ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

維新躍進のこと

 今回の衆院選で、維新の会は自民批判票の受け皿になったと言われる。全体の数字から見ると、確かにそうなのかも知れないが、それにしても当選者の政党別の地図を眺めると、大阪がまるで「独立国家」のようで、その「維新王国」ぶりが際だっている(バチカン市国か!というTweetも目にした)。
 千葉県の田舎人には、なぜ大阪でこれほど維新が強いのか、よくわからない。府外から見れば、維新の知事と市長が杜撰なコロナ対応をして医療を崩壊させるなど、あれほどの失態を演じたのだ。それが選挙をやってみたら、小選挙区ではあの辻元清美候補に1万4千票もの差、その他にいたっては2位候補にふつうに3~4万票、中にはそれ以上の大差をつけて当選。まさに圧勝である。まったく釈然としないのだが、コロナ感染も下火になり、喉元過ぎればもう忘れたということなのだろうか。揺れに揺れた大阪都構想住民投票からでもまだちょうど1年である。大阪の人々にとって維新の会とはどういう存在なのか。

 ABCテレビの尾崎文康記者の分析がある。

【取材記者ノート】大阪で維新が“圧勝” その理由は? 京阪神“3都調査”から考える ABCテレビ×JX通信社(ABCニュース) - Yahoo!ニュース

大阪で抜きん出る維新
まずは大阪市有権者に「比例代表で投票しようと考える政党」を尋ねたデータをみてみます。過去5回の調査結果の推移から、隣接する神戸市、京都市との明確な違いが浮かびます。
ご覧のとおり、大阪市では維新が毎回トップ。そして2番手に自民、という構図が5回連続しています。ほかの政党の順位は多少入れ替わりますが、1位、2位は固定したままです。
神戸市をみると、同じ過去5回の調査で「1位自民・2位維新・3位立憲」、京都市では「1位自民・2位共産・3位立憲(維新は4位)」という形で(回によって多少入れ替わります)、いずれも国政与党である自民がトップとなっています。維新がとび抜けている大阪市とはまったく違う構図です。
つまり、大阪市はほかの市とは情勢が異なり、7月の段階から早くも維新が高い支持を得ていたことがわかります。全国を対象としたメディアによる定期的な「政党支持率」調査からは、この現実はなかなかみえてきません。

「コロナ対策」への高い評価
国政与党への支持を上回るほど、大阪で維新が支持された理由は何でしょうか。ひとつカギと言えそうなのが、知事のコロナ対策への評価です。
調査結果をみると、大阪市で吉村知事のコロナ対策を「評価する」「どちらかといえば評価する」と答えたのは7割前後。9月調査に至っては、8割近く(77%)にのぼっています。
神戸市、京都市での同様の「評価」は、過去5回の調査では高かったときでも3~4割程度ですから、大阪での評価がいかに突出しているかがわかります。

「首長ポスト」独占の強さ
大阪市で知事のコロナ対策を「評価する」と答えた人には、重視した観点も尋ねました。すると、「リーダーシップの強さ」を挙げた人が4割で最も多く、「医療機関への支援」「住民への情報発信」(ともに2割程度)などを上回りました(10月20・21日調査)。
大阪市ではちょうど1年前の2020年11月1日、維新の看板政策「大阪都構想」に対する賛否を問う住民投票があり、都構想は僅差で否決されました。5年前に続く2度目の否決により、維新は失速するのでは、との見方もありました。
しかし深刻なコロナ禍では、各地で指揮を執る「知事」の存在に注目が集まります。政府の画一的な対応がまごついたせいもあり、東京都の小池知事らと並んで、維新の副代表でもある吉村知事は全国的な知名度を上げました。
選挙期間中、吉村知事が各地へ遊説し、関西以外でも票の掘り起こしに回ったことは維新の得票を後押ししたとみられます。
大阪で長年、議席を守ってきた自民のベテラン議員の一人は、街頭演説で何度も「国とのパイプ」を有権者に訴えましたが、維新に敗れて議席を失いました。「中央」とのパイプを強調する旧来の全国型政党よりも、強い権限の「首長ポスト」(知事や市長など)を握って改革をアピールする地域政党の方が強い――。コロナ禍の1年半の大阪を取材して感じたことです。
知事の人気、そしてその前提となる大阪の「首長ポスト」の独占こそが、躍進を果たした維新にとって大きな「力の源泉」だったといえそうです。

 吉村知事の人気と大阪の「首長ポスト」の独占が、維新の「力の源泉」ということだが、毎日新聞の11月1日付記事にも、維新の首長・議員を動員した組織戦の勝利とする見方が示されている。

