日本を「経済大国」だと自認する人は多いようです。何せ名目GDPは米国、中国についで第3位という話です(一人あたりに換算すると20位以下ですが)。他方で、日本を「先進国」だと思う人の方はどうなのでしょうか。小生には若い世代になるほど少なくなっているような感じがします。
理由はいくつか考えられますが、たとえば、政治学者の中野晃一さんは、最近Progressive! Channel という動画を立ち上げ、3月19日付の「10分でわかる!政治哲学のキホン① ちょっと日本ヤバくないですか」では、LGBTI(性的マイノリティ)、同性婚、選択的夫婦別姓、ジャンダーギャップなど、若い人たちが関心を寄せる分野で、日本は完全に世界の潮流から取り残されていて、その理由はこの国の政治の悪意と怠慢によることをわかりやすく述べています。
10分でわかる!政治哲学のキホン① ちょっと日本ヤバくないですか Progressive! Channel 中野晃一 - YouTube
日本だけが「蚊帳の外」というのは、長年外国と日本を往復している人には肌身に感じられることなのでしょうか。小生のように千葉県の田舎にへばりついている輩には想像するしかありませんが(地元?の成田空港にももう何年も行っていません)、ノンフィクション作家の高野秀行さんはインタヴューでこう答えています。「日経ビジネス」3月15日付記事より引用させてください(聞き手は奥平力・記者)。
辺境の地になった日本 生き残る道は世界の“古都”:日経ビジネス電子版
――欧米や新興国の経済成長から取り残されて、日本は貧しくなったといわれます。30年以上、海外渡航を続けられていますが、実感することはありますか。
高野:感じるどころではありませんね。この10年、15年ぐらいの日本の沈没ぶりにはまあ、すさまじいものがあります。成田空港ほどみすぼらしい国際空港は探してもなかなか見つかりませんよ。
現在のアジア各国の空港は巨大で豪華ですから。バンコクから帰ろうが、シンガポールから帰ろうが、ドバイから帰ろうが、成田空港に着くと田舎の各駅停車が止まる駅か、バスの終点みたいな感じがします。本当に、ユーラシア大陸のどん詰まりに来てしまったなって。
――なるほど。
高野:でも、ここが故郷の村だしな、みたいな感じですよ。そして、またびっくりするのが、故郷の極東村はそのことに気づいていないということです。いまだにタイやインドは遅れていて、一方で自分たちはすごく近代的な暮らしをしていると思い込んで疑わないというのは驚きですよね。もちろん新興国には格差の問題がありますが、上流層の成長のスピードには目を見張るものがあります。
アジアやアフリカの国々の政治家や財界のトップで、欧米の大学を出ていない人なんて軍人出身者を除けば、まずいないでしょう。海外経験どころか、海外の大学を出て修士号や博士号を持っている人がざらです。
そういう人たちの頭の中はワールドスタンダードなので、当然、世界で何が起きているかを知っているし、友人も欧米諸国にたくさんいて、しょっちゅうSNS(交流サイト)で情報交換したり、電話をしたりしている。日本だけが蚊帳の外に置かれているという印象です。
――日本だけが取り残されてしまっていると。
高野:今はラオスのホテルでも、エコロジーのために毎日シーツは取り換えませんとか、備え付けの歯ブラシは置きませんとかいったことを案内している。特別高級じゃない、ラオスの普通のホテルで、ですよ。
一方で日本のホテルはといえば、ほとんどそうした環境への配慮はありません。しかも分かっていてあえてやっていないのではなくて、世界の潮流を知らないんですよね。たまに講演で呼ばれたときに地方の高級ホテルに泊まると、備え付けのテレビには有料のアダルトチャンネルが設定されていて、しかもその案内が部屋に堂々と置かれていることもある。家族で利用する場所にそんなものがあるなんて、世界標準からすればあり得ないわけですよ。危機感がまるでなく、世界との差に全く気づいてない。
高野さんはインタヴューの後半で、「辺境の地」となってしまった日本は、今後どうなるのかと問われて、こう言っています。
