ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

一斉休校に感染防止効果なし

 新聞の値上げと読者離れのスパイラル、「赤木ファイル」の公開日(6月23日)、「有観客」五輪への政府の猛進(妄信?)、山尾議員の政界引退?…等々、今日は記事にしたい話題がいくつかあったが、あえて、昨春の全国小中高校一斉休校にコロナ感染を防ぐ効果があったかどうかを検証した政治学者・福元健太郎氏(学習院大教授)へのインタヴューを取り上げたい。

 研究成果はプレプリント(査読前のもの)として4月末に公開されていたようだ。
Shut Down Schools, Knock Down the Virus? No Causal Effect of School Closures on the Spread of COVID-19 | medRxiv
見切り発車を覚悟で公開しているのは、本研究が実践的切迫的な意義があると踏んでのことで、福元氏は、朝日新聞のインタヴューに次のように答えた。概要を引用する。

休校は感染を抑えたか 847自治体を分析した政治学者 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

研究の概要
 学校を休みにすることで、コロナの感染にどういう影響があるかを調べた。単純に言えば、休校にした自治体(市区町村)としていない自治体とで、人口あたりの感染者の数が違うかどうかを比較した。休校したところの方が感染者が少なければ、期待された効果があったということになる。
 私たちは、文部科学省が2020年3月から6月にかけて全国の自治体に9回行った調査に基づき、調査日を基準に、直前の1週間と直後の3週間の感染者数を分析した。
 その結果、休校したところとそうでないところで、感染者数に統計的に有意な、はっきりとした差は見られなかった。むしろ、どちらかと言えば休校にしていたほうで、感染者が多かったほどだ。
 したがって、休校したことによる感染を防ぐ効果はなかったというのが、我々の研究の結果だ。

分析の方法
 例えばそれまでの感染者の数とか人口構成とか、様々な要素が似ているけれども、休校したかどうかという要素だけが異なる二つの自治体を見つけてペアにして、感染者数を比較した。全国に計1,741ある自治体のうち、27都府県の847自治体からデータが得られたので、最大で数百組の自治体のペアを作って比較した。
 具体的な要素は計43個ある。人口の多寡や人口密度、年齢の構成のほか、通勤などで他の自治体と行き来している人の数、住民の収入、学校の児童・生徒数、病院や医師の数、自治体の財政状況や首長の年齢や当選回数なども含む。休校の有無以外の要素をなるべくそろえるようにした。
 43個ある要素のうち、どれを重視するのかは難しい問題だが、私たちは、自治体ごとに振れ幅が大きい要素を重視するようにした。たとえば人口の多さは、大きな市と小さな村ではかなり大きな違いがある。一方で、学級あたりの生徒数であれば、どんな自治体でもあまり違いはないから、そこはあまり気にしなくていい、という理屈だ。

休校に効果がなかった理由
 これは推測でしかないが、一つには、休校といっても、本当の意味での休校ではない。子どもの居場所が確保され、学童保育などもあり、休校にしても学校にいる子どもの数がゼロにはなっていない。
 また、当時流行していたウイルスは、あまり子どもには感染しないし、また子どもが感染を広げてしまう確率も低いものだったということもある。さらに、開けている学校は当然、感染対策をとっていただろうし…。

結果を踏まえて
 休校にはさまざまな負の効果がある。学習の遅れだけでなく、子どもたちの心身の発達に対する影響もあるし、親も外に出られずに働けなくなる。虐待が増えるとも言われている。
 コロナウイルスの感染を抑えるというメリットがあるなら休校も仕方ないが、もしメリットがないのなら、デメリットを甘受する必然性はなくなる。
 ただ、当時のウイルスはいま流行している変異株ではない。仮にいま休校措置が実施されたとすると、その感染抑止効果が当時とは変わっている可能性は否定できない。それでもこの研究が示唆しているのは、政府が政策介入の効果を上げるには、自治体ごとの感染者数や休校状況などをリアルタイムでモニタリングする必要がある、ということだ。


 去年の2月26日、当時首相だったアベの突然の要請に、学校関係者、保護者(親)は驚愕した。「一斉休校」がなぜ必要なのかと問われたアベは、「何よりも子どもたちの健康・安全を第一に考え」、学校でクラスターが発生するのを抑えるために先手をうつべきだと判断したと答えた(それなら保育園は休みにしなくていいのか?)。さらに、専門家からは、学校を休校にした方が効果があるというエビデンス(今や懐かしい響きさえある)はないという声があると言われると、さまざまな意見があることは承知しているが、この1〜2週間が正念場という専門家の意見をふまえ、「最後は政治が全責任を持って判断すべきものと考え、今回の決断を行った」と答えた。以上は、2日後の28日、衆院予算委員会での答弁。
「全国一斉休校」なぜ専門家会議で議論しなかった?安倍首相の説明は…(衆院予算委・詳報) | Business Insider Japan

 今となっては、「何よりも子どもたちの健康・安全を第一に考え」とか「政治が全責任を持って」という言葉には乾いた笑いしかわいてこない。軽薄すぎる。「一斉休校」の次は「黒川問題」、そして1年前の今頃は「アベノマスク」で大ひんしゅくを買っていた頃だ。

 しかし、それから1年、首相はスガに替わり、今度は「子どもたち」を「国民」に替えて、「その健康・安全を第一に?」、観客を入れて東京オリンピックをやろうと画策を続けている。専門家は、観客を入れたら危険だと指摘しているのにもかかわらず、だ。
 一年たってもサイクルや構図は何も変わっていない。アベスガにとって「子どもたち」も「国民」も、具体的な顔が浮かぶ言葉ではないのだろう。それは、二人とも、カンペにしろプロンプターにしろ、人の書いたものを朗読することと無関係ではないと思う。


 
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