ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

報道の暗中模索、五里霧中

 まだ、昨日の「余韻」をひきずったままです。
 うまく表現できないのですが、一年前に父親が亡くなったときの得も言われぬ喪失感に似ています。あのときは夜中にかかってきた電話で「心肺停止」と言われ、病院に直行しました。応対した看護師に「大丈夫なんですか」と尋ねると、「先生から説明があります」と言われて、部屋に通され、程なく医師から「死亡宣告」を受けたのです。痛恨でした。何時何分死去という人の死は、医師の宣告によって決まることを改めて知りました。伝えられるところによれば、昨日、昭恵夫人が奈良の病院に着いたのは16:55頃で、安倍氏の死亡時刻は17:03です。ああ、同じだと思いました。
 空を見上げれば、風が吹いて、木々の葉が揺れ、……世界のどこかに、喪失感に打ちひしがれている人が他にもいるかもしれないと、今さらながら想像させられます。

 気を取り直して、昨日の昼以降のメディア報道と印象を若干記しておこうと思います。

 小生はテレビ朝日のニュースを見ていて安倍氏の銃撃を知りました。11:50頃です。当初は安倍氏が撃たれたことだけが速報で短く伝えられました。そのうちに「心肺停止」と連呼され始めたので、これは大ごとだと思い、NHKに切り替えました。現場からの中継に続き、撃たれた瞬間を撮したらしい動画が程なく放映されました。一発目で白煙が上がり、驚いた安倍氏が後ろを振り向くとすぐに二発目があって、氏の姿が見えなくなりました。現場にいた一般の人が遠くから撮したものなのでしょう。はっきりとは映っていませんが、生々しさを感じました。この動画は、この後、幾度も放映されることになりますが、すぐさま編集によって二発目で倒れる部分だけがカットされたものが流されるようになります。さすがにこの部分は「まずい」と判断したのだろうと思いました。
 しばらくして、目撃者へのインタビューが映されました。近くのビルの上階から見ていたという高校生らしき女性二人が並んでいて、事の詳細をこれも生々しく話していました。特に、安倍氏が倒れたのは二発目のあとであること、安倍氏を撃った男性は、逃げることなく、銃をその場において座り込んだ?という証言が印象的でした。しかし、このインタビューの映像は、夕方の段階になると、編集されて二人の顔は隠されていました。やはり高校生だったのかと、思いました。
 何となくボーッとした思いのまま16:30過ぎまで仕事をして、16:45頃にテレビをつけると、昭恵夫人が病院に到着するという話になって、17:00を回ってしばらくすると、字幕が「亡くなった」という文言に切り替わりました。予期していたこととはいえ、ダメを押されたような気持ちです。
 18:00から病院の記者会見があるとのことでしたが、始まったのは18:15を過ぎた頃だったでしょうか。担当医師が短く説明をしたあと、質疑に切り替わりました。選挙期間中で記者があちこち散らばっていて、必ずしも医療関係に知識のある記者が出向くことができず、当座詰めていた支局の記者が集まったせいでしょうか、質問の趣旨がうまく伝わらなかったり、同じ趣旨の質問の繰り返しが多かったように感じました。中には、撃たれた直後の応急措置や心臓マッサージが適切だったかどうかと、その評価を担当医師に尋ねるものもありました。「そんなもん、答えられるか!」と思いました。記者たちが、当局の発表だけで記事を書いている人か、それとも、きちんと取材している人か、日頃、どんな意識で仕事をしているのか、質疑応答を見ながら、あれこれと想像しながら眺めました。

 亡くなったジャーナリストの筑紫哲也さんは、どこかで新聞とは異なるテレビ報道の臨場感と可能性について述べていたと思います。刻々と上がってくる情報を瞬時に仕分けし、流したニュースに対する世間の反応がすぐにわかるというのは、ほとんど「同時性」といっていい緊張感があります。伝え手のテレビは、こうした事件報道では、暗中模索、五里霧中の跡が見え隠れします。言葉遊びではありませんが、「霧中」を「夢中」で進むようなところがあるでしょう。多少の「放送事故」に類することがあっても責められない気がします。
 一方、新聞の側は、テレビに比べればまだ考える時間があります。短い時間とはいえ、記事や写真の適否、反響などを頭の中で「試行錯誤」できるのです。ところが、今朝の毎日新聞の一面には、安倍氏が銃撃直後に倒れて介抱されている写真が掲載され、画像に一部処理を施したことが注記されています(血痕の部分のモザイクのことと思います)。この写真を画像処理をしてまで一面トップに掲載する必要があるのか、小生には大いに疑問です。写真の左側には主筆の前田浩智氏による、「民主主義への愚劣な挑戦」と題する記事があるのですが、どこか空々しく響いてしまうのは、この写真が隣にあるからかもしれません。それとはっきりわかる瀕死の安倍氏の血の気の失せた顔を見ながら(見させられて)、この記事に、諸手を挙げて賛同する気持ちにはとてもなれないのです。
 「民主主義への(愚劣な)挑戦」という文言についても、明日、投票当日になると書きにくくなるので、今のうちに一言書いておくと、こうした記事があふれるのは、結果的に、安倍氏を「民主主義の殉教者」のように祭り上げるのに効果的だという気がします。……安倍氏が? いくらなんでも、そんなはずはないでしょう。モリ・カケ・サクラ……ほか、すべてを闇に葬るための地ならしにならないよう、気を留めておきたいです。

安倍元首相銃撃 民主主義への愚劣な挑戦=主筆・前田浩智 | 毎日新聞

*以下に写真の出所を貼り付けますが、ご覧になるかどうかは各自の判断でお願いします。
安倍晋三元首相、銃撃受け死亡 奈良で遊説中 [写真特集2/14] | 毎日新聞





↓ よろしければクリックしていただけると大変励みになります。


社会・経済ランキング
にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ
にほんブログ村