高野:最近、日本というのは世界における古都だなと思うんですよ。政治的にも経済的にも先端科学の面でも影響力がない場所ではあるものの、伝統文化や豊かな食文化、自然景観といったものがあるわけです。人を引きつける力がある。世界における日本の立ち位置というのは既にそうなっている気がします。
数年前に、川下りをしようと、大学時代の先輩と一緒にぶらっと中国の田舎に出かけたんです。ベトナム国境に近い内陸部で、30年ぐらい前までは水牛を乗せた船が行き来していたようなところだったんですが、すっかりニュータウンのようになっていた。コンクリートで護岸されていて、川下りをするようなところなんてなかったんです。……すごすごと日本に帰ってきて、代わりに栃木県から茨城県に抜ける那珂川に行ったんですよね。そうしたら素晴らしかった。田園風景の中を2両か3両編成の電車でことこと走って、電車を降りて歩いていくと川が流れていて、おじいちゃん、おばあちゃんが農作業をしていて。ここにはアジアで失われた風景が残っていると思いましたよ。
昔よく言ったじゃないですか。アジアやアフリカに行くと、日本が経済発展と引き換えに失ったほほ笑みや自然、昔からの生活が残っていると。ところが、今のアジアではそうしたものは急速に失われつつある。少なくとも韓国や中国には残っていないというのが実感です。ところが日本にはあるんですよ。韓国人や中国人で日本が大好きな人たちというのは、日本に来ることで自分たちが失ったものを、冗談ではなく本気で感じているんだと思います。
韓国や中国は、日本とは比べものにならないぐらいデジタル化が進んでいる。店で1人だけ現金で代金を払っていると、後ろに列ができるからすごく恥ずかしいんですよ。田舎から出てきてすいませんみたいな感じで。日本に帰ってきて、小銭を数えてスーパーで払っている様子なんかを見ると、頭が痛いなあと思いますが、本当に自然が豊かで、神社仏閣とかそこら中にあるし、古民家なんかもたくさん残っている。……
しかし、あえて申し上げれば、その「自然」豊かな風景や田舎の神社仏閣も、そのままあと10年、20年、もつかどうかはわかりません。田園風景は「自然」にできているものではありませんから。そうならないように小生も含め、地方の人びとは努めていますが、なかなか難しいのが現状です。
政治の怠慢については、評論家の古賀茂明さんは一月ほど前のAERA dot. の2月15日付記事でこう書いていました。
日本政府が国民に移民を勧める日 古賀茂明(1/2)〈週刊朝日〉 | AERA dot. (アエラドット)
今日の日本は、…少子高齢化が深刻化し、社会保障の基盤が完全に失われた。(100年前の人口と食料の調節のような)「産児制限」どころかどうやったら「子供を産み育ててもらえるか」が最大の課題となっている。
しかも、国内産業の競争力は日に日に衰え、明日の展望が見えない。資源や食料価格の高騰によるインフレで国民生活は困窮の度合いを高めているが、世界の先進国が、金融引き締めでインフレ抑止に舵を切る中で、日本だけは、「引き締め」の言葉がタブーとなっている。
日銀がそれに少しでも言及すれば、いや、言及せずとも、引き締めを考えているのではという憶測を呼ぶだけで株価は暴落する。最後はバブルが破裂することは自明で、その時期が遅れれば遅れるほど、被害が甚大になることもわかっているが、誰もまともな金融政策に移行する勇気はない。
政府も国債に頼って、バラマキによる経済へのカンフル注射を続けない限り、すぐに不況になってしまうとわかっている。そこには、将来に向けた合理的な打開策は見当たらず、行きつくところまで行くしかない状況だ。
みんなで痛みを引き受けていくしかないと腹をくくっても、実際そうなったら辛いとは思います。けれども、今のウクライナの状況を見ていたら、できない、無理、などとはとても言えません。まして、冒頭のLGBTI、同性婚、選択的夫婦別姓…といった諸問題は、この間改善のために尽力されてきた方々のご苦労は百も承知(のつもり)ですが、そもそも政治家が決死の覚悟で取り組まないと変えられないレベルの話なのかと(多数派の意向を頑なに拒み続ける少数派権力の悪意しか見えません)。それで、この先も「日本、すごい、すごい!」と言ってれば安泰なのか、この国は…と思うのです。
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