ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

政治家とユーモア

 岸田内閣の閣僚たちの失態が続きます。今度は葉梨康弘法務大臣の問題発言です。一昨日の夜、身内の自民党岸田派(武井俊輔外務副大臣)のパーティーで挨拶をし、その際「法務大臣は、朝、死刑のハンコを押して、昼のニュースになるのはそういう時だけという地味な役職だ」」などと述べたとのこと。「自嘲ネタ?」を披露して笑いでもとろうとしたのかと思っていたら、他にも、いろいろと「口を滑らせている」ようですねえ。
葉梨法相「死刑のはんこを押す」「地味な役職」 会合で発言 | 毎日新聞
「発言全体を見て」葉梨法相が“死刑のはんこ”テープ起こし読み上げ | 毎日新聞

 「統一教会問題に抱き付かれてしまい、……解決に取り組まなければならず、私の顔もいくらかテレビに出るようになった」というのは、テレビには映りたいが、旧統一教会のせいで被害者救済法を整備するはめになって迷惑だという意味なのでしょうか。あるいは、「法相になってもお金は集まらない。なかなか票も入らない」というのは、俺も経産大臣や総務大臣(利権官庁のトップ)の方がよかったのに、という意味もあるのでしょうか。
 昨日の釈明も、「お約束」(党公認マニュアル)どおりでした。「職務を軽んじているような印象を与える発言についてはお詫びを申し上げる」と、自分は法相の職務を軽んじていないのに、発言を切り取る報道のせいで、あたかも「軽んじているような印象」をもたれたと、受け手側の「印象」の問題にしています。しかしながら、「朝に死刑執行のはんこを押すと、昼のニュースになる」という趣旨の発言は、先月行われた二人の自民党議員のパーティーでもくり返されていたという報道もあります。こうなると、これはもはや失言ではなく、確固たる認識でしょう。それで何度も笑いがとれるとしたら、法相個人の特異な認識というより、自民党議員集団全体の合意事項になっていると言ってもいいくらいです。国民一般の感覚や認識とは恐ろしいほどズレています。
葉梨法相 「死刑はんこ」発言、10月にも2度 自民議員パーティーで | 毎日新聞

 日本の政治家のジョークやユーモアをアメリカの政治家と比べるのは「自虐行為」かも知れませんが、たとえば、「米政治は笑いが大事」と題する記事(野田首相の名が出てくるのでおそらく2011年頃の記事と思われます)で紹介されているオバマ元大統領らのジョークは、文化の違いはあっても、日本の我々にも十分笑えるものです。少し引用させていただくと……。
米政治は笑いが大事 | The Heritage Foundation

キャピトルの丘(米政治は笑いが大事)
アメリカの政治と日本の政治の大きな違いの1つは「笑い」だ。……
ワシントンにいると、「笑わせる力」に威力を痛感する。

先週の土曜日に行われたワシントン名物と言えるホワイトハウス・コレスポンデント・アソシエーションの年次パーティでも、大統領にとっても「笑い」が大事であることを再確認した。
このパーティでは、大統領の笑い力が試され、 30 分以上の基調講演をすべて「ジョーク」で通さなければならない。
オバマ大統領の演説は強烈なギャグで出発した。
昨年の今頃は大変だった。あの男のせいで」と言い、誰もがオサマ・ビン・ラディンの暗殺のことだと思ったら、ドナルド・トランプの顔が大画面に登場し、会場は笑いで包まれた。昨年のこの時期、トランプは、オバマ大統領はアメリカ国内で生まれていないというキャンペーンを展開していたからだ。
オバマ大統領のジョークはポリティカル・インコレクトかと思わせるぎりぎりなものもあった。オバマ大統領がインドネシアで育ったときに「犬」を食べたとの攻撃に対して、サラ・ペイリンを暗示させてジョークを作った。ペイリンの代名詞である「ホッケーママ」と「ピットブル」を比べて、「少なくとも、後者はおいしい」と笑わせた。この時、ミシェル夫人がしかめっ面していたことは広く知られている。
オバマ大統領は今までの慣習に習い、現在のスキャンダルもジョークにした。ラスベガスで豪華なフォーラムを開催したことで攻撃されている米国政府一般調達局( General Services Administration: GSA )のスキャンダルを皮肉り、「豪華なこのパーティが GSA 主催でなくて安心した。」と笑わせた。最後は、現在、売春婦スキャンダルで渦中のシークレット・サービスを取り上げ「まだまだ言いたいことはあるが、シークレット・サービスを時間通りに帰さないといけないから、これで終わるよ」と笑わせながら、基調講演は終了した。

