ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

戦争の役に立たない人/人の役に立たない戦争

 マガジン9に雨宮処凜さんの「第588回:戦争と障害者〜「戦えない人」は戦時にどう扱われてきたか。の巻」という3月23日付記事があります。その中にこう書いてあります。引用をお許しください。

第588回:戦争と障害者〜「戦えない人」は戦時にどう扱われてきたか。の巻(雨宮処凛) | マガジン9

……いつの時代も戦争は、立場の弱い者を犠牲にする。
 報道を見れば、多くの人が犬や猫を抱いて避難している。しかし、取り残されたペットもいる。物言えぬ者たちも犠牲になるのが戦争だ。
 そんなふうに世界が戦争に注目する中、「ウクライナ愛国心」をことさらに賛美する空気もある。祖国を守る、国土を守るために勇敢に戦う人々の姿に感動する、という情緒的な声だ。
……頭に浮かんだのは、…病気や障害がある人はどうするのかということだった。例えばALSの舩後議員みたいに、24時間介助が必要な人はどうするのか? 出国が許されるとして、安全に避難できるのだろうか? ウクライナの人々が、川に板切れを渡しただけのような橋を通って避難している映像を見た時、「これじゃ電動車椅子は無理だな」と思った。

 戦争という非常時、「戦えない人」は、そして戦えないだけでなく、人手を必要とする人は、いったいどういう扱いを受けるのだろう?
 そんなことを書いたのは、荒井裕樹さんの『まとまらない言葉を生きる』(柏書房)に書いてあったことを思い出したからだ。
 戦争と障害者についてのエピソードが多く出てくる本書には、アジア太平洋戦争時、ただでさえ肩身の狭い障害者たちが、兵力や労働力になれないという理由から「人間」として扱われなくなっていく様子が詳しく書かれている。
 例えば当時、障害児教育に人生を掲げた教育者(障害児のために開設された光明学校の松本校長)は、「非国民」となじられるようになったそうだ。以下、本書からの引用だ。

 「学校の先生が障害児に誠心誠意向き合う。そのこと自体が『非国民』扱いされる。そうした空気の中、当の障害児はどんな目で見られていたか。まさに推して知るべしという感じだろう。
 光明学校の子どもたちは戦争末期、長野県の上山田温泉に疎開している。この疎開先では、軍部から青酸カリが渡されたという話が伝わっている。もちろん、何か起きたときのための『処置用』だ」
 「『鬼畜米英』『撃ちてし止まん』といった荒々しい掛け声に混じって、障害者たちは『米食い虫』『非国民』と罵られていた。敵を罵る社会は、身内に対しても残酷になる。松本校長をなじった教育者たちのように『役に立たない人』を吊るし上げることが『愛国表現』だと勘違いするような人たちが出てくるのだ。
 このエピソードを思い返すたびに、最も安易でたちの悪い『愛国表現』は、その場の空気に乗じて反撃できない弱者を罵ることだと痛感する」

 本書で、荒井さんは自身が見聞きしたエピソードとして、戦時中、「こんな情けない病気になって申し訳ない」と割腹自殺をしたハンセン病患者についても書いている。
 そうして、別のハンセン病患者の書いた詩を紹介する。詩が書かれたのは戦争真っ只中の1943年。私はこれを読んで、「戦争」の別の側面を見た気がした。
 「鉄砲 鉄砲! /機関銃 機関銃! /ひとつみんなで血書の/嘆願書をださうぢやないか! /とんできた米鬼には/支那のヘロヘロ飛行機さんには/日本のどこへきても/日本人のゐるところなら/たとへ癩病院の上空までが/かたく守られてゐるといふことを/思ひ知らせてやるために一一一/ダ ダダ ダツ ダダダ/鉄砲を下さい! /機関銃をおさげねがひたい! /鉄砲と機関銃をおねがひします! /どうか どうか/おねがひします鉄砲を!」(三井平吉『おねがひします鉄砲を』)

 この詩について、荒井さんは以下のように書いている。
 「迫害されている人は、これ以上迫害されないように、世間の空気を必死に感じ取ろうとする。どういった言動をとればいじめられずに済むか、自分をムチ打つ手をゆるめてもらえるかを必死になって考える。
 だから、戦時中の障害者の文学作品には、実は熱烈に戦争を賛美するものが多い。『戦争の役に立たない』からこそ、逆に『私はこんなにも戦争のことを考えています』といった表現をしなければ、ますますいじめられてしまうからだ」

 雨宮さんは、記事の最後に「戦争は障害者を抑圧するだけでなく、障害者を多く生み出すものでもある。身体の障害はもちろん、メンタルにも…」と書いています。
 「敵を罵る社会は、身内に対しても残酷になる」。心に銘記すべき言葉です。


 同じマガジン9の3月30日付記事で、芳地隆之さんが『なぜ戦争はよくないか』という絵本を紹介しています。
『なぜ戦争はよくないか』(アリス・ウォーカー 文/ステファーノ・ヴィタール 絵/長田弘 訳/偕成社) | マガジン9

amazonの「試し読み」で中をのぞいてみると、原爆ドームを背景にしたページにこう書いてありました。調べたら地元の図書館にあるので、今日見に行きます。

 戦争は
 不愉快なものよ
 自分勝手な
 とてつもない
 大食らい
 戦争が食べないものが
 何かある?
 きりなしのよだれくりなの
 戦争は




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