ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「民主主義サミット」の違和感

 今日は手短に。
 アメリカのバイデン大統領の外交攻勢が続く。北京オリンピックの「外交的ボイコット」宣言につづき、自ら主催した「民主主義サミット」なる109カ国のオンライン会議が昨日始まった。バイデン氏は、民主主義が専制主義国家からの挑戦を受けているとの危機感を示し、各国に法の支配や表現の自由など民主主義の基盤を強化するよう呼びかけた。
 この会議には中国とロシアは招かれていない。調べてみると、アジアの国々では(ちょっと広すぎるが)招かれていない国が大半で、特に西アジアの「イスラム圏」ではイラク以外の国は入っていない。中南米も、けっこう露骨で、外されているのは、エルサルバドルキューバグアテマラニカラグア、ハイチ、ホンジュラスベネズエラボリビアで、だいたいが左派政権が成立したことのある国ばかりだ。これらの国に「資格なし」(「民主主義国」ではない?)と色を付けるところからして、この「サミット」には胡散臭さがつきまとう。そもそも世界の国々が民主主義の国と専制主義の国に明確に線引きできるほど単純な話だとも思えないが、百歩譲って仮に区分できるとして、これらの国々は「専制主義の国」であるがゆえに会議に呼ばないということなのだろうか。
 会議は、英語では Summit for Democracy というらしい。「民主主義のためのサミット」という字面どおりの意味に解すれば、上に挙がったような国々の参加を求めないということは、これらの国の民主主義はどうでもいいということになるが、これは大いに恣意的かつ差別的で、民主主義の大義にも反する。民主主義は全構成員の平等と公平を旨としなければ、「一君万民」的な権威主義体制と変わらなくなる。バイデン氏の頭の中では相変わらずアメリカは世界の民主主義の旗手なのだろうが、旗手は先頭に立ってメンバーの意気を高めることが仕事であって、メンバーを分断して疑心や嫌悪を招き、民主主義への意気を消沈させるようなことなどすべきではない。バイデン大統領自身が「専制君主」然に振る舞って「専制主義」を非難する姿は滑稽でしかない。これでは、とても人々からの理解や共感は得られないだろう。むろん、バイデン個人の意思というよりも、これはアメリカ合州国の国家的な「意思」だが…
 大統領選での選挙公約とはいえ、アメリカ国内の支持率低下を前にして無理矢理に繕ったこの会議が、結局のところポイント稼ぎにもならないことは目に見えている。「賢明」なる岸田首相も、日本政府も、外交辞令はともかくとして、まともに付き合うべきものでないことは承知のことと思う。

案の定「民主主義サミット」が全く盛り上がらない理由。アジアに「踏み絵」迫るアメリカの厳しい現実(BUSINESS INSIDER JAPAN) - Yahoo!ニュース

「民主主義サミット」始まる バイデン大統領のねらいは? | 米 バイデン大統領 | NHKニュース


 一点、NHKのニュースを見ていて、バイデン氏の話(英語)と日本語の字幕に若干齟齬があるような気がした。
 バイデン氏は、サミットの冒頭で、字幕上「民主主義は世界中で憂慮すべき挑戦を常に受け続けている。民主主義にはリーダーが必要だ。」と述べた。が、聞こえてきたバイデン氏の英語では、Democracy needs champions. と言っているように聞こえた。「champions」と「リーダー」という訳語がすぐに頭の中で合致しなかった。日本語字幕の「リーダー」とは文脈上アメリカ(1カ国)を示しているように思えたが、「champions」と、単数ではなく複数になっていることがやや気になったので調べてみた。すると、champion には、「擁護者」、「推進派」の意味があるようだ。日本語の「チャンピオン」が意味する「王者」「勝者」「第一人者」とはズレがある。だから、先の発言の日本語訳を「リーダー」とするのは、複数のリーダーという意味ならば了解するが、文脈上、アメリカだけを「リーダー」とみなすのだったら、それは誤りだと考えなければ真意に反する(「リーダーたち(複数)」も「リーダー」に含意させられるのが日本語だとすると、やはり同時通訳は大変だなと改めて思うが…)。

 ※championの綴字がちがっていたので訂正しました(汗)。



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