今朝の毎日新聞の一面に、米国トランプ政権がハーバード大学の外国人受け入れ資格を停止する発表をし、新規の留学生のみならず、在学中の留学生も、他の大学に移らなければ、滞在資格を失うとの記事があります。NHKのニュースによれば、大学側の申し立てにより、連邦地方裁判所はこの措置を一時差し止める決定を下したとのこと。無法者(政府)の不法行為を司法が制止したかたちです。
トランプショック:ハーバード大、留学生禁止 在校生、転校か資格喪失 米政権 | 毎日新聞
ハーバード大の留学生認定取り消し措置 裁判所が一時差し止め | NHK | アメリカ
政権のハーバードに対する攻撃には「反ユダヤ主義の助長」、「中国共産党との協調」といった類いの紋切り型の文言(レッテルというか言いがかり)が見えますが、一番「効果」的なのは、政権支持層の心底にうごめく「反エリート」意識を刺激することと考えているようです。ホワイトハウスの報道官は、声明で
……ハーヴァードのような機関に対する連邦援助は、苦しんでいるアメリカの家庭からの税金で過剰に高給を得ている官僚を豊かにするものであり、終わりを迎えようとしている。納税者の資金は特権であり、ハーヴァードはその特権にアクセスするための基本条件を満たしていない。
(米ハーヴァード大、トランプ政権を提訴 助成金凍結の停止求め - BBCニュース)
と述べています。しかし、「信仰」心の厚い「岩盤支持層」なら「そーだ、そーだ」と騒ぐかもしれませんが、こんなとってつけたような理屈が通らないことくらい、さすがに普通の人にもわかります。何せ、補助金支給が差し止められたり、留学生が不認可とされる対象は、他の大学はOKなのに、ハーバードだけなのです。どうしてハーバードだけなのか。その理由は明らかでしょう。権力が求める不当な服従を拒否して闘うハーバードの姿が、内実を知った独立心旺盛なアメリカ人の魂を揺さぶらないはずがありません。
「ワシントン・ポスト」によれば、先月27日の世論調査でトランプ米大統領の支持率は39%で、不支持は55%。そのうち44%は「強い不支持」だったとのこと。就任直後の今年2月時点での支持率は45%ですから、6ポイントの下落です。今月に入ってどうなっているかはわかりませんが、ポピュリズム政権の生命線は支持率です。次々と矢継ぎ早に打ち出される政策には目くらまし効果があり、前の「失策」を忘れさせますが、失策が続けば、支持率は下がります。次の調査で30%台前半まで下がれば、関税政策のときと同じように、部分修正ないし撤回を迫られるかもしれません(たぶん何らかのかたちでごまかすでしょうけれど)。ジコチューが内外ともに有害であることに、アメリカ世論は(というか岩盤支持層は)早く気づくべきです。
おまけで今朝の毎日新聞にあった川柳も載せておきます。
仲畑流万能川柳:毎日がボッチキャンプのような爺 | 毎日新聞
・トランプは相場操縦し放題 枚方 登美子さん
・大リーグやはり帽子は中国製 日高 駒井さん
・押し売りにアメ車とコメも付けてくる 栃木 とちじーじさん
・武器売って儲けてる国から税を 大阪 毬栗さん
・オヤジギャグ「おい関税はいかんぜい」東京 デュークNさん
もうひとつ、イスラエルで「風向きが変わり始めている」という記事を読みました。イスラエルの反戦デモ参加者が、ガザの爆撃によって殺されたパレスチナの子どもたちの写真を持つようになったというのです。BBCの記事からの引用です。
【解説】 イスラエルで「風向きが変わり始めている」 戦争の進め方に国民の怒り強まる - BBCニュース
イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区での戦争が新たな激しい局面に入るなか、イスラエル国内で、戦争とその進め方に対して反発の声が高まっている。
左派系政治家でイスラエル国防軍(IDF)の元副司令官、ヤイル・ゴラン氏は19日、「イスラエルは、かつての南アフリカのように、国際社会から孤立した国家になる道を進んでいる。もし我々が正気を取り戻さなければ、そうなるだろう」と発言し、波紋を呼んだ。
