ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

雷雨とパラリンピック

 役所や農協の諸々の手続に結局一日かかってしまう。午前中、突然の雷雨に見舞われ、役所で足止めされる。雨宿りしているうちに、そういえばと、自宅2階の窓を開けたままだったことに思い至り、昼に帰宅した折り、おそるおそる部屋をのぞいてみると案の定…。「大災害級」とまではいかなかったが、机の上のほか、布団や畳、積んでいた本にも雨が吹き付けていて、がっくり。後始末で余計な仕事が増えてしまった。

 日本でコロナに感染して亡くなった人の数は、8月23日、NHKのまとめで15,670人。東日本大震災の死者数は、警察庁によれば、今年3月10日時点で、15,899人。統計上の数字は未曾有の大災害だった10年前のあの震災に迫っている。しかし、2011年3月11日に起こった震災が「非日常」を強烈にイメージさせるのに対し、現下のコロナ感染はどこか「日常」の背景にはまりこんでしまっているところがある。政府に限らず、危機感が上滑りな感じがするのも、これと無関係ではないように思う。

 テレビ・ニュースも、自宅で症状が悪化した患者が救急車を呼んでも搬送先の病院が見つからないことは伝えても、直後に、料理やうまい店の紹介、犬猫のもふもふ動画、エンタメ情報等々を流す。これでは、当事者でもなければ、頭の中が「非日常」から「日常」に切り替わるのはごく自然なことと思う。漫然とテレビを見ていると、視聴者はこうした「訓練」を「日常」的に受けさせられる。怒りや悲しみの感情が持続しない(あるいは潜伏する)のは、よくも悪くも、こうした「訓練」のたまものであるようにさえ思う。

 しかし、どんなに統計の「数字」のひとつに落とし込まれても、一人ひとりの命がかけがえのないものであることに変わりはない。若年層へのコロナ感染が急拡大し、学校のなかには新学期の登校を遅らせるところも出るほど、懸念が強まっているさなか、「学校連携観戦プログラム」によってパラリンピックに子どもたちを「招待」することを、あれこれ理由をくつけて断念しない人たちは、子どもたちの感染リスクをどうとらえているのだろうか。彼らには「非日常」世界というものを想像できないのだろうか。

 演出家の宮本亞門さんは8月22日放送の「サンデー・ジャポン」で、パラリンピックの開催と子どもたちの競技観戦に猛然と異議を唱えた。

宮本亞門氏が爆笑・太田に猛然と反論「パラをやる理由がどこにあるんですか!」 | 東スポのニュースに関するニュースを掲載

 番組は、子どもたちのパラリンピック(24日開幕)生観戦について特集。現在、19歳以下の陽性者数は増加の一途で、5月と比べて約4倍の2万2960人に上っている。にもかかわらず、小池百合子都知事は、子どもたちの修学旅行の延期や中止を要請しているため、議論が沸騰しているのだ。
 …(爆笑問題太田光は)「(パラアスリートは)我々よりももっと感染症のリスクに対して怖い。自らの健康の危険を脅かされつつも、出ようという姿を見せる」という意義を強調。 
 そして「彼らがこの場に出てくるのが、どれだけ危険で、どれだけの意味があるのか、その会場を設定するのがどれほど大変なのかを含めて経験するのが重要だと思う」と子どもたちの生観戦に理解を示した。

 ところが、これに猛然と反論したのが宮本氏だ。太田の持論をさえぎるようにして「それをやる理由がどこにあるんですか!」と切り出すと「僕は基本的にこの時期のパラリンピックの開催は反対なんです。だって彼らが頑張ってきたリスクを、なんでみんなが背負う必要があるのか」と疑問を呈した。
 続けて「教育的価値とか多様性というのは本当に必要。パラリンピックの教育的価値はあります。ただ、今この時期にやるというのは意味がまったく変わってくる」とキッパリ。
 さらに「周りは感染している。(自分の)感染も怖い。何もできない。命がなくなる人もいるのを置いて、教育的価値があるから行きましょうという、この分断を子どもになんで伝えなきゃいけないの?と僕は思っちゃう」と首をひねり、「だから今は(生観戦は)辞めようねと。テレビがあるのに、なんで観客として行かなきゃいけないのか、どうしても僕は理解できない」と訴えた。

 静岡県では「学校連携観戦プログラム」に参加を希望する県内の学校がゼロになったという。

東京パラリンピック、学校観戦ゼロ 静岡県内で辞退続出 催行不能の公算(あなたの静岡新聞) - Yahoo!ニュース

 布団や畳は雨で濡れても、そのときの後始末が大変なだけで、日がたてばそのうち乾くだろう。今朝見ると、何事もなかった感じさえする。しかし、子どもたちがコロナに感染したら、こうはいかない。観戦や移動のさなかに感染して家に帰ったら、家族に感染させる危険もある。症状が急変して悪化しても病院には受け入れてもらえず、万一命を失うことにでもなったら…。
 ある程度予期していた肉親の死を受け入れることさえ、たやすいことではないのである。
 「学校連携観戦プログラム」は「…感染プログラム」などと揶揄されている。千葉県の熊谷知事、各教委、各学校には英断を願う。


 

↓ よろしければクリックしていただけると大変励みになります。


社会・経済ランキング
にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ
にほんブログ村