると思います。

 この政治家アベシンゾーは、首相在任中、当人が直接動かなくても、意向どおりに周りが動く忖度政治をはびこらせ、その影響は報道世界にまで及びました。官房副長官をしていた2001年1月29日には、NHKETV特集「問われる戦時性暴力」の放送内容について、放送総局長を議員会館に呼び出して「圧力」をかけ、その結果、放送内容が変更されたという「前歴」もあります。
NHK番組改ざんの裏に“検閲”/従軍慰安婦放送「やめてしまえ」/安倍官房副長官(当時)、中川議員が圧力

 今回の件について、朝日のこの編集委員は「ひとりのジャーナリストとして」とか「ひとりの日本人として」とか、「今、現実に誤報を食い止めることができるのは自分しかいない、という使命感」などと、扇情的で自己陶酔でしかないことをあれこれ書いていますが、頼んできた人間がアベでなかったら、週刊ダイヤモンドの記事が「誤報」で「正確な知識」を欠いていようが、たぶんこんなことはしなかったでしょう。もっと言えば、自分のバックにアベがいるからこそ、他社に対してこういう居丈高なことができたのだろうと想像します。
 余計なことかもしれませんが、朝日新聞社を愛するなどと小さなことを言ってないで、世のジャーナリズム全体を愛して行動してほしかったところです。とても「真のジャーナリスト」として学生に範を示す行為(とその釈明)とは思えません。



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