ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

クワクボリョウタさんのコメント

 今日は短く。
 新潟県十日町市の美術館を修学旅行で訪れていた中学生が展示作品を壊したことを知って、そう言えば、むかし修学旅行で京都のとある有名なお寺を訪れたとき、生徒が何を思ったのか、コースから外れて立派な石庭の中に入ってしまい、あとでお寺の方に謝罪したことを思い出しました。不幸中の幸いで、庭を踏み荒らしたり、何かを壊したりするなどの「乱暴」は働かなかったので、さしたるお咎めもなかったのですが、かように大人数の生徒を引率する修学旅行というのは、学校の教員にとっては気が気でない場面が多く、生徒と一緒に旅行を楽しむ気分にはなかなかなれません(小生は…)。詳しい経緯はわかりませんが、今回の件で心を痛めたであろう美術館や学校の関係者の心情をお察しいたします。

 それはさておき、壊された作品の作者の一人、美術家のクワクボリョウタさんがTweetしたコメントは鮮やかというか、本当に心温まるものでした。6月9日付朝日新聞の記事の他、いくつかの記事で紹介されています。小生にも一部引用をお許し願いたいと存じます。

修学旅行中の中学生が壊した展示作 作者がコメント「重要なのは…」:朝日新聞デジタル

大地の芸術祭作品破損 「誰でも失敗する」作者クワクボさんが思い | 毎日新聞


まず、このような状況に僕が平気でいられるのは、多くの人が作品を愛してくれていることを知ったからです。支えてくれている皆さんに感謝しています。
……確かに作品は完全に破壊されましたが、物は物です。幸いこの作品に使われている素材は(その多くは現地の方に譲っていただいた織り機です)どれも修理や再生が可能なようです。しかも、作者はまだ生きていて作品を修復する気力も体力もあります。だから、物理的な面ではそれほど深刻な状況ではありません。
それよりも重要なのは、生徒たちが内なる不満や怒りや欲望をさまざまな違った形で表現できるように支えることです。これはアーティストの力ではどうにもならない。大人や学校、友だちや地域の人たちの協力が必要です。少なくとも自分は、修復を通じて、この事件が彼らや彼らのコミュニティ、そして芸術を愛する人々に悪い爪痕を残さないよう、最善を尽くしたいと思います。……

 もし、作品を壊された作者が、これとは違って怒りを表出させるコメントを出したとしても、世間は同調するかも知れません。先日の山口県阿武町の給付金を誤入金した事件の報道を見ていると、それに準ずるかたちで、壊した中学生や学校にメディアが「突進」していく図が想像できないこともありません。もちろん「まだ将来ある中学生なんだから…」と思う人も少なくないと思いますが、それを言ったら、阿武町事件の彼にだって「将来」はあります。何と言っても「小悪」を叩いて溜飲を下げるというのが最近のメディアのならいで、世間も少なからずそれを受け入れているところがあります。

 しかし、「小悪」は「小悪」です。今回のクワクボリョウタさんのコメントは、そういうので溜飲を下げている場合ではないよ、もっと大事なことがあるんじゃないの、と我々に問いかけているように感じます。

 作者はまだ生きていて作品を修復する気力も体力もあります。だから、物理的な面ではそれほど深刻な状況ではありません――なかなかこういうことは言えません。作品を壊した中学生たちには、クワクボさんの言葉に向き合ってほしいと念願します。







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