ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

日朝首脳会談から20年の「拉致問題」

 小泉首相北朝鮮を訪問し、金正日総書記と日朝首脳会談を行ってから20年となりました。拉致被害者5人は帰国しましたが、残りの拉致被害者の帰国や生存情報などは頓挫したまま。政府は「拉致問題は内閣の最優先課題」と称してきましたが、結局、膠着状態のまま目立った進展はありませんでした。ところが、実は、安倍政権当時の2014・15年頃、拉致被害者の「一時帰国」に関する提案を、政府が北朝鮮から受けていたことが分かった、というのです。
拉致被害者2人の一時帰国拒否 安倍政権時、幕引き警戒(共同通信) - Yahoo!ニュース

 「複数の交渉関係者が明らかにした」とあるとおり、今になってこんな情報が漏れてくるというのは、こんなところでも「安倍のフタ」(佐藤章さんの用語)がとれたということなのかも知れません。
 それはともかく、田中実さんと金田龍光さん、二人の生存情報については、すでに2014年に共同通信NHKの報道があるようです(2020年10月26日付 参院有田芳生議員「質問主意書」)。それからやや遅れて、第二次安倍政権時、参院の質疑でこの件が取り上げられた場面については、「尾張おっぺけぺー」さんがTweetを上げてくれています。これは詳しくてわかりやすい。

尾張おっぺけぺー on Twitter: "2020(R2)年1月19日の参議院予算委員会。 森ゆうこ質疑。 この記事の話、直接ズバリの質疑。 森ゆうこ 「報道によりますと、2014年に北朝鮮から伝達されたものを政府が封印している、 そしてそれは安倍総理も御存じだという報道がございますけれども、安倍総理はこの情報を御存じだったんですか」 https://t.co/PgdJl7rhCY" / Twitter

「今後の対応に支障を来すおそれがあるため、お答えは差し控える」――みんな判を押したような、いや、金科玉条のごとくブレのない答弁です。

 有田さんは今年の6月に『北朝鮮 拉致問題』という新書を出していますが、その抜粋がWebにあります。
拉致問題の「完全解決」を約束した安倍元首相が封印した重大情報 | 集英社オンライン | 毎日が、あたらしい

 北朝鮮ストックホルム合意後の水面下交渉で、2014年秋と2015年に重大な情報を日本側に通達していた。政府認定拉致被害者である田中実さんと、認定はされていないが拉致の可能性を排除できない行方不明者の金田龍光さんが、平壌で生存しているというのだ。
田中実さんは神戸出身。幼いころ両親が離婚し、養護施設で育った。金田龍光さんも同じ施設で育ち、同じラーメン店で働いていた。その店主が北朝鮮工作員で、田中さんはそそのかされて1978年6月6日に成田からオーストリアのウィーンに向かい、陸路でモスクワへ移動し、平壌に入った。その後、金田さんのもとに筆跡が異なる「田中さん」からの手紙がオーストリアから届き、上京、行方不明となる。
北朝鮮は、田中さんについては2014年まで「未入国」としていたのに、一転して拉致を認めたのである。
しかし政府は、この情報を公表しなかった。そのことから、拉致問題を「最重要課題」と称していた安倍政権の本音が見える。横田めぐみさんや有本恵子さんたち「死亡」したとされる拉致被害者の「生存」情報でなければ認めないのだ。

……田中実さんと金田龍光さんの生存情報を伝達された日本政府はどう対応したのだろうか。伝達からおよそ5年後の共同通信の解説記事が、驚くべき内実を明かしている。見出しは「北朝鮮拉致情報、政府高官が封印」だ。……
「(解説)日本政府高官が2014年、拉致を巡る新情報を北朝鮮から伝えられながら公表しないことを決めていた。02年の日朝首脳会談北朝鮮が拉致を認めて以来、被害者5人や家族の帰国以外に進展はなかった。それだけに、田中実さんと金田龍光さんが生存しているとの情報を、日本が北朝鮮から引き出したのは成果といえるはずだ。被害者家族はもちろん多くの国民が交渉の行方を注視している。成果の一端を開示すべきだ。
2人は結婚し、平壌で家庭を持って暮らしており『帰国の意思はない』とも伝えられた。日本政府が再三、安否確認を求めている横田めぐみさん=失踪当時(13)=ら政府認定の被害者については、新情報は寄せられなかった。政府高官は『驚きと無念さが交錯した』と振り返る」(2019年12月26日配信)
共同通信は続けて、
「政府高官が『(2人の情報だけでは内容が少なく)国民の理解を得るのは難しい』として非公表にすると決めていたことが26日、分かった。安倍晋三首相も了承していた」
菅義偉官房長官共同通信の取材に『今後の対応に支障を来す恐れがあることから、具体的内容について答えることは差し控える』とコメントした」(2019年12月27日配信)
と報じた。北朝鮮が田中さんと金田さんが平壌で生存していると伝えてきた事実を、政府が秘匿し、それを安倍総理も認めていたというのである。菅義偉官房長官(のちに拉致問題担当大臣)が猛反対したというが、情報不開示の最終的判断者が安倍総理であることはいうまでもない。
<以下略>

 有田さんは「横田めぐみさん、田口八重子さん、有本恵子さんなどの生存につながる情報がなければ、前へ進もうとはしなかった。これが安倍総理の原則だった。明らかに拉致被害者に序列があったといわざるをえない」と書いています。

 日本政府としての最終目標は、拉致被害者の全員帰国ですから、北朝鮮側が「小出し」する情報に過度に反応したあげくに幕引きにされることを警戒していたかも知れません。しかし、全員ではなくても、一人でも二人でも可能性があれば動くべきなのは言うまでもありません。政府も「あらゆる機会をとらえて」とくり返してきたではありませんか。

 「尾張おっぺけぺー」さんのTweetに2018(平成30)年11月7日の参院予算委員会有田芳生議員(当時)の質疑が引用されています。有田議員が「総理、田中実さんという方はどういう方ですか」と尋ねられた当時の安倍総理大臣は、田中さんも政府として拉致被害者と認定している一人だと述べた直後、「この田中さんもいわゆる身寄りということにおいては非常に少ない方、もちろん御友人はいらっしゃいますけれども」と答えています。最初は意味がわかりませんでしたが、要するに、身寄りが少ないから(一時)帰国させても……と思っているのかと訝しく思いました。もし、そうだとすると、安倍氏人間性を改めて垣間見る思いがします。

 安倍政権の8年で失われたものはあまりにも多いのですが、「最優先事項」などときばった言い方をしなくとも、何とか地道な交渉を積み上げ直して、この問題は、できるだけ早く解決への道筋をつけなければいけないと思います。同時に、有田芳生さんや森ゆうこさんらを夏の参院選挙で落選させてしまったことが大いに悔やまれます。





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