ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

ウクライナ戦争の終わり方 孫崎亨さんの話

 ジャーナリストの神保哲生さんが識者にインタヴューする好評企画。今回は、元外交官で評論家の孫崎亨(まごさき うける)さんから話を聞いています。
 戦闘が始まってはや4ヶ月、現下のウクライナ戦争はまったく終結が見通せません。神保さんの話ではなお1日100人くらいの死者が出ているということでした。
 戦争は自然現象ではありません。為政者が「ここまでだ」と判断すれば、戦争は止まります(もちろんお互いに、というのが難しいからこうなっているわけですが)。孫崎さんは、「和平の道はある。それは決してウクライナが飲めないもの、「西側」にとっても飲めないものではない」と言っています。

 以下、6月11日付の動画「インタビューズ」より部分的に文字起こししたものの概要です。

孫崎享×神保哲生:ウクライナ戦争の戦況はアメリカ次第という現実に目を向けよ - YouTube

ウクライナ戦争の現状>
 プーチンの当初の思惑とはちがって、軍事的にウクライナを制圧することはできない。問題は、ウクライナの東部の州をロシアが制圧できるかどうかというところだと思う。なぜ、プーチンは戦況を見誤ったのか。これはアメリカの兵器、ジャベリンとかスティンガーといった、個人が持ち運んで戦車を攻撃できるミサイル、こうした兵器のアメリカの高い技術をロシア側は十分に把握できていなかった。戦車が行けば、ウクライナを制圧できると思っていたようだが、これは判断を誤っていた。
 今の状況は、一般にはウクライナ vs ロシアの戦争ではあるが、実は、アメリカの兵器 vs ロシア軍という構図になっている。アメリカの兵器の方が優れているため、ロシア軍の巻き返しは難しい。したがって、どこまでウクライナ東部を把握できるかが焦点だと思う。アメリカ側はおそらく戦争の長期化を狙っていると思われるので、東部二州の戦況は膠着状態が続く。アメリカは戦争を続けることに(軍産複合体の)「利益」があると踏んでいると思う。

<ロシアとウクライナの軍事力の評価>
 ロシアの経済力について言えば、GDP購買力平価では、ロシアを1とするとアメリカは5で、経済力では圧倒的な差がついている。軍事力については、過去の核兵器があるものの、軍事予算がどれくらいあったかと言えば、我々の想像以上に小さい。世界的な軍事超大国を通常兵器で相手にしているのだが、その通常兵器で大きな遅れをとっているのがロシアの現状ではないか。しかし、ウクライナの東部二州については、ここをロシアが制圧・維持できないかというと、それはわからない。というのは、スティンガーやジャベリンというのは非常に防御的な兵器で、攻めてくる戦車をターゲットにするもので、もし、ウクライナ側が巻き返して東部を制圧しようとすると、現状で当地を管理下に入れているロシア軍(と親露勢力)を攻撃する必要が出てくるため、攻撃兵器をどれだけ入手できるかがカギになる。ウクライナのゼレンスキー大統領が、攻撃兵器が不足していると度々発言するのは、そういう事情があるからだ。この戦争を左右するのはアメリカであって、アメリカがウクライナにどこまで武器支援をするかにかかっていると言ってよい。私見では、アメリカは戦争が長期化することに「利益」を見ているようなので、ウクライナが一気に東部を奪還・確保するのではなく、ずるずると戦争を続けながら、ロシアの疲弊を待つということになるのではないかと思う。

<「出口」について>
 アメリカ・バイデン政権を支える勢力には大きく言って二つあって、一つは軍産複合体、もう一つは金融で、現状では軍産複合体の利益が先行しているが、経済界の人々にとって、現在の動きがプラスに働いているかというと、おそらく厳しいと考える方が多いと思う。
 GDP購買力平価でG7と非G7の合計を比べると、非G7の方が大きくなっている。非G7側はウクライナ戦争でアメリカと一緒になって制裁する方向には進んでいない。実際に制裁しているのは40カ国ほどで、他の150カ国くらいは制裁に加わっていない。石油の禁輸についても、中国とインドは加わらず、ロシアから安い原油を買っている。ところが制裁に加わるヨーロッパ諸国は高いエネルギー代価を払っている。このウクライナの戦争で、どこが経済的被害を受け、どこが免れているのかというと、ロシアは当然としても、特に欧州が痛んでいる。アメリカ自身も、中国との比較の上では決してプラスになってはいない。
 ということで、流れが変わるとすれば、今の制裁が、経済のバランスから言うと、自分たちにマイナスに働いていると判断されるときだ。その結果、ロシアはつぶせるかもしれないが、自分たちも痛手を被る、と。ロシアとアメリカの経済差は1:5だから、その意味では、ロシアとの勝負づけは終わっているわけで、これでウクライナアメリカ側)が勝っても、世界情勢でアメリカが優位になるわけではない。

