ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

10月解散総選挙は無理でしょう

 岸田内閣の支持率の落ち込みに歯止めがかからなくなっています。土日の調査によれば、日経とテレビ東京の調査で、支持率は43%(前回8月:57% 不支持49%)。毎日新聞と社会調査研究センターの調査では、支持率は29%(前回8月:36% 不支持64%)となり、30%を切りました。いずれも、この間の国葬と旧統一教会問題に対する批判の高まりが反映されているようです。
内閣支持率16ポイント急落36% 発足以降で最低 毎日新聞世論調査 | 毎日新聞

 一週間後に迫った安倍氏の「国葬儀」に関しては、岸田内閣は完全に国民世論を見誤り、局面を打開できずにいます。まず、国民に弔意を求めないと言明した時点で、論理的に「国葬」でなければならない理由と意味を失いました。しかも、それを「国葬」ではなく「国葬儀」と言い繕っても、実のところ、「内閣葬」とどこがちがうのか、説明がつきません。不信感が増しただけです。
松尾貴史のちょっと違和感:「国葬儀」 印象操作のつもりなのか | 毎日新聞

 岸田首相に「これは理屈じゃねえんだよ」と進言したとされる人物の言うとおり、「理屈」を一切差し挟ませない過去の日本の姿を甦らせる――「国葬」はその象徴のように思います。9月10日のTBS「報道特集」で日本近代史家・宮間純一さんはこう述べています。いくつか補足を加えて概要を起こします。
賛否割れ…国葬の是非は?【報道特集】 - YouTube

 そもそも国葬というのは、天皇国家のために尽くした功労のある人を、天皇と国民が共同して悼もうと、その人がいかに偉大な人物であったかを褒め称えようと、そういう場として機能してきたと思います。結果的に、国民を統合し、国家というまとまりを強固にしていく機能をもってきたのが国葬です。
 大日本帝国下で最後の国葬となったのは、連合艦隊司令長官で戦死した山本五十六国葬です。山本の遺志をみんなで継承して、この戦争を完遂するということが、国葬の場で訴えられたのです。これは国葬が戦争動員のために利用された儀式であることを現しています。そこで、私は戦争に協力したくない、ということは言えないわけです。態度として、そういうことを表明できなくさせる機能があったということが、大事な点です。国葬大日本帝国の遺物で、現代の世の中に甦らせてよいものではないと考えます。
 国葬は、国葬によって評価される人物に対する反対意見、批判する意見を抑圧する機能を基本的に備えていたという意味で、民主主義的なものとは言えないと思います。国葬のようなものを政治が好きに使えるような前例をつくると、未来の私たちの子ども孫たちの時代に、何かまずいかたちで機能することがあるのではないかと、とても危惧しています。

 打開する機会は何度かあったし、決断は早ければ早いほうがよかったと思います。中止するかどうかはさておき、右派からの批判覚悟で「国葬儀」という名称を諦めるだけで、ここまで反対世論が強まることもなかったでしょう。あるいは、エリザベス女王死去の報せにかこつけて、葬儀自体、名称も含めて見直すと言えば、流れを変えられた可能性もあります。
 ジャーナリストの西村カリンさんは、郷原信郎さんとの対談でおおむねこう言っていました。
【欧米人から見た安倍元首相殺害事件と「国葬」について、フランス人ジャーナリスト西村カリン氏に聞く】郷原信郎の「日本の権力を斬る!」#173 - YouTube