「正気な国家は民間人に戦争を仕掛けない。赤ん坊を殺すことを趣味にしないし、住民を排除することを目的にもしない」と、ゴラン氏はイスラエル公共ラジオの朝の人気ニュース番組で語った。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相はこの発言を「血の中傷だ」と強く非難した。
しかし21日、元国防相で、イスラエル国防軍(IDF)の元参謀総長モシェ・「ボギ」・ヤアロン氏は、さらに踏み込んだ発言を行った。
「これは『趣味』ではない」と、ヤアロン氏はX(旧ツイッター)への投稿で述べた。「これは政権維持を最終目的とする政府の政策であり、我々を破滅へと導いている」。
19カ月前に、ガザ地区のイスラム組織ハマスがフェンスを越えてイスラエルに侵入し、大勢の民間人を含む1200人を殺害、さらに251人を人質としてガザに連れ去った直後には、このような発言はほとんど考えられなかった。
現在、ガザは廃墟と化し、イスラエルは新たな軍事作戦を開始した。11週間にわたる封鎖の解除に合意したものの、これまでにガザに届いた支援物資はごくわずかにとどまっている。
イスラエルのテレビ局チャンネル12が最近実施した世論調査によると、イスラエル国民の61%が戦争の終結と人質の帰還を望んでいる。一方で、戦闘の拡大やガザの占領を支持するのは25%にとどまった。
イスラエル政府は、ハマスの壊滅と残る人質の救出を断固として進める姿勢を崩していない。ネタニヤフ首相は「完全勝利」が可能だと主張し、依然として強固な支持層に支えられている。
しかし、イスラエル社会の一部では「絶望、トラウマ、そして何も変えられないという無力感が広がっている」と、元イスラエル人質交渉人のガーション・バスキン氏は語る。
「人質の家族の圧倒的多数は、戦争を終わらせ、合意に至るべきだと考えている」と、バスキン氏は続けた。
19日には、およそ500人の抗議者が「ガザでの惨状を止めろ」と書かれたTシャツを着用し、イスラエルの空爆で死亡した乳児の写真を掲げながら、スデロットの町からガザとの境界に向けて行進を試みた。イスラエルによる新たな軍事作戦に抗議するためだった。
抗議行動を主導したのは、「スタンディング・トゥゲザー(共に立つ)」という、ユダヤ系とパレスチナ系のイスラエル市民による小規模ながら拡大中の反戦団体だった。参加者らが道路を封鎖しようとした際、同団体のリーダーであるアロン=リー・グリーン氏を含む9人が逮捕された。
自宅軟禁下にあるグリーン氏はBBCに対し、「イスラエル国内で目覚めが起きているのは明らかだと思う。立場を明確にする人がどんどん増えている」と語った。
同じく「スタンディング・トゥゲザー」に所属するウリ・ヴェルトマン氏は、戦争の継続について、「パレスチナの民間人にとって有害であるだけでなく、人質の命、兵士の命、そして私たち全員の命を危険にさらしていると考える人が増えている」と述べた。
4月には、イスラエル軍のすべての部門に所属する予備役の数千人が、ネタニヤフ政権に戦闘の停止と残る人質の帰還に向けた合意の実現に注力するよう求める書簡に署名した。
「まずハマスを壊滅させることが最優先であり、その後に人質は解放されると考えているのは少数派だ」……
……「世論は変わりつつある」と、ヴェルトマン氏は語る。「風向きが変わり始めている」。
(英語記事 'The mood is changing': Israeli anger grows at conduct of war)
ゴラン氏は「(このままでは)イスラエルはかつての南アフリカのように、国際社会から孤立した国家になる」と言っています。当然でしょう。アメリカと手を結んでいれば大丈夫という(日本もそうですが)前世紀的な「護符」はこの先通じなくなっていくかも知れません。アメリカがすでに「壊れて」国際的信頼を失いつつあるのですから。イスラエル(とアメリカ)が国際社会から孤立しないためには、はびこるニヒリズムを越え出なければならないと思います。それは、残念ながら、我々の力ではほとんど困難で、最終的にそれができるのは、イスラエル自身だというのはいかんともしがたいのです。
