ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

イスラエルと南アフリカ

 先回、ハミッド・ダバシさんのハーバーマス批判、ひいては、ヨーロッパ(欧米中心主義)批判について引用をしました。

 彼らの中にはヒトラーがいる。自分たちに「ヒトラーが宿っている」ことに気づいていない。彼らが赦さないのは、ヒトラーが犯した罪自体ではない。つまり人間に対する罪ではなく、白人に対する罪、それまでは植民地の非白人に行使されてきた暴力を、自分たちヨーロッパの白人に向けたことに怒っているのであって、暴力それ自体に怒っているわけではないのだ、という趣旨でした。

 高橋和夫さんの最新刊『イランとアメリカ、そしてイスラエル』(朝日新書)にも重なるような記述があります。南アフリカとイスラエルについて書かれた第2章で、高橋さんはこう述べています。

……さて、ナチスのホロコーストは、数ある虐殺の中でもヨーロッパ人に対して行われた点が異例だった。それゆえ謝罪や賠償の対象となった。しかし、ヨーロッパの外での民族浄化や虐殺をヨーロッパの人々が謝罪したり賠償したりした例は、耳にしない。ドイツに対してユダヤ人への謝罪や賠償を求めるヨーロッパ諸国も、(ドイツがかつて植民地とし虐殺のあった)ナミビアへの謝罪や賠償をドイツには求めていない。もし、ドイツに、そうした義務があるとなれば、イギリスやフランスやスペインなどにも、その義務が生じるからだろうか。ヨーロッパを本当に理解するには、ヨーロッパ人のヨーロッパの外での行為を見る必要がある。それなくしては、ヨーロッパ史というのは影のない絵のように不自然である。ヨーロッパがアフリカに残した傷は、未だに痛み続けている。ガザでの虐殺もまた、長く人類の良心をうずかせるだろう。
                          (高橋、同上書、81頁)

 高橋さんは、南アフリカがアパルトヘイトを廃止し、周辺国から一定の信頼を勝ち得たことにも言及しています。

 傷を癒すという試みで注目されるのは、アパルトヘイト以降の南アフリカでの和解の努力である。そこでは、権力を握った多数派が、それまでの少数派の横暴に対する報復を求めなかった。……反アパルトヘイト闘争を勝利に導いたのは、もちろん南アフリカの人々の闘争だった。それには武装闘争も含まれる。また、南アフリカのゲリラを支援した周辺諸国の貢献も見落とせない。そして南アフリカ軍と戦ったキューバ軍の役割も大きかった。
 それに加えて、世界の市民たちの南アフリカのアパルトヘイト体制をボイコットする運動にも注目しておきたい。BDSという言葉に集約される運動だ。B(Boycott ボイコット)、D(Diverstment 投資の引き揚げ)、S(Sanctions 制裁)の略語だ。南アフリカ製品や産品を買わない。南アフリカに投資しない。南アフリカに投資する企業をボイコットする。南アフリカとはスポーツや文化交流をしないなどの一連の運動である。世界的に広範な支持を集め、欧米の大企業は次々と南アフリカから撤退した。……
……同じようなBDSをイスラエルに対して実行しようという運動が世界的な広まりを見せている。たとえばイスラエルのマクドナルドが同国の将兵に無料で食事を提供したとしてボイコットの対象とされている。またイスラエルの兵器の輸入を計画していた日本の商社が、その取引から撤退した。アメリカの各地の大学で学生の抗議行動が起きた。学生の要求の一つは大学の基金のイスラエルへの投資の停止だ。ハーバート大学のようなアメリカの有名私立大学は、とても大きな額の基金を運用している。それがBDS運動の対象となっている。
 一人一人の市民は微力だが無力ではない。その微力な市民が国境を越えて手をつなぎあえば、世界を変える力となる。それが、ほんの30年ほど前まで、そそりたっていた南アフリカのアパルトヘイト体制を崩壊させる力となった。南アフリカからのパレスチナ解放運動へのメッセージだ。

                            (同 81-84頁)

 付言すると、高橋さんは、欧米企業の南アフリカ撤退の隙間を埋めるかのように南アフリカに進出し、一時南アフリカ最大の貿易相手国となり、「名誉白人」として処遇された日本と日本企業の「黒歴史」についても触れています。今後イスラエルの孤立化はますます進むでしょう。日本に住んでいる我々はどうするのか。再び「名誉白人」と呼ばれたいのでしょうか。



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