ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

安倍県民葬と「王国」の落日

 山口県在住で親しい人がいないので、実際のところどうなのか、よくはわかりませんが、9月27日の安倍氏国葬儀に続き、10月15日には同氏の県民葬がとりおこなわれるようです。安倍氏は、選挙区こそ親からの地盤を引き継いで山口県の人のように見られていますが、生まれも育ちも東京で、墓参りと選挙がらみ以外で「地元」に帰ることはほとんどなかったと聞いています。県民でない人を県民葬にすることは、県外の人間から見ても疑問です。しかも、この県民葬、その半月前に国葬儀をしてから催すということで、山口県民にとっては、「二番煎じ」の感が否めないのではないかと思います。実際、国葬儀と県民葬の「構図」がよく似ています。

 ①葬儀を行う理由国葬儀について、岸田首相は、1)憲政史上最長の首相在任期間 2)さまざまな分野での実績 3)各国からの敬意と弔意に礼節をもって応える 4)民主主義の根幹である選挙運動中の非業の死 などを挙げています。一方、県民葬について、村岡・山口県知事は、1)歴代最長の首相在任期間 2)県政への貢献 3)多くの県民の弔意 4)過去の事例との兼ね合い などを挙げています。ちなみに、3)県民の弔意について言えば、8月18日時点までに県に電話やメールで寄せられた県民葬に関する意見は、総数137人のうち賛成13人、反対124人、つまり9割は反対とのことです。弔意はあったとしても、県民葬は必要ないというのが県民の意向では、という印象を強く受けます。Dr.ナイフさんが言うとおり、「弔意」と「国葬・県民葬」を混同すべきではないと思います。
https://twitter.com/knife900/status/1570930485970501635

 ②法的根拠国葬儀は内閣府設置法(4条3項33号)の「国の儀式…に関する事務に関すること」に基づいてなされた閣議決定、他方、県民葬は、地方自治法で県が処理するものと定める「地域における事務」を根拠と説明されています。県民葬も、国葬儀と同じで、明確と言える法的根拠はなく、一般的な県主催の行事をおこなう事務的手続き(責任)を定めた規定を、国と同じく、いわば恣意的に解釈しているようです。同知事によれば、実際にやるかどうかは「(知事の)裁量というか判断」とのことですが、知事の裁量権が万能ということはないでしょう。

 ③経費国葬儀は現時点では16.5億円+αで予備費から支出。県民葬は同じく6,300万円+αですが、こちらはさすがに補正予算を組むため、議会の承認が必要です。この点を逆に言うと、国葬儀では、政府が、国会承認を経ずに、行政の裁量でことを進めようとするのがいかに異様かがわかります。ちなみに、令和4年度の国の予算規模は一般会計で107兆5964億円で、予備費は5.5兆円! 同山口県の場合は、予算規模が7,862億円余で予備費は2億円です。コロナ対策にかこつけた、この国の予備費の額も凄まじいものがあります。

 ④弔意の強制国葬儀の場合は、国民一人ひとりに弔意を求めるものではない(強制はしない)と言明されていますが、官公庁などでは半旗を掲げ、定時に黙祷をするところが出るのではないかと思います(政府は質されても何も答えていませんが)。自治体や教育委員会・学校にも、強制はしなくとも「配慮」を求めるという形での「圧力」がかけられているようです。山口県の県民葬の方も、当日の半旗掲揚や黙祷については、9月上旬の段階で、県側は決まっていることはないと回答していますが、銃撃事件後に「県や教育委員会から弔意を表すことのお願い」という通知を出していますから、準じた対応をすると思われます。「強制」はしないけれども、誰が「求め」や「お願い」に応じないか、国も県もよく見ているぞ、ということでしょう。

