先日読んだ『日本経済の死角』（ちくま新書）の著者、河野龍太郎さんは、「アベノミクス」という語を冒頭で一回使ったきりで、著書の中ではほぼ使っていません（著書では代わりに「アベ政策」と称しています）。意図するところは不明ですが、時代を画する経済政策として認知されるべき内容かどうか、さらにまた、「学術専門用語」として扱うのにふさわしいものかどうか、大いに疑義があるという意味かと推察しています。
公明党の連立政権離脱で慌てふためく自民党。高市早苗新総裁も自慢の「笑顔」が引きつりがちですが、アベノミクスを模した自身の経済政策プランを以前から「サナエノミクス」と称しています。これは「安倍晋三の後継者」は自分であると認めさせ、自身が首相になることを目的とした一種のキャッチフレーズ（客引き言葉、というか「擬音語」）と見られます。
言うまでもありませんが、第二次安倍政権発足時と今とでは、経済状況が全然違っています。本人はその違いをどこまで認識しているのか。「三本の矢」の文言については、さすがにアベノミクスと同じというわけにはいかなかったと見えて、一部文言をイジって目先を変えてきましたが、それでも「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」の基本フレーズは「不動」です。これは単なる「勘違い」とか「絵空事」というよりも、重大な「欠陥」なのではないかと思えます。
今朝の毎日新聞の2面のコラム「時代の風」で、エコノミストの藻谷浩介さんは、こう書いています。
時代の風：自民の党内抗争 「保守派」どこに向かうか＝藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員 | 毎日新聞
……日本の「保守派」が好む傾向のある「積極財政」も大問題だ。異次元金融緩和に伴う国内の低金利がドル建て金融資産への資本流出を起こし、著しい円安になって物価高が進んだ。対策は徐々に利上げに誘導することしかない。
もしここで国債を増刷して減税などすれば、利上げは更に困難となるばかりか、財政への不安拡大からますます円安が加速するだろう。受益者はドル資産を持つ輸出大企業と富裕層、犠牲者は円で暮らす庶民だ。
そもそも日本政府の歳出は史上最大を更新し続けている。にもかかわらず、国内総生産（ＧＤＰ）をドル建てで見れば、野田佳彦（民主党）政権当時の2012年の3分の2以下に縮小してしまった。財務省に問題があるとするなら「積極財政をしないから」ではなく、「空前の積極財政を続けているのに成果が出ないから」だろう。
なぜなのかと政策の中身を見てみれば、たとえば数兆円もの補助金漬けで半導体産業を育てようとしている一方で、学校統廃合のように、過疎地を住みにくくし、出生率の著しく低い都会への若者の集中を促進するような策が、平然と続けられている。4000億円を投じて高校教育を無償化しておきながら、過疎地の高校を減らしていくというのは、結果としては私立高校の多い大都市地域への教育予算の重点投入と同じことだ。
産婦人科医や小児科医も、少子化による市場の縮小を受けて、地方に限らず大都市でもどんどん減っている。構造的に赤字なのは歯科医も同じで、その減少は健康寿命の低下や医療費の増加に直結する。彼らの存続に向けた重点的な財政支援は、半導体よりよほど国家の存続にとって重要だと確信するが、そのような戦略眼がない霞が関を導くべきビジョンは永田町にも見えない。……
高市新総裁の誕生により、週明けの株式相場は株価が大幅上昇し、「高市トレード」なる語がメディアで踊りました。おとといのネット記事には、「サナエノミクスで上がる株」として、防衛関連、AI・半導体関連など、成長が期待される分野と具体的な企業名まで挙げられています。
「サナエノミクスで上がる株」高市早苗首相が誕生でアナリストが注目する本命銘柄6選 | ホットニュース from ZAi | ダイヤモンド・オンライン
首相になりたい当人のエゴ、これに便乗して儲けようとする輩のエゴ――うんざりしますが、この「擬音語」は結局のところ、国民を幸福にする経済政策からはおおよそかけ離れた、儲け話にたかるエゴイストたちの掛け声なのではないかと思えます。
