ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

参院選 内田樹さんの記事2つ

 「内田樹の研究室」に昨日(6月19日)付で2本の記事が掲載されていて、興味深く読みました。1本めの『週刊金曜日』に10日前に寄稿したという記事には、「おっ!?」と思いました。
 昨年秋の衆院選について、個人的には、自民党が選挙前に総裁選を設定し、メディアを使って総裁選が疑似首相選挙であるかのように大々的に演出し続け、それに国民は世論の一部として参加したような気にさせられたその「手法」や「技術」に、むしろ関心を向けていました。ですから、「(選挙民の多くは)勝ち馬に乗る」という内田さんの結論には、いささか承服しがたい面もあるのですが、選挙に勝ちそうな政党に投票すれば、自分(たち)は「正しい政治的選択をした」と納得する心情、簡単に言えば「大勢順応」を合理化する心理的傾向(指針?)があるのは否定できないように思います。
 以下、引用をお許しください。

選挙と公約 - 内田樹の研究室

……『撤退論』という本を一緒に書いた政治学者の白井聡さんは、その論考の中でアメリカのダートマス大学のチームが行った日本における政党支持と政策支持の「齟齬」についての研究を紹介してくれた。直近の衆院選の選挙結果分析なのだが、それによると自民党が圧勝したこの選挙で、自民党の政策は他党に比べて高い支持を得ていない。政策別の支持を見ると、自民党原発・エネルギー政策では最下位、経済政策とジェンダー政策はワースト2、コロナ対策と外交安保で僅差で首位。
 では、なぜ政策が支持されていないにもかかわらず、自民党は勝ち続けるのか。そこで研究チームは政党名を示さないで政策の良否を判断してもらった場合と、政党名を示した場合を比較したのである。驚くべき結果が示された。自民党以外の政党の政策であっても、「自民党の政策」だというラベルを貼ると支持率が跳ね上がるのである。日米安保廃棄をめざす共産党の外交安保政策は非常に支持率が低いが、これも「自民党の政策」として提示されると一気に肯定的に評価される。つまり、有権者はどの政党がどういう政策を掲げているかを投票行動の基準にしているのではなく、「どの政党が権力の座にあるのか」を基準にして投票行動をしているのである。
 これは「最も多くの得票を集めた政党の政策を正しいとみなす」というルールをすでに多くの有権者たちが深く内面化していることを示している。有権者たちは自分に利益をもたらす政策ではなく、「正しい政策」の支持者でありたいのである。だから、政策の適否とはかかわりなく「どこの政党が勝ちそうか?」が最優先の関心事になる。その政党に投票していれば、彼らは「正しい政治的選択をした」と自分を納得させられる。……

 このダートマス大学の研究チームが行ったという、政党名を隠して政策の良否を判断してもらうという調査――むかし同じことを授業で試したことがあります(すでに1980年代には先行授業実践例が紹介されていたので、そのマネをしてみました)。この「覆面人気調査」をやると、(当時の)生徒たちの評価では、自民党は人気がなかったとは言いませんが、何度やっても決して1位にはなりません(中の上くらいだったでしょう)。で、ひとしきり政策の善し悪しを討論した後に「覆面」をとると、生徒は自身の選択と実際の政党が主張する政策とのズレに意外な顔をするわけです。中には「自分は自民党(の政策)を選んだつもりだったのに」と「悔しがる?」生徒がいたりして、なるほど、政党投票と(自分の)正しい政治的選択が心情的(願望的)に結びつくという、内田さんの指摘もわかります。

 内田さんの記事の続き―― 
……次の参院選では誰もが「野党はぼろ負けする」と予測している。だから、たぶん野党はぼろ負けするだろうと私も思う。みんながそう予測しているからである。「負けそうな政党」があらかじめ開示されている時に「勝ち馬に乗る」ことを投票行動の基準とする有権者が「負けそうな政党」に投票するということは原理的にあり得ない。
 2009年に政権交代があったのは「民主党が勝ちそう」だとメディアが囃し立てたからである。だから、民主党の政策をよく知らない有権者たちもが「勝ちそうな政党に投票する」という、それまで自民党に入れてきたのと同じ理由で民主党に投票したのである。それだけの話である。逆に、2012年の選挙の時は「民主党は負けそうだ」とメディアが揃って予測したので、有権者は「負けそうな政党」に自分の一票を入れることを回避したのである。……

 しかし、自民党内にも「選挙は水もの」で、何かあれば情勢は一変すると警戒する重鎮はいます。彼らは若い議員たちとちがって、過去をよく知っているからでしょう。1998年の橋本龍太郎政権時の参院選は、事前予想では自民党は60議席を確保して安泰だと思われていましたが、ふたを開けてみると44議席しか獲れない大敗を喫し、橋本首相は何とこの後退陣することになります。
 こうなると、メディアが何をどう報道するかは選挙結果を大きく左右しそうです。進行中の物価高を「岸田インフレ」と呼ぶかどうかはさておき、庶民の多くは家計のやりくりに苦しめられています。それを政治とどう結びつけるか(あるいは、つけないのか)。

 内田さんのもう一本の記事(中日新聞・連載「視座」)にはこうあります。
選挙では誰に投票するのか? - 内田樹の研究室

……「万人にとって正しい政策」や「科学的に正しい政策」を私は求めない。人間たちの営みは偶発的過ぎるし、世界の先行きは予見不能だからである。
 それでも、歴史を振り返ると、どういう政策が国を亡ぼすことになるのかはだいたいわかる。それは「わが国の本来の姿に戻る」ことをめざす政策である。わが国が「こんなありさま」になっているのは外部から異物が混入してきて社会を汚染したせいである。だから、その異物を検出し、排除すれば社会は「原初の清浄と活力」を回復するであろうというタイプの言説である。
 このタイプの妄想を信じた人たちによってこれまでたくさんの人が殺され、多くの価値あるものが破壊された。いまウクライナでロシアがしていることも、新疆ウイグルや香港で中国がしていることも、この「あるべき国の姿」幻想に駆動されているのだと私は思う。だから、これがいずれ両国の「亡国」の遠因になると私は思う。今は中ロどちらの国民も権力者に圧倒的な支持を与えているけれども、国民ひとりひとりが「わが国はいかにあるべきか?」よりも「これがほんとうに私の暮らしたい社会なのか?」と自問する習慣があれば、今あるような国にはなっていないはずである。
……私は基本的人権が尊重され、市民的自由が守られる社会で暮らしたい。それだけである。国が貧しくてもいい、軍事的強国でなくてもいい。金があり、力があり、隣国から畏怖されているが、権力者におもねる以外に国民に生きる手立てがないような国では暮らしたくない。だから、「私が暮らしやすい社会」にしてくれそうな人なら誰でも私は応援する。

 今週、いよいよ参院選の公示です。




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