維新「第3党」の裏で何が 「吉村人気」だけではない底力と限界 | 毎日新聞

 松井一郎代表(大阪市長)は……「日本に一つぐらい改革政党があっていい」と強調し、現状に不満を持つ有権者心理に訴えかけた。新型コロナウイルス対応で全国的に知られた吉村氏の遊説先では、大阪・関西を中心に駅頭や繁華街に聴衆があふれ、準備に携わる所属議員からは「もっと広い場所を確保すべきだった」と悲鳴が上がるほどだった。ただ、躍進をもたらしたのは、「改革アピール」と「吉村人気」だけではなかった。
 「地に足の着いた活動ができた。勝つための動きを心得ている地元議員に支えてもらった」。大阪14区で初当選した維新新人の青柳仁士氏は充実感をみなぎらせた。国際協力機構(JICA)や国連での勤務などを経て、地域政党大阪維新の会」が12年に開講した候補者養成講座「維新政治塾」に1期生として参加。大阪維新の会が母体となった日本維新の会の候補として、同年の衆院選から3回連続で、埼玉4区や同9区から出馬したが、いずれも落選した。今回、豊富な海外経験を買われて松井氏の打診を受け、同氏の地元・八尾市を含む大阪14区で公認を得た。妻や3人の子供と離れて単身赴任する。
 「落下傘」の青柳氏を中心的に支えたのが、維新に所属する選挙区内の首長、府議、市議ら計26人だった。輪番制で、「土地勘」のない青柳氏を連日のように連れ、維新支持の企業・団体や有権者の元へあいさつに回った。活動を本格化させた6月以降、有権者約42万人の選挙区内で配った名刺は1万枚。2500枚のポスターを張り、チラシは30万枚配った。
 青柳氏は「選挙カーに乗っていると、あちこちで手を振ってもらえた。私が既にあいさつに行った人だった」。結果は、約12万6000票を獲得し、次点の自民前職に5万票以上の差をつける完勝だった。
 維新は、候補を立てた府内15の選挙区ごとに、地元の府議・市議らを責任者や事務長として配置。計約260人に上る府内の首長と所属議員を実動部隊として総動員するピラミッド型の態勢を党本部主導で構築した。街頭演説やチラシ配りだけでなく、期日前投票所の前に議員を張り付け、投票する直前の有権者に支持を呼びかける人海戦術を展開。接戦が伝えられた選挙区には、担当する選挙区に関係なく、所属議員を一運動員として集中投入した。自民市議も、「維新の選挙はすごかった」と舌を巻くほどの組織戦で圧倒した。
 大阪府知事大阪市長のポストを押さえ、議会でも多数派を占めることで進めた政策も、有権者には前向きに受け止められたようだ。大阪維新の会過半数を占める府議会では、11年に議員定数を109から88に削減し、議員報酬を3割カット。政策面では、私立高授業料の実質無償化や、大阪市立小中での給食費無償化など、現役世代に重きを置く施策を積極的に取り入れた。選挙戦ではこうした成果を前面に出し、「政治は結果。大阪では改革で財源を生み出して施策を実現してきた」(吉村氏)と分かりやすいストーリーを示してみせた。コロナ対応では医療崩壊で多大な犠牲を生むなど批判も浴びたが、有権者には、「地域の課題を解決し、世の中が少しよくなるのかと希望を持たせてくれている」(40代の自営業男性)と期待感を抱かせた。
 17年の前回衆院選で一つも議席を獲得できなかった兵庫県では、一気に党勢を拡大した。候補を立てた9選挙区のうち、大阪と近接する伊丹市宝塚市などの兵庫6区で勝利し、他8選挙区の候補はいずれも比例復活を果たした。維新は7月の兵庫県知事選で、自民党と相乗り推薦した斎藤元彦氏が初当選。6区で勝利した元職の市村浩一郎氏は「兵庫でも維新が浸透してきた。認めていただき、感謝している」と喜んだ。
 しかし、大阪・関西から一歩出れば、影響力は限定的だ。比例では議席を伸ばしたものの、選挙区では自民と立憲のはざまで埋没した。
 青柳氏は落選続きの埼玉時代を振り返り、「とにかく味方がいなかった。まずは、地域のイベントでもあいさつをさせてもらえない。地をはうようにして名刺を配っても、ほとんど相手にされない」と語る。ポスターを張るにも、「飛び込み営業」で3、4回通って頭を何度も下げて、やっと1枚張らせてもらえるかどうかだったという。地方議員はほとんどおらず、党として目に見えた成果もなく、「道なき道を開拓する状態だった」という。大阪から離れた選挙区では事情は似たり寄ったりで、人気、組織、実績がそろった大阪・関西に比べて地域格差は大きい。

(※年齢は省いた)

 それにしても、なぜ大阪の人は地方議会・自治体のレベルで維新を支持しているのか。その心性について、内田樹さんは昨年のインタヴューでこう話している。2020年4月23日付朝日新聞デジタルより。

