ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「祭りごと」 終わる

 衆院選挙の開票終わる。寝起きは個別の結果に上機嫌だったが、よくよく全体が見えてくると、場所をかえて刺し違えているだけのような気がしてきた。それどころか、野党共闘の主軸だった立憲民主党共産党はともに議席を減らしているのだから、維新は勝ったが、「野党」は負けである。自民党は、岸田首相が事前に示した勝敗ライン=過半数越えという低い目標を20近くもオーヴァーしている。改憲勢力は334議席だし…。暗澹たる思いがする。

 31日ハロウィーンの夜、TBSが渋谷にいた若者50人ほどに取材したところでは、「投票に行ってから(渋谷に)来た」と答えた人が27人だった(本当か?)。Twitterにも、昨日は投票所に長い列ができていて、こんなの初めてだといった投稿が数多くあり、さすがに今回は投票率が高いのかと思っていたら、前回53.68%より2ポイント増の55.93%(推定)と意外な数字が出ている。何か全国に蔓延する、あきらめと深い失望のようなものを感じざるをえない。変えなければいけないのは、まずここからではないか。

ジャーナリストの神保哲生さんTBSラジオ荻上チキの Session」に寄せた10月26日付の記事を読んだ。

「何も変わらないから投票に行かない」のではなく、「投票に行かないから何も変わらない」という単純な事実。 神保哲生 | トピックス | TBSラジオ FM90.5 + AM954~何かが始まる音がする~

1986年のニューヨーク州知事選で現職のマリオ・クオモ陣営を取材して以来、選挙と名の付くものを都合30回ほど取材してきて、一つだけ断言できることがあります。それは選挙があるからこそ、いつまでたっても政治から活気が失われないということです。
しかし、政治が活気を保つためには、選挙と並んでもう一つ重要な条件があります。それは、多くの人を惹きつけることのできる魅力的な政治報道が存在するかどうかです。政治という、下手をするととても退屈になりがちな、しかし、伝え手の腕や能力次第ではとても面白くもなり得る素材を、日本のメディアはきちんと料理できているでしょうか。

少し前の話になりますが、2009年にプリンストン大学のシュルホファー=ウォルとガリードという2人の研究者が共同で発表した興味深い調査報告があります。アメリカ中西部のシンシナティという人口30万ほどの中堅都市で、2紙あったローカル紙が1紙に減ったことの地域政治への影響を調査したところ、以下のことが明らかになったといいます。
 1.選挙の投票率が下がった
 2.現職の再選率が上がった

アメリカでは2000年以降、広告収入をインターネットに奪われた地方紙が軒並み廃刊に追い込まれ、6万人ほどいた「記者」が4万人を切るまでに激減しました。オハイオ州シンシナティ市では長年に渡りシンシナティ・ポストとシンシナティ・エンクワイアーの2紙が良きライバル(と)して鎬を削っていましたが、2007年にポストが廃刊になりエンクワイアーが唯一の地元紙となってしまいました。その結果、地域の政治に上記のような大きな影響が出たと、この論文は指摘しています。

この論文はインターネットに広告収入を奪われた地方紙の廃刊ラッシュが続くアメリカにあって、自分たちが選挙で選んだ為政者たちが実際は何をしているかを知る唯一の中立的な手段だった地元紙を失った地域で、民主主義が崩壊していることへの警鐘を鳴らす際によく引用されています。
しかし、われわれ日本人はこれを対岸の火事としている場合ではないかもしれません。なぜならば、日本では新聞の廃刊ラッシュなど起きていないにもかかわらず、先進国の中でも抜群に選挙の投票率が低く、現職の再選率もとても高いからです。シュルホファー=ウォルとガリードの論文が導き出した結論に基づけば、日本ではメディア、とりわけ政治メディアが正常に機能していないと考えざるを得ないことになります。

実は日本は先進国としては選挙の投票率が最も低いグループに属しています。2010年以降の7回の国政選挙で日本は投票率の平均が56.0%で、これはOECDに加盟する38か国中31番目に位置し、日本より投票率が低い国はアメリカ、メキシコ、リトアニアポーランド、フランス、スイス、チリの7か国しかありません。同時期のOECDの平均投票率は67.5%に及び、投票が義務づけられているオーストリアルクセンブルグ、ベルギーの投票率が90%に達するのは例外としても、北欧諸国を筆頭にニュージーランド、イタリア、ドイツ、スペインなど投票が義務づけられていない国々でも投票率は軒並み70%を越えています。
最近では日本の投票率は国政選挙でも50パーセント台前半というのが当たり前になってしまいましたが(2019年の参院選投票率は48.8%!)、まずはこれが先進国では恥ずべき低い水準であることを知る必要があるでしょう。

そしてもう一つ重要なポイントを。政権交代とはほとんど縁がない日本ですが、実は55年体制下で2度だけあった政権交代を引き起こした1993年と2009年の2度の衆院選投票率は突出して高く、それぞれ67.26%と69.28%を記録していたということです。
どうせ投票なんか行っても何も変わらないでしょ。日本で多くの人があまり投票に行く気が起きない原因が、政治に変革が期待できないからであることは容易に想像がつきます。記者として長らく政治報道に関わってきた者として、その気持ちは痛いほどよくわかります。しかし、データを見る限り、話はまったく逆です。ほとんど政治に変革が期待できない日本でも、選挙の投票率が先進国の平均レベルに達した瞬間に、大きな変革が起きているのです。つまり、どうせ政治に変革なんて期待できないから投票に行っても意味がない、のではなく、投票に行かないから政治が変わらないだけのことだったのです。
そして、この低い投票率が、決してメディア報道とは無関係ではないことをシュルホファー=ウォル・ガリード論文は示唆しています。自分自身への自省の念も込めて、今一つ盛り上がりに欠ける選挙を前に、そんなことを考えながら取材を続けている今日この頃です。

 政治は「まつりごと」、選挙は「祭りごと」――今までに2回ほど自民党が野に下る「祭り」を見てきたが、生きている間に3回目の「祭り」を目にできるのだろうか。自分も何か一助になることをしないと…。

 それにしても香川1区の小川淳也さんに対する祝福のTweetが本当にものすごい。ハロウィーンもそうだが、みんな「祭り」が嫌いなこともないんだよと思う。



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