ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「生き合う」世の中に

 当初は大阪の小学校の校長が実名で、市の教育行政への「提言書」を市長に送ったことについて書くつもりだった。かつて学校で働いていたものとして、非常に共感し、感銘する内容だったからだ。
 5月20日朝日新聞デジタルより部分引用を許されたい。

大阪市立木川南小学校・久保校長の「提言」全文:朝日新聞デジタル

……コロナ禍により前倒しになったGIGAスクール構想に伴う一人一台端末の配備についても、通信環境の整備等十分に練られることないまま場当たり的な計画で進められており、学校現場では今後の進展に危惧していた。3回目の緊急事態宣言発出に伴って、大阪市長が全小中学校でオンライン授業を行うとしたことを発端に、そのお粗末な状況が露呈したわけだが、その結果、学校現場は混乱を極め、何より保護者や児童生徒に大きな負担がかかっている。結局、子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況をつくり出していることに、胸をかきむしられる思いである。
 つまり、本当に子どもの幸せな成長を願って、子どもの人権を尊重し「最善の利益」を考えた社会ではないことが、コロナ禍になってはっきりと可視化されてきたと言えるのではないだろうか。社会の課題のしわ寄せが、どんどん子どもや学校に襲いかかっている。虐待も不登校もいじめも増えるばかりである。10代の自殺も増えており、コロナ禍の現在、中高生の女子の自殺は急増している。これほどまでに、子どもたちを生き辛(づら)くさせているものは、何であるのか。私たち大人は、そのことに真剣に向き合わなければならない。グローバル化により激変する予測困難な社会を生き抜く力をつけなければならないと言うが、そんな社会自体が間違っているのではないのか。過度な競争を強いて、競争に打ち勝った者だけが「がんばった人間」として評価される、そんな理不尽な社会であっていいのか。誰もが幸せに生きる権利を持っており、社会は自由で公正・公平でなければならないはずだ。
 「生き抜く」世の中ではなく、「生き合う」世の中でなくてはならない。そうでなければ、このコロナ禍にも、地球温暖化にも対応することができないにちがいない。世界の人々が連帯して、この地球規模の危機を乗り越えるために必要な力は、学力経年調査の平均点を1点あげることとは無関係である。全市共通目標が、いかに虚(むな)しく、わたしたちの教育への情熱を萎(な)えさせるものか、想像していただきたい。
 子どもたちと一緒に学んだり、遊んだりする時間を楽しみたい。子どもたちに直接かかわる仕事がしたいのだ。子どもたちに働きかけた結果は、数値による効果検証などではなく、子どもの反応として、直接肌で感じたいのだ。1点・2点を追い求めるのではなく、子どもたちの5年先、10年先を見据えて、今という時間を共に過ごしたいのだ。テストの点数というエビデンスはそれほど正しいものなのか。
 あらゆるものを数値化して評価することで、人と人との信頼や信用をズタズタにし、温かなつながりを奪っただけではないのか。
 間違いなく、教職員、学校は疲弊しているし、教育の質は低下している。誰もそんなことを望んではいないはずだ。誰もが一生懸命働き、人の役に立って、幸せな人生を送りたいと願っている。その当たり前の願いを育み、自己実現できるよう支援していくのが学校でなければならない。
 「競争」ではなく「協働」の社会でなければ、持続可能な社会にはならない。

<以下略>(※太字下線は当方が施した)

 参考までに以下の記事も。
「学校は混乱極めた」 現職校長、実名で大阪市長を批判 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル


 しかし、今朝読んだ「「ムダの進化」が生物多様性導く?」という記事にも関心をひかれるものがあった。「ムダ」という表現にはひっかかるものがあるが、自然界の生物多様性は人間社会の多様性に通ずるものがあるという視点は大事だと思う。

 以下は5月25日付毎日新聞の記事の部分。

くらしナビ・環境:「ムダの進化」が生物多様性導く? | 毎日新聞

〇多種共存の謎
 地球上には175万種もの生物が生息している。未確認を含めれば300万とも1億とも推計され、それぞれが他の生物と生存競争をしながらも共存し、種の多様性が実現している。何が多種共存を可能にしているのか。これは1959年に米国の生態学者が投げかけたものの、まだ解決されていない古典的な疑問だ。
 多種共存を研究している東北大の近藤倫生教授(理論生態学)によると、生態学の理論では、一つの生息地に多くの異なる生物種が共存することは容易ではないという。餌などの資源を効率よく利用できる生物種が生き残り、それ以外の生物種は絶滅すると考えられるからだ。
 近藤教授らは「他の種との競争」という視点ではなく、それぞれの種内の競争を勝ち抜くための生態に注目する。「1強」となってもおかしくないような強い生物が、進化の過程で子孫を増やすことにつながらない「ムダ」をしているのではないかと予想。これを「ムダの進化」と名付け、シミュレーションや行動生態学の研究者らと研究チームを組み、多種共存の謎に挑んでいる。