 西村弔問外交で各国から首脳がたくさん来日するという話もありましたが、それは誤算だったと思いますね。G7の首脳の中では一人しか来ない。それはカナダのトルドー首相ですけど、フランスのマクロン大統領は来ないし、アメリカのバイデン大統領も来ない、ドイツもイタリアも来ない。これは外交面で成功しているとは言えないと思います。もちろん各国から大勢人は来るでしょうが、誰が来るかということを見ないといけません。
 なぜ各国の首脳級が来ないのかについては、いくつか理由があると思います。安倍元総理が亡くなったのは7月で、国葬をやるのは亡くなってから2ヶ月もたってからですよね。タイミングがよくない。それから、安倍氏については、死後に統一教会に関する情報が明らかになったし、昔のスキャンダルもけっこうあったし、日本の国民の反発があるから、この状況で行くのがいいのかどうか、各国の首脳たちはたぶん考えたと思います。あと、9月は、海外では日本の4月と同じように新年度だから、一番忙しくて、国連の会議もある。日本は遠いんですね。なぜ、もっと海外の事情を理解したうえで判断しなかったのか。失礼ですけど、(日本の政治には)時々、アマチュアみたいな判断をすることがありますよね。
 海外ともっとやりとりをしてから決めればよかったと思うんですけど、それがなかった。いきなり7月14日に国葬をやりますと発表しましたけど、本当に国葬をやって海外から弔問客を招くということだったら、もっとカレンダーを見て、どのタイミングが一番ふさわしいかを確認しないといけなかった。9月27日にすると、海外の要人の誰が来られそうなのかとか、どこまでそういう話をしていたのか分かりませんけど、今の状況を見ると、そういうのが足りなかったと思いますね。
 日本の外交は、コロナの影響もあって外国の要人と会う機会が少なくなったこともあるけれども、どんどん弱くなってきているんじゃないかという不安があります。世界に対する日本のイメージが悪くなることや、そういう言動をする政治家が出ると、ああ、またやっちゃったと、がっかりすることが多い。今回もそうです。何でこんなタイミングで国葬をやると言い出したんだろうかと。
 岸田総理には国葬をキャンセルする選択肢もあったと思います。日本にいるフランス人の研究者も言っていました。エリザベス2世が亡くなって国葬をすると決まったときに、(政府は)国民の反発もあるから、安倍元総理大臣の「国葬」はやめますと。そういう選択もできたと海外の専門家は思うようになっている。日本には、「国葬」をやるメリットよりもデメリットの方が多いんじゃないかと言う専門家が出てきています。
 エリザベス女王国葬をした後で安倍元総理の国葬をやるとなれば、どうしても比較してしまいますよね。日本にとってはよくない、だからやめるという判断もあったと思うんですけど、それには決断力が必要です。自民党の中には「国葬」をやりたいと思う議員は多いかも知れないけれど、国にとって何がよいか、よくないかを考えるべきです。政治家は自分のために働く人ではないはずです。誰のために働くのか、それは根本的には国民のためです。今起こっている状況は国民にとってよいことなのかどうかを考えるべきですよね。まあ残念ですね。

 こんな中、局面打開のため、「国葬儀」が済んだ10月に衆議院を解散する話が出ているそうです。衆院選はまだ去年の10月末にやったばかりです。衆院はいつから任期は1年以下でよく、しかも、首相の任意で随時選挙を行えるようになったのでしょうか。
岸田首相「お祓いでもいこうかな」…内閣支持率32%で10月解散が現実味「今なら野党は戦えない」(SmartFLASH) - Yahoo!ニュース

 野党の選挙準備が整わないうちに選挙をやれば、そんなに負けないで済むとか、統一教会問題の「禊ぎ」になる(終われば壺関係が一切リセットされ、当選議員は壺議員であっても国民から信任されたことになる?)とか、「10増10減」の小選挙区の区割で党内がゴタゴタする難儀を避けられるとか、この解散話で出てくるのは自民党の都合ばかりです。そもそも内閣不信任案が出て可決される見込みがあるわけでもないのに、何を争点=大義名分にして、去年やったばかりの総選挙をやるのか。1回の総選挙の費用は巨額です(2021年衆院選の国の予算は約678億円)。
 しかし、yahoo記事のコメント欄には、衆院選に併せて行われる最高裁判事の国民審査の海外投票制度を整備しないと違憲になるという判断が示されていることから、臨時国会でその制度設計をしてからでないと選挙はできないのでは、という指摘もあります。諸事情を勘案すれば、ふつうはとても「解散総選挙」など無理な話なのです。ところが、「国葬儀」の失態を反省することもなく、単なる「思いつき」で「解散」話を吹く政府高官がいて、さらに「理屈じゃねえんだよ」と電話をかけてくる人がいれば、そちらになびいてしまうのが今の岸田首相の姿なのです。首相が奥の手で解散すると言えば、議員も含めてみんな粛々と従うと思ったら、それは間違いでしょう。結局、1年前、前任者と同様、辞任に追い込まれるのではないかと思います。しかし、そうすると、自民党はまたまた1ヶ月かけて総裁選でもやるのでしょうか? 去年の秋にも増して難題が山積しているというのに。





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