反対の声は国葬だけじゃない 安倍晋三元首相の地元・山口県での県民葬に市民団体「法的根拠ない」:東京新聞 TOKYO Web
市民団体など 安倍元首相の「国葬」や「県民葬」に反対訴える|NHK 山口県のニュース
安倍氏の山口県民葬、知事「裁量というか判断」 開催根拠で議論も:朝日新聞デジタル
安倍元首相県民葬 山口県知事「県政後押しいただいた」 意義を強調 | 毎日新聞
県民葬)安倍元首相の国葬・県民葬に異議あり!山口県民の会 からの再度の要望書への山口県からの回答 RT_@tiniasobu - 安渓遊地

 しかし、県民葬は安倍氏当人を葬るだけでなく、「安倍王国」落日の象徴(ファンファーレ)になるかも知れません。下関の安倍事務所は12月をもって看板を下ろし、安倍後援会も県民葬が終わった後に解散するそうです。9月14日付「長周新聞」のコラムからの引用です。
安倍事務所終了のお知らせ | 長周新聞

……安倍晋三亡き後、引き続き下関なり山口4区を基盤にして安倍派としてのまとまりを維持することは困難になり、白旗を上げたような光景にも見える。以前から後援会長や幹部たちも高齢化が著しいことが指摘され、誰が安倍派を束ねていくのだろうか? と世代交代の懸念は語られていたが、地元において度量があってなおかつ睨みが効くような存在感のある者もおらず、リーダー不在とも相まっての解散なのだろう。その兆候は既に昨年の衆院選で8万票(前回選挙より2万4000票を減らした)そこらだったのにもあらわれ、実はお膝元における地盤崩壊・弱体化は進行していたのだった。
 生前はなんでもかんでも「安倍先生の意向だ」が天の声として機能し、筆頭秘書その他が威張ってこられたのも代議士の後ろ盾があったからにほかならない。90年代に父の安倍晋太郎が急逝した後、安倍派県議だった古賀敬章が一部秘書を引き抜き、4区奪取の動きを見せて対抗したのに対して、ケチって火焔瓶等々で浮き彫りになったような血なまぐさい制裁を加えて古賀を叩き出し、古賀を応援した企業に至るも市の指名入札から徹底排除するなど、極めて暴力的な形で下関における安倍一強支配は強まっていった経緯がある。
 近年は同じく自民党派閥である林派が3区転出で影響力を失うなか、下関市長も議長・副議長も安倍事務所の意向によってポストが決まり、保守系議員でも可愛がってもらえなければ冷や飯を食わされるなど、それは傍から見ていても露骨なものがあった。「安倍事務所プロデュース枠」とでもいうのか、個人票が乏しくなんの力もない安倍派市議や県議が、選挙になると安倍事務所の采配で組織票を割り振ってもらい、それこそ統一教会は市議選では井川、県議選では友田というように、病院や企業、各種団体や宗教関係のまとまった組織票に依存して計算ずくの当選を果たし、なかには気持ちが悪いほど右巻き風情の若手市議なんてのもいて、日の丸を振り回して飛んだり跳ねたりしてきたのも特徴である。そんなのが一方で道徳なり「美しい国」を説きながら、議長・副議長の特権なのか公用タクシーチケットを使い放題で、夜の歓楽街から当たり前のように税金に寄生して帰宅するのだから、笑わせる話でもあった。
 しかし、親分共々我が世の春を謳歌桜を見る会にも大挙して押しかけていた)し、図に乗ってきたのも終わりであろう。秘書たちもただの人となり、一事が万事「安倍先生の意向だ」で抑えてきたのが効力を失い、今後は一気呵成で反動が跳ね返ってくる番である。市議会を見てみると安倍事務所直結で議長・副議長ポストを独占し、ふんぞり返ってきた創世下関への風当たりは元々強かったが、さっそく冷や飯だった保守系会派が合従連衡で最大会派を結成するなど、何かしら仕掛けているようである。同じように「抑え」がなくなったもとでの変化は各所で顕在化していくのだろう。虎の威を借りようにも虎が狩られ、後ろ盾を失ってオロオロしている人たちがどうなっていくのか、振り子の針が逆方向に振れ始めたもとでの変化は注目である。
……





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