ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「再版華族」

 今日(日付が替わったので昨日22日)の衆院予算委員会で質問に立った立憲民主党野田佳彦氏(元首相)が、岸田内閣の閣僚20人のうち8人が「世襲」であり、3世議員の岸田首相がジュニアに引き継げば4世になるとし、「ルパンだって3世までだ」と批判したとのことです。「ルパン」の名前を出してウケをとりたかったような気もしますが(笑)、夕方のTVニュースの見出しになっていて、ちょっと目を引きました。
「ルパンだって三世まで」 立憲・野田元首相が自民の世襲を批判 | 毎日新聞

 自民党の国会議員の3割から4割くらいが「世襲」であることは、前にブログに書いたので繰り返しませんが、「世襲」にともなう実際上の大問題は、岸田首相が答弁したような「国民が幅広く有能なふさわしい人材を」選べなくなるという話とはちょっと違う感じもしています。「世襲議員」が「有能」かどうか、よりも、政治権力の「世襲」が続くとどういう事態が起こるかということの方が問題だと思います。
 日本の国会議員は高額な給与以外にも様々な「特権」を享受していますが、これが代々世襲されるとなれば「政治家職能一家」〇〇家の誕生です。当主は周りから「殿」と呼ばれ、息子は「若様」と呼ばれるでしょう。親はできれば自分がした苦労を子どもにはさせたくないと考えますが、代を重ねれば重ねるほど、「若様」の経験値は先細っていくでしょう。しかし、周囲からすれば、逆に「バカ殿」の方が担ぎやすいし、自分の好きなように操れる余地が生まれます。ただ、いくら「バカ殿」でも違法行為はまずい。世間に知られる前にもみ消すか、知られても軽微なレベルに落とし込むか、いずれにしても「権力」のアシストが必要で、「公明正大」にやられたんではたまりません。国会議員には「不逮捕特権」なるものがあって、国会開会中は逮捕されませんが、閉会中でも逮捕・処罰されないように各機関に網を張っておく必要もあるでしょう。国会議員が法に反することをしてもなかなか逮捕されず、処罰も受けないで(あるいは、受けても軽微で)済んでしまうことが多いのは、こういうことだろうと思います。そうはいっても、このあたりは情勢や力関係に左右される面があるので、たとえば河井元法務大臣のように逮捕され、実刑判決を受けて服役する場合ももちろんあります。たまにはそういうこともないと「バレてしまう」でしょうし……。ただ、一般人の犯罪認定と比べると、ハードルが高いのは間違いありません。首相経験者など、あるクラスより上になると、何があろうとほとんど「雲の上の存在」になってしまいます(たとえば東京オリンピックの利権差配の大親分)。そういうのを一般の人はどんな気分で見ているか、それが問題です。

 野田氏は今日の質問の中で「歌舞伎役者じゃないんだから」と言ってましたが、直近のニュースで言えば、世襲の典型例である梨園関係者の「特権」も同様だと思います。歌舞伎俳優の市川猿之助は昨日までに両親の自殺幇助の罪で、懲役3年、執行猶予5年の有罪判決が確定したそうですが、一般人が同様の事件を起こした場合、メディアや司法から同様の扱いをされるかどうかは大いに疑問です。ましてや、週刊誌報道を苦にして自殺しようとまで思い詰めたことが事件のきっかけで、報道事実が消えたわけでもないのに、一転役者として舞台に復帰したいと考えるなど、普通に考えてあり得ない話です。それでもファンやメディアには関係のないことなのか、今や中車(香川照之)の下劣な品行もなかったかのごとくです。
市川猿之助被告 有罪判決確定 “言い表せない罪を感じている” | NHK | 事件
(3ページ目)懲役3年執行猶予5年の市川猿之助被告…現状は“白紙”も「遠からず舞台に戻る」と梨園関係者|日刊ゲンダイDIGITAL

 明治政府は新国家建設にあたって「士農工商」をやめ「四民平等」を立前とする旨を内外に宣言してスタートしました。近代国家として諸外国から認められるには身分制を否定しないわけにはいかなかったのです。しかし、旧来の立場を否定された特権層の士族・公家からの猛反発を招き、やむなく彼らを「華族」に列して鉾を収めてもらったのでした。敗戦後の1947(昭和22)年、制度としての「華族」は廃止されました。しかし、今でも時折「華麗なる一族」という語が出て来るように、「血筋」や「家柄」は、この国の一部では大いに「重宝」される傾向があるようです。歌舞伎の世界(梨園)はその典型ですし、世襲議員の一族も同じです。人びとの不公平感は、「特権」への嫉妬、幻滅、諦念を招き、一方で無気力、他方で腹いせに弱者に攻撃の矛先を向ける者が現れるかも知れません(すでにそうなっていると思いますが)。それが心配です。

 「再版華族」などという用語はありませんし、制度名もありません。だいたい公・侯・伯・子・男の爵位もないのですから。しかし、そう呼びたくなるような「特権階級」が「華族」のごとく再びその存在を露わにしてきたように見えるのです。


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