<外交的解決と日本>
 ロシアであれ、北朝鮮であれ、中国であれ、もし万一日本を攻撃するとなれば、これはミサイル攻撃ということになるだろう。相手が政治社会経済の中心地にミサイル攻撃をするというときには防御の手段がない。ミサイル攻撃に対する防御(迎撃)システムは確かにあって、アメリカではしばしば迎撃に成功したと言われるが、それは他国のミサイルがアメリカのミサイルを攻撃したときの話であって、政治経済の中心地にはそうしたシステムはない。我々が「仮想敵国」としている国が日本にミサイルを撃ってきたとしたら、これを防御できる可能性はない。
 これはウクライナ戦争もそうだが、(軍事的ではない)外交的解決の道はあるということ。外交的解決とは、100%自分の考えを貫くことではない。相手との妥協点を見出し、その妥協点が自分たちに許されるかどうかを考えることだ。軍事をもってしては日本の安全は守れない。しかし、妥協するという姿勢をもって、相手国と対峙すれば、日本にとっての安全性を真に危険にするものはないと私は思っている。
 今回思うに、リベラル勢力が総崩れになっていることが大きい。憲法9条を守らなければならないと、それはいいのだけれど、武器を使わないと言ったときに、この問題は外交ですべて解決できるのだということ、日本にとっても相手にとっても、それはハードルの高くないところで処理できる問題だということを、本来はもっと真剣に訴えていかなければいけなかったと思う。それを怠っていたために、日本の脅威だ、どうする? と言われたときに、軍事で対応することを声高に主張する側に対して、外交交渉で安全保障が可能だと述べることができなかった。
 これまで世界各地で紛争がおこってきたが、どの紛争にも、ある程度の譲歩があって、それが可能かどうかとなっても、大体は可能だった。日本の場合も、領土問題など紛争事はいくつかあるが、なぜ相手がそう言っているのか、相手の主張にどれくらいの根拠があるのか、などを見ていくと、解決のできない問題が日本の周囲にあるとは私は思っていない。

<追記>
法学者水島朝穂さんの6月13日付記事の末尾。
平和憲法のメッセージ

もし、プーチンの戦争目的が、①ウクライナの中立化(NATOに入らない)、②「非ナチ化」(AZOVの排除)、③東部住民の安全確保だとすれは、①はゼレンスキー自身がNATO加盟を後退させていること、②マウリポリでアゾフ連隊の1000人を捕虜にしたことで、これからアゾフのメンバーの「裁判」をやって「非ナチ化」をアピールできること、③東部2州を軍事的にほぼ制圧したことで、ドンバス地域の復興に向かうことから、停戦の条件が整いつつある。10日にウクライナ軍の死者が1万人になることが発表されたので、ロシア軍も「損耗」状況をそろそろ公表するだろう。そうすれば、ロシア国内で「兵士の母の会」のみならず、さまざまな反戦的な動きが起こる可能性がある。この2、3週間が重要な「タイミング」になるだろう。

この局面で、プーチン大統領は、6月9日、18世紀のロシア帝国・ピョートル1世(大帝)時代の北方戦争(対スウェーデン)を引いて、「皆さんは彼(ピョートル1世)が、スウェーデンとの戦争で何か奪ったという印象を抱いている。だが、何も取っていない。取り戻したのだ」と主張。ピョートル1世が首都としたサンクトペテルブルクについても「欧州各国は当時、ロシア領ではなくスウェーデンの一部だと考えた。しかし、そこには太古の昔からスラブ人も住んでいた」「(領土を)取り戻し強化することは、われわれの責務だ」と強調したとのこと。当初掲げていたはずの戦争目的からはズレたことを述べていますが、これは意図的でしょうか。
プーチン氏「領土奪還は責務」 ピョートル大帝で侵攻正当化:時事ドットコム


 

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