ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

スパイ防止法の危険性 再論

 日本は「スパイ天国」で、少なくとも数百人、多ければ10万人ものスパイが潜んでいると言う人がいます(小生の近所の幼馴染氏もこの前の飲み会の席でそう言っていました)。どこかにそれを示す統計でもあるのかと思って調べてみても、案の定、その手の資料は見つかりません。そりゃそうかなとも思います。自分で「〇〇のスパイ」という名札を付けて歩いている人はいないでしょうし、いくら、警察や検察からお前はスパイだろうって問い詰められても、はいそうです、と認める人もいないでしょう。公安あたりに何かしら門外不出の資料があるかもしれませんが、それが一般に公開されることはほとんどあり得ないでしょう。昨年れいわ新選組の山本太郎参院議員(当時)から、「スパイ天国」に関する認識を問われた政府は、首相名で、日本が「各国の諜報活動が非常にしやすいスパイ天国であり、スパイ活動は事実上野放しで抑止力が全くない国家」とは考えていないとの答弁書を出しています。
質問主意書:参議院

 にもかかわらず、日本は「スパイ天国」だと、巷で当たり前のように語られるのは、メディアの影響が非常に大きい。小生の幼馴染氏も、このあいだ飲み会の席で、TVで見た、と言っておりましたが、たとえば、「教養娯楽番組!」として人気のある日テレの「世界一受けたい授業」などで、大学教授の肩書をもつような人が専門家然としてそういう話をすれば、見ている人は、へー、そうなんだと思うでしょう。
【3時間目】身近に潜むスパイの脅威|世界一受けたい授業|日本テレビ

 もちろん日本にスパイがいないことはないでしょうけれど、話は極めて不確かで曖昧だと言わざるを得ません。まず、「スパイ天国」なる言葉で、日本全国そこらじゅうにスパイが活動しているような(根拠不明な)イメージを先行させて法律をつくってよいものか。スパイ防止法のような法律をつくろうしたのは大昔の中曽根自民党内閣の頃です。スパイを取り締まる法律をつくらないと、日本は大変なことになると当時聞かされたような記憶がありますが、自民党内にも反対意見があり、法律は成立せず、それから現在40年以上になります。今どう「大変なこと」になっているのか、実感としてよくわかりません。立法事実自体が曖昧ですが、高市首相は、この件については、武器輸出原則や非核三原則の見直し(変更)などと同様、かなり前のめりになっているようです。

 弁護士の郷原信郎さんは、先進諸外国と比べた場合、包括的なスパイ防止に関する日本の法整備に遅れている部分があるのは否定していませんが、それよりも問題なのは日本の刑事司法の現状(後進性)にあるとして、こう述べています。
- YouTube

 郷原:……日本には第2次安倍政権時代に成立した特定秘密保護法があるじゃないですか。少なくとも国家機密として重要なものは特定秘密に指定して、それを漏らしたら刑罰の対象になるというしくみができているわけだし、それ以外にも、不正競争防止法とか、外為法とか、そういったもので実質秘密を漏らすような行為を処罰することはできるわけですから、それをさらに包括的なスパイ防止法をつくることによって、何かが違ってくるとすると、事前の段階で、国家機密を漏えいさせるようなことをたくらんでいる人間とか、外国からそういう目的で来て、日本人をそそのかして、たぶらかして、そういう秘密を掴もうとするスパイ活動に対して、摘発して罰則を適用するというようなことを(考えているのではないか)。外国ではある程度そういうことができる法制があるのに、日本には、具体的な秘密を洩らしたということを処罰する法律はあっても、スパイそのものを防止する、処罰する、摘発するということができにくいから、それが必要なんだというのが、導入を目指している人たちの言っていることですよね。
 それ自体は先進諸外国と比較したら一応理由にはなるんです。しかし、危ない。何が「危ない」のかってことですが、最大の危なさは日本の刑事司法との関係だと思います。日本の警察、信頼できますか?

 山口:いや、何かね、いろいろと不祥事が起きてるんですけど……。
 郷原日本の検察、国民、信頼していますか?
 山口:残念ながら、信頼しているとは言いがたいですね。
 郷原何かいろいろと批判を受けるようなことがあるじゃないですか。検察が無茶をやって、それに対していろいろと批判される。そういうときに検察が、あったことを全部明らかにして、透明にして、こういうことが問題でした。こういうふうに改めていきます、というふうに素直に情報開示とか説明責任を果たしてきたか。こなかったでしょう。一番大変な問題は人質司法じゃないですか。 
 山口:そうですね。(容疑を)認めないと外に出してくれないというね。
 郷原というようなことがさんざん批判されてきたけれども、まったく問題じゃないと言い続けてきているわけでしょう。これは先進諸外国と比較してどうなんですか、人質司法って。こんなのダメでしょう。
 スパイ(防止法)の罰則ってすごく重く設定されているんですよ。中国とかだったら、死刑・無期でしょう。諸外国でも国家機密を対象にした場合には、やっぱりすごい重い刑罰になるわけですよ。そういう行為の処罰は必要かもしれない。しかし、間違いだってあるわけじゃないですか。あるいは、そういう法律を悪用することだってあるわけじゃないですか。本当にこれはスパイ防止法を適用してやらないといけない時にだけ使うのか、日本の警察が。検察がちゃんと公正に処分をしてくれるのか。間違ったときに、ちゃんと、すみません、間違えましたと言って謝ってくれるのか。

 山口:いや、謝らないですよね。
 郷原そうするとね、結局、そんな危ない武器を持たせていいのかという話になるんですよ。最近の例で言っても、大河原化工機事件って、警視庁公安部外事。まさに、スパイ防止法とかを運用する捜査機関が大問題を起こしているわけじゃないですか。…… 

 日本の刑事司法がこの法律の「重み」に耐えられないことに加え、ロシアや中国など、「外国の代理人」とか「外国勢力とのつながり」などを理由(口実)に、政府に批判的な人間を摘発する事例を見てしまうと、このスパイ防止法が外国人の諜報活動の防止にとどまるような感じはしません。矛先は国内の官僚、ジャーナリスト、作家や社会運動家などの監視や摘発に向けられるでしょう。そんなことはない、日本はロシアや中国のような国々とはちがうんだと、いったい誰が保障できるでしょう。統一教会といまだに関係を断ち切らない「売国議員」たちが大挙して戻ってきた国会で、絶対に必要だと言って、法案を通そうとするのです――小生には彼らの方がよほど「スパイ」に見えますけど。



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