ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「立つ鳥跡を濁さず」と言うが…

 「立つ鳥跡を濁さず」と言うが、やはり引き際は潔くありたいものだ。身辺整理をしてモノは片付けられても、関係性まですべて清算できるわけではない。形だけになったとしても、なるべく良好な関係で区切りをつけるべきだ。負の置き土産を残すなど論外である。

 アメリカの大統領選挙はまだ混乱が続いているが、8日未明にバイデン候補の当確情報が流れ、ヨーロッパ各国首脳から祝電が寄せられている。トランプ側は郵便投票の不正を訴え、徹底抗戦?する構えらしいが、根拠もなく言いたいことだけを一方的に垂れ流して、国民の対立感情を煽ることがアメリカにとってどれだけ不幸で罪深いことか、大統領ならば自覚しなければいけない。

 それは日本にも無縁ではない。見事に情報がフラット化されたこの国では、事実もウソも混ぜこぜにされ、ニュース番組がワイドショー化し、ワイドショーがニュース番組化している状況で、無検証な情報が驚くほどの勢いで流されあふれている。少し立ち止まって自分の頭で考えることが必要だ。

 政治学者の水島朝穂さんのHPに掲載されていた11月9日付記事を見ていて、ああ、一昨日、テレビで見た気がする、何台ものトレーラーで運んだ投票用紙を焼却するようなシーンはこれだったかと思った。以下に引用する。

平和憲法のメッセージ


「トランプ的なるもの」の克服の課題
トランプの退場には相当時間がかかるだろう。投票で負けが明らかになっても居座れば身内から激しい批判が出るだろうが、この人物はヘッチャラである。来年1月に発足予定の新大統領とその政権は、対外的にも、国内的にも、「トランプ的なるもの」の克服の課題が残されている。日本にとっては、「トランプ・安倍」ラインによって壊されたものの克服の課題がある。そのためには、まず何よりも、菅義偉政権の退場が必要である。
なお、大統領選挙をめぐる「フェイク・ニュース」について、アメリ憲法が専門の望月穂貴氏(早稲田大学比較法研究所招聘研究員、当サイト管理人)が開票の様子を見ながら書き送ってくれたメモを一部修正のうえ下記に掲載する。

今回の大統領選挙は、史上稀に見る投票者数を記録しており、著しい関心の高さがうかがえる。関心の高さは日本でも同様であり、大統領選に関するメディア報道は多い。
その関心の高さゆえか、アメリカで出回ったデマ、偽情報の類が日本語でも出回って拡散されている。たとえば、ウィスコンシン州投票率が100パーセントを超えたとか、深夜になってから突如謎の12万票が追加されたというツイートが日本でも拡散され、デマを検証する記事が日本でも作られた。実際には、前者は非公式に報告された有権者登録数が間違っていただけであり、後者は、当日投票の開票が終了してから不在者投票分をカウントしたからに過ぎない。他にも、鶏肉を廃棄処分にしている動画を、投票用紙を不正に捨てているシーンとして偽るツイートも大量に拡散された。そのほかにもまだまだある。
郵便投票をする率は、バイデンの支持者の方が多い。これは、トランプが郵便投票は不正の温床として根拠なく中傷し、支持者に投票所に行くように呼びかけていたからである。しかも、トランプは、ウイルス禍のために増加する郵便投票を妨害するために、郵政公社の予算増を阻止し、郵政長官は郵便物の振り分け機を一部撤去した。このおかげで、郵便投票の開票は遅れた。そして事前に予想されていた通り、郵便投票の開票が反映されていない段階で激戦州のリードを「演出」し(Red Mirage:赤い蜃気楼、と言われる)、トランプは4日午前2時半に一方的に勝利宣言を行った。開票が進んだ11月7日現在では、前回トランプが勝利したミシガン州ウィスコンシン州はバイデンが勝利を確実にし、ペンシルヴァニア州でもバイデンがリードを広げつつある。
ことあるごとにトランプは郵便投票は不正の温床と中傷し、政治過程を毀損してきた。最初に紹介したウィスコンシン州でのデマが拡散されているのは、陰謀論をそれとなく煽るトランプの存在が非常に大きい。しかし、日本で拡散されているのはなぜだろうか。誤情報が出回りやすいSNS時代ならではのものだろうか(ちなみに、ツイッター社は、トランプ大統領が根拠なく不正を主張するツイートに「誤解を招く可能性があります」と警告表示を付けている)。

アメリカのテレビの選挙特番をYouTubeでの同時配信で見ていて一つ感心したことがある。それは、5日にトランプが会見で投票の不正をまたしても根拠なく主張したところ、中継を止めて、アンカーがトランプの主張には根拠がないと言ったのだ。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、三大ネットワークはすべてそうしたという。
一方、日本のテレビ番組はすべてチェックしたわけではないが、ストレートニュースで、トランプの主張に特に留保をつけずに紹介したものがあった。
実は、偽情報が出回る一番大きな原因は、SNSよりもメディアの報道にあると言われている。発生していることをありのままに伝えることはメディアの重大な使命である。重要な人物の言動をありのままに伝える。ポピュリストはそれを悪用する。どんなに根拠のない主張をしても、ストレートニュースで言動をありのままに伝えてくれるおかげで、偽情報や陰謀論を強力な影響力を持つテレビや新聞という媒体を通じて伝えることができる。これが、拡散にとって最大の助けになる。出回ってから「ファクトチェック」をしてもあまり効果はない。最初の段階で悪用を防がなければならない。
アメリカのメディアも、視聴率の稼げるトランプ大統領の話題に安易に食いついてしまっていると指摘されることがある(ティモシー・ジック〔田島泰彦ほか訳〕『異論排除に向かう社会』日本評論社、2020年、61頁以下参照)。しかし、上記の三大ネットワークの対応からは、メディアの生理を悪用されていることにメディアの側が自覚をもって対処しようとする姿勢がうかがえる。一方で、外国のこととはいえ、日本のメディアにはそのような対応がまだまだできていないことが対比的によく分かった。外国の話題でありながら偽情報や陰謀論が出回っている現状(国内の問題については、最近の日本学術会議に対するデマを参照)、また、メディアの生理を悪用する人物が日本にもいることを思えば、合衆国で起きている事態から学ぶことは多そうである。



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