「10月7日」から1年。事態が終息する見通しは立ちません。それどころか戦禍はガザにとどまらず、なお拡大するかの情勢です。昨日の夕方、膨大な死者数と負傷者数、瓦礫の山と化したガザ地区の様子を伝えたNHKのアナウンサーは、何もできない自身と国際社会の無力さを嘆くだけで……とやや涙声でした。このやるせなさは、何とも言葉では言い表せません。
岩波ブックレットの最新刊『イスラエルとパレスチナ』を読みました。著者のヤコブ・ラブキンは、現イスラエルの国家理念であるシオニズムは、本来のユダヤ教の考え方とはかけ離れた過激な軍国思想であり、イスラエルは異形の「ユダヤ人国家」だと主張しています。いくつか文章を抜き書きしてみます。
……今も、イスラエルはパレスチナ人に対する戦争を、主にガザで、だが別の場所でも続けています。植民地主義的なシオニストの夢は一貫して、相互の尊重に基づく共存と平和を求めることよりも、パレスチナ人をまるごと厄介払いすることでした。11ヶ月近くもの間、世界が見ているにもかかわらず、イスラエル軍は何十万人もの民間人を、殺害し、障害者にし、飢餓に晒しています。
イスラエルは世界の世論を鼻であしらい、国際司法裁判所を含めて国連を見下しています。イスラエルの不処罰は米国の公然たる共犯が主要な要因です。米国が供給する武器や弾薬がジェノサイド犯罪に使われています。米国の覇権下にある日本を含む他の国々は、ロボットと電子戦争用の機器を含む武器をイスラエル軍に供給しています。この死の氾濫の期間を短縮するという、熱意に欠けた約束は、たいていの場合、その歴代政府が自立的な外交政策を長らく放棄してワシントンに従順に追随してきたこれらの国々の、世論の憤激を懐柔しようとしているにすぎません。……
(鵜飼哲訳、同書、3頁)
……公立学校では、「アラブ人」を敵として戦う戦士の模範が推奨されています。そもそも「パレスチナ人」という言葉は一般に避けられていて、「アラブ人」という言葉のほうが好まれます。イスラエル人同士の会話のなかでこの呼称によって強調されるのは、先住民の帰属先はパレスチナよりもアラブであり、アラブ人には二十数カ国もの国があるではないか、ということなのです。「連中はわれわれを困らせたりしないで、なぜあの国々に住み着かないのか?」。イスラエルではこんな言葉が、しばしば聞かれます。
(同書、29頁)
……イスラエルは国境のない国家です。地理的な面では、この国家は軍事的征服と植民地化によって拡大してきました。シオニズム運動と歴代のイスラエル政府は、おおいに骨を折りながら、自分たちの国家の境界をどう考えているか、絶対に定義しないよう努めてきました。イスラエルの情報機関と軍隊は、国境などまったくお構いなしに、隣国であれよそであれ、思いのままに標的を襲撃してきました。
国境がないというこの性格は、イスラエルは自国の市民よりも全世界のユダヤ人に属しているというイスラエルの主張にも現れています。このことの結果として、世界中のユダヤ人団体が、公然とイスラエルの代理人に転化するという事態が起きました。これらのイスラエルの代理人が、米国のAIPAC(米国・イスラエル公共問題委員会)のように、学校評議会からホワイトハウスまで、あらゆるレベルの米国の選挙で、イスラエルの利益が揺るがないように工作しているのです。そのうえイスラエルは、シオニスト国家の好戦性にときに密かな不安を抱かざるを得ない行政府に、無条件に親イスラエル的な議会を対抗させます。明々白々なこの政治的内政干渉はしかしながら、中国やロシアの内政干渉とされるものに比べ、大衆メディアの批判をうけることはほとんどありません。イスラエルは米国以外の国々の内政にも、干渉する権利があると思っています。
(同書、38頁)
……シオニスト国家が数十もの国連決議を拒絶してきたにもかかわらず、イスラエルは高いレベルの不処罰を享受しています。イスラエルがその不抜の外交的、軍事的後ろ立てに依拠している米国とその衛星国は、ソ連解体と世界の一極支配の確立以来、いよいよ厚顔になりました。……
イスラエルの不処罰は、世界の他地域の無力さの反映でもあります。ムスリム諸国、アラブ諸国はイスラエルのガザ侵攻を非難し抗議してはいますが、経済制裁、いわんや軍事制裁は、どこの国も課すこともなければ提案さえしていません。実際少なくとも四つの国――ヨルダン、エジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)――が、パレスチナ人と連帯してイスラエルの船舶を攻撃したフーシ派のために混乱をきたした通信網を、イスラエルが維持するのに手を貸しています。これらの国はイスラエルと協力して、「フーシ派を迂回する」ことを可能にする道路網を確立し、イスラエルが陸路で物資の補給ができるようにしているのです。トルコは大統領の激しい断罪にもかかわらず、イスラエルが消費する石油の40%が自国の領土内を通過することを許しています。……イスラエルとの外交関係を中断した国、自国の外交関係者をイスラエルから一時的に引き上げた国は半ダースにも及びません。国交を断絶した国は一つもありません(引用者註:コロンビア、ボリビア、チリなどが断絶を宣言しているはずですが)。……
(同書、45-46頁)
<訳者あとがき>
……エメ・セゼールの『植民地主義論』からの引用で著者は本書を締めています。フランスのカリブ海植民地マルチニックに生まれたセゼールは、ナチスがヨーロッパで行った蛮行は、ヨーロッパが植民地で行ってきた蛮行となんら違わないことを1950年代に喝破しました。パレスチナ人は侵略されている側なのに、なぜ「テロリズム」「反ユダヤ主義」という非難を浴び続けなければならないのでしょう。この不条理は、ヨーロッパの植民地主義がいまだ未解決であることと表裏の関係にあります。ナチスにすべての罪を負わせると同時にその犯罪に序列をつけ、ユダヤ人の犠牲のみを強調して自らの責任を棚上げにしたヨーロッパの欺瞞性が、著者にはことのほかよく見通せているのでしょう。
(同書、86-87頁)
一般的に本を読んで、知らないことやわからないことを知ることは、少なくとも小生には楽しいことでした。が、この件は、楽しくもうれしくもなく、不愉快さや嫌悪感が増すだけです。それでも、発信することに何らかの意義を認めて、慰みを求めるしかありません。悔しい感じはしますが……。