維新人気なぜ続く 内田樹さんが注目する、大阪人の気質:朝日新聞デジタル

 ――大阪維新の会は立ち上げから10年を迎えました。橋下徹氏が去った後も、高い支持を誇っています。なぜだと思われますか。
 内田維新のイデオロギーが大阪の人たちに広く好感されているのだと思います。僕はそれを一種の「リバタリアニズム」(自由至上主義)ではないかと思います。大阪人は他の地域に比べると、「リバタリアン」気質が濃厚のように見えます。
 「親方日の丸」的な発想をしない。「お上に何かしてもらう」という考え方が希薄である。それは事実だと思います。大阪は発生的にも、武士の街ではなく、町人の街でしたし、船場の経済力で大都市になった。
 懐徳堂適塾も町人たちが自力で立ち上げたし、文楽上方舞も民衆芸能です。「自分のことは自分で始末するから、お上は口を出さないでほしい。自分の欲しいものは自分で手に入れるから、公共の支援など要らない」という考え方が伝統的に根づいている。だから当然「小さい政府」主義になります。
 「公務員削減」には賛成する。大学や病院や図書館や美術館のような、彼ら自身が受益者である公共的なサービスについても「こんなもの税金の無駄遣いだ」と言われると、つい賛成してしまう。
 維新が熱心にやってきたのはこの「公共財の取り崩し」「公共財の民間への付け替え」だったと思います。共同体が存続するために必要な公共財を「社会的共通資本」と呼びます。上下水道、交通網、通信網、ライフライン、教育、医療、司法などがそれにあたります。
 これは本来公共的なもので、専門家が、政治イデオロギーとも市場ともかかわりなく、専門的知見に基づいて管理すべきものです。でも、維新はこの社会的共通資本を民間に移管することにきわめて熱心でした。
 一つには資本主義がそれを要請するからです。公共財というのは人々を共同的に益するものですから、営利目的ではありません。人間が生きるために必要なもの(例えば水とか医療とか教育とか)はできるだけ質の良いものを、できるだけ安価で(できれば無償で)提供したいというのが社会的共通資本の考え方です。
 専門家が管理するわけですからコスト意識も低い。だから、公共的なセクターには、無駄やオーバースペックやコスト意識の欠如があちこちでみられる。「収益の最大化」とか「コストの削減」とかいうことを優先的に配慮する人たちにとってはそれがすごく嫌なんでしょう。
 だから、「そういう公共的な事業は民間に移管した方が無駄がなく、効率的に運用されて、コストも下がる」と思う。

 別に今に始まった話ではなく、16~19世紀のイングランドの「囲い込み(enclosure)」から資本主義の基本です。それまで住民たちが共同的に利用して、のんびり牧羊などをしていた「入会地」を資本家が買い上げて、私有化したのです。買った方は投資したわけですから、その土地からどれくらい利益を上げるか考えます。そうすれば生産技術も向上するし、生産性も上がる。
 そうやって農業革命が起きた(そのせいで自営農たちは没落して、都市の低賃金労働者になり、産業革命の労働力を提供したわけですから、資本主義的には「狙い通り」です)。つまり、資本主義的には「公共財は公共的に管理しないで、私有化する方が生産性が上がり、利益が出る」というのは永遠の真理なのです。
 維新がやっているのは、そう言ってよければ、「現代の『囲い込み』」です。これまで住民たちが共同的に所有し、管理していた公共財を私有化することで「利益を出す」仕組みにする。その「利益」というのは、公共財を手に入れた資本家の利益であって、住民はもともと持っていた財を奪われたわけです(イングランドの自営農たちはそのせいで没落しました)。
 けれども、「誰の所有であれ財が利益を生み出すのは端的によいことである」という資本主義のイデオロギーを信じている人たちは、自分の取り分が減っても、特に不満を感じない。自分が貧乏になっても、収奪されても、資本主義が繁栄するなら、それでいいじゃないかと思う。
 大阪の有権者たちもおそらく資本主義イデオロギーを信じているんでしょう。公共的なものが私有化されることは、それが自分自身にとってどういう利益があるかは別として、「端的によいこと」だと思っている。なにしろ生産性が上がるんだから。
 「生産性が上がると自分にとってどういういいことがあるか」については特に考えずに、「生産性が上がるのはいいことだ」と思っている。実際にはそれまで10人でやっていた仕事を1人でやるようになったら、生産性は上がりますし、人件費コストも削減できるのだけれど、9人は失業するわけです。それが「生産性が上がる」ということです。
 でも、もともとの「お上が嫌い」という大阪的エートスがあって、それが「公共なんか要らない」という新自由主義イデオロギーと妙に相性がよかった。そのせいで維新的なものが好感されている……。そういうことじゃないかと思います。

 これは良くも悪くも(悪くも悪くもかもしれないが)大阪が日本の政治の最先端を進んでいるようにも思う。小生は(一貫性があるとも思えない)維新流の「新自由主義」に与する気はないし、これ以上コストカットで猛進すれば、傷つけられる人が増えるだけだと思っている(一見関係のない最近の不幸な出来事や諸事件でさえ、背後ではこうしたコストカットや生産性至上の方策とつながっている気がするくらいだ)。
 こうした事態を止めるも進めるも、まずは大阪の人次第なのだろう。離れた千葉の田舎からこうした動きを止めようとする人たちを応援する。




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