〇重いクジャクの羽
 ムダの進化の一例がクジャクの雄の羽だ。雄は鮮やかな模様の羽を広げて雌の気を引きつける。子育てをしたり、他の生物種との競争に勝ったりするような形質であれば、クジャクという種がより繁栄することにつながるはずだが、派手な羽は他の雄との競争に勝つためのもので、種全体の個体数増加につながるとは考えにくい。チームの京極大助・兵庫県人と自然の博物館研究員(進化生態学)は「重く扱いにくい羽を持つことで、トラなどの天敵に狙われやすくなるデメリットもある」と説明する。
……集団全体の利益を無視した、自分勝手な生態がムダの進化に該当する場合もあるという。日本を含む東アジアや東南アジアに広く分布するアミメアリは、女王アリや働きアリという分類はなく、若い個体が卵を産み育て、年を取った個体が餌を確保したりコロニー(集団)を防衛したりする。
 そのアミメアリには、生まれつき「働けないアリ」がいることが国内の一部地域で確認されている。他のアリよりも少し体が大きく、卵をたくさん産む。しかし若いときでも子育てができず、餌の確保もできない。また子どもたちも働けないアリになる。
 土畑重人・東京大准教授(進化生態学)は「コロニーに働けないアリがいると、そのアリが産んだ卵の世話を働くアリがしてくれて、結果として生まれつき働けないアリが増える。世代交代を進めると最終的に子育てができるアリがいなくなり、そのコロニーは滅びる」と語る。土畑准教授が実際に試験管内で働けないアリだけのコロニーを作って観察したところ、誰も卵の世話や掃除をしないため卵も腐り、試験管の中が見えにくくなるくらい汚れて荒廃した。

〇弱い種に生存余地
 こうしたムダの進化は、多様な生物種が共存することにつながるのか。チームの山道真人・豪クイーンズランド大上級講師らはシミュレーションモデルを使って検証し、多種共存の謎に答える「仮説」を提示した。
 もし、ムダの進化がないと仮定すると、弱肉強食の言葉通り、他の種との競争に弱い生物種が減っていく。一方、ムダの進化がある場合は、まず競争に強い生物種が増えるが、同一種の個体数が増えていくとクジャクの羽のようなムダな部分が進化。強い種の子孫は増え過ぎなくなり、また他の種との競争にも勝ちにくくなる。その結果、弱い生物種が生き残る余地が生まれる。近藤教授は「今回の仮説は、異なる種の競争を重視していた従来の考え方とは対照的な、新たな生態学観を提案できた」と話す。
 ムダの進化は人間社会にも当てはめることができるのだろうか。近藤教授は人間にもムダによって得られるメリットがあると考える。「クジャクは羽を派手にせずに、子育てにエネルギーを費やした方が自分の子孫をもっと増やせるだろうが、彼らの立場になって考えてみると、ムダを精いっぱいやって良かったなと思っているのでは。人間が動物や植物を見て『すてきだな』だと思うのはムダの部分。生産性を上げることだけを追求する、ムダのない世界はつまらなくないですか」


 こういう自然界の話を人間社会に安易に当てはめることが危ういことは、かつてダーウィンの進化論が「社会進化論」へと読み替えられて、適者生存・弱肉強食を正当化するイデオロギーと化した例を出すまでもない。これを人間社会にあてはめるとなると、「ムダ」という表現の背後に、今、LGBTの議論で自民党の一部議員が看過できない暴論を公言しているのと同じ発想を感じ、不快の念を強くするのは確かだ。しかし、自然界の「法則」とか「民主主義」とか、そんな理屈を持ち出すまでもなく、生きるもの同士が共存している、互いに助け合って生きているというのはいたって普通の事実だと思う。強者の慢心がいっときの愚かな思い込みに過ぎないことも、過去をふりかえれば、その事例は数知れない。

 5月20日自民党の会合で、LGBTなど性的少数者に関し、「生物学上、種の保存に背く。生物学の根幹にあらがう」などと発言したとされる(やな)和生衆院議員(栃木3区)。簗氏が個人としてどんな妄想にとりつかれようが、それは「多様性」の観点からも、個人として尊重されることに異議ははさまない(意見や考え方に対する批判はするが…)。しかし、それと政策の選択は別次元の話だ。簗氏の言う通りの国づくりをしたら、多くの人が共存できなくなる。そうした認識を改めずに国政を担うことは、多くの国民にとって不幸を招く。だから、考えを改めるべきだ。改めないのであれば、衆議院議員を退いてほしい。退かないなら、栃木3区の有権者の方々には、こうした不適任者を選挙で当選させないでほしい。そう、強く願う。 

LGBT差別発言 自民保守派は確信犯? 党内からも「非常識」 | 毎日新聞



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