その後、登場したゲスト・コメディアンのジミー・キンメルはさらに強烈だった。この時に、アメリカの政治には「笑わせる力」に加えて「笑われる力」も重要であることに気が付いた。
ジミー・キンメルは、「私たちの大統領は本当に痩せている。北朝鮮からの食糧援助が必要なくらいだ」と笑わせたかと思ったら、会場にいる、かなり太めの共和党ホープであるニュージャージー州クリス・クリスティ州知事をつかまえ「ミシェル夫人の肥満政策が必要なのはクリスティ知事だろう。」と笑わせ、クリスティ知事も大笑いしていた。
「笑い」にはガンを小さくする(力がある?)という研究もある。とにかくアメリカの政治には、あれっというギャグもあるが、「笑い」がとても大事にされている。ちなみにオバマ大統領もジミー・キンメルも原稿を手に持っていた。それほど、この日のジョークだけで成り立つ演説は作りこまれたものなのである。
日本の政治にも、「笑い」の文化が入ってきたら、閉塞感は和らぎ、透明性は進むのではないかと思われる。政治に絡んだ「笑い」は、時として本質に迫るし、笑いを作ることは難しいからだ。二人が原稿を持っていたように、かなり勉強して伝える努力が必要になる。同時に「笑い」は関係も深める。
野田首相オバマ大統領が、ジョークが絡みあって二人で大笑いしていたら、日米関係はかなり良くなるのではないかと思っている。

 お笑いマルチタレントのパックンこと、パトリック・ハーランさんも、2015年12月、日本外国特派員協会でこう話しています。
パックンが日本とアメリカの笑いの違いについて語る - ログミーBiz

違う文化のなかで笑いをとること
……アメリカのお笑いには3つの基本形があります。政治的なネタ、性的なネタ、そして、田舎者のネタです。時々、奇跡的にそれらが一緒になることがあります。ビル・クリントン政権のことです。3つの条件が完璧にそろったネタです。
しかし、日本ではこれらのネタは規制されています。性的なジョークを言ってはいけません。政治的なジョークもダメです。これらのネタを生業とする芸人は、非常に少ないです。彼らは、小さなステージで、観客を前にしてネタをします。テレビに出ることはありません。……

もう1つの違いは、アメリカでは政治家自身が面白いです。アメリカでは、冗談を言うことができなければ、活動していけません。多くの政治家は、彼ら自身が冗談みたいな存在ですが・・・・・・。冗談です。
例えば、オバマ大統領は面白い人です。彼に、最大の強みを尋ねると、こう答えました。「私の最大の強みは地味すぎること。最大の弱みは素晴らしすぎること」。彼は面白い男です。ジョージ・ブッシュは、面白くないです。15年前、彼は「戦争は終わった」(イラク戦争のこと)と言いました。陽気に笑いながら。
とにかく、アメリカ人と日本人のお笑いの違いは、教育による影響が大いにあると思います。私は、学校でたくさん学びました。ハーバードでも、たくさんの情報を学びました。情報の使い方や、情報を変換して新しいなにかにする方法を学びました。論理的に自分の考えを言い、そしてさらに新しい情報を付け足す方法を学びました。
私が学んだことで最も重要なことは、読まずとも自分なりに“BS”する方法です。知らない人と、自分なりにBSをする方法です。BSは、英語のスラングです(注:嘘、でたらめの意)。BS朝日BS-TBSのBSとは違います。私たちは、BSでわかりやすく伝えます。ハーバードの教育は、BSを重視します。日本は、冗談を言ったり、アドリブで冗談を言えるようになる必要があると思います。それらは、日本の芸能界においてはとても重要です。

 もっとも、アメリカ人のジョークがいつも笑いを誘うかというと、そうとも言えず、たまには失敗して、日本の政治家たちのように顰蹙や怒りを買うこともあります。人を笑わせるには、やはり訓練というか、経験(学習)の積み重ねが必要なようです。
ウィル・スミスさんの平手打ち 背景から考える笑いの力とは? | NHK | News Up | エンタメ

 それにしても、パックンの言うとおり、笑いやユーモアへの教育、特に学校教育の影響は大です。小学校はともかく、講義形式の多くなる日本の中学・高校では、授業が始終笑いに包まれるというのは、ユーモラスな先生と生徒が集まったとしても、そうはありません。これまではだいたい、先生が話して、生徒は板書をノートに書く。たまに先生がする質問に生徒は答える。授業中に無駄口はきくな、でした。結局、生徒が自由に発言する機会がないので、アドリブで冗談を言う能力などつくはずもなく、アメリカの学校ではほとんどありえないことのようですが、授業時間中に「睡眠学習」をする生徒が出没することになります。型どおりばかりの日本の学校の授業ですが、たとえシナリオから離れることになっても、「逸脱」や「想定外」を怖れるのではなく、これを楽しむ余裕がなければいけないように思います。
 そうしないとどういう大人になっていくのか。以下の記事に出てくる政治家たちの姿を見ると、これが日本の教育のひとつの成果だと思わないわけにはいきません。
【秋の国会グーグー撮】萩生田光一氏「山際コロナ担当」で “強弁” の日に大爆睡…渦中の寺田稔大臣ら14人が夢の中 | Smart FLASH/スマフラ[光文社週刊誌]





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