ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

河東哲夫さんの解説

 ジャーナリストの神保哲生さんが元外交官の河東哲夫(かわとう あきお)さんにリモートでインタビューしている動画を見ました。ロシアのウクライナ侵攻は、日本が真珠湾攻撃へと心理的に追い込まれていった姿とよく似ていると言っています。概要を一部文字に起こしてみます。

河東哲夫×神保哲生:ウクライナへの合理性を欠いた軍事侵攻はプーチンが追い詰められていることの裏返しだ - YouTube

プーチンの思惑――なぜ侵攻に踏み切ったか?
 プーチンにとっては “今しかない” と思ったんじゃないかということですね。日本も戦前にはアメリカからさんざん圧力をかけられて、もうやるしかないということで真珠湾に攻め込んだでしょう。あれとよく似ている感じがするんです。
 どういうことかというと、ロシアは、2014年にクリミアを併合したときに、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州も勢力下に収めたけれども、その後、ウクライナ軍と戦闘になって、2014年8月にウクライナ軍をこてんこてんにやっつけて、その直後(9月)にミンスク合意を結んでるんですね。この合意は、要するに、ドネツクとルガンスクに非常に強い自治的性格を与えてくれればロシア軍は引くよという内容ですが、ウクライナ政府はこれが嫌でしょうがなくて、2014年以来ずっとこのミンスク合意をひっくり返してやろうと、狙ってきたわけです。でも、ドイツもフランスもアメリカも、それは嫌なんですね。
 ウクライナは特にアメリカを戦争に引きずり込もうと長年努力してきたけれども、アメリカは応じない、その代わり武器を送ったりとか、訓練する先生、軍人の将軍たちを送ったわけです。それがかなりの力になってるのでしょう。2014年のウクライナ軍というのはほとんど存在しないも同然で、(兵士を)戦地に送っても乗り合いバスで故郷に帰ってしまったという話もあります。でも、それから8年たった今、ウクライナ軍は20万になって、アメリから対戦車ミサイル、トルコからドローンを買って、この半年くらいは、ドネツ(両州)に対して攻勢を強めていたんですね。ドローンで何か撃ち込んだりして。それと同時にアメリカもロシアに対する圧力を強めているんですね。それは、ノルウェーとか、ポーランドとか、バルト三国とかから、ロシアを牽制するよう要請を受けて、その気になってアメリカ軍も爆撃機をロシアの国境近くまで飛ばしてミサイル発射訓練までやっているんです。そこまでやられたら、ロシアにすれば、キッとなりますよね。で、ロシアも反撃することを考えるんですけれども、ほっとけばウクライナ軍はどんどん強くなるから、今しかないと思ったというのが、「真珠湾」と同じになったということですね。

ロシアの「落とし所」は?
 ロシアは2024年に大統領選挙があります。今回のウクライナ侵攻は大統領選もかなり念頭においてやった可能性はあります。大統領選でウクライナとの戦争に勝利したことを目玉にしようとしたと。プーチンはこれまで2回くらいそういうことをやってるから。2000年の大統領選挙の時は、チェチェン戦争で人気がうなぎ登りになりましたし。
 プーチンの落とし所は、ロシア軍がウクライナにどこまで勝ったかによるわけで、一番好ましいのは、ウクライナに傀儡政権をつくることだったんでしょうね。ウクライナをスイスやオーストリアみたいな中立国にするのが100点満点でしょう。…0点なのは、全面撤退でしょうね。その次は、ドネツとルガンスクにロシアの勢力を残すことをウクライナに認めさせて退却すること。けれども、これも、もしウクライナ側が攻勢になったら無理ですよね。だから、考えてみると、60点とか70点とかは難しい。0点か100点じゃないかなあ。

中国への影響
 中国はジョージアの中の南オセチアアブハジアを国家承認していません。クリミアのロシア併合も認めていません。国内のチベットウイグルの問題に手を突っ込まれて、分離主義を助長されるのが嫌なんでしょうね。でも、今回は、その分離主義の問題を越えていて、ロシアはドネツとルガンスクの分離主義の助長だけでなく、ウクライナ全体を押さえるということになっている。こうなってくると、中国にとっては問題が違ってくるでしょう。明らかな侵略行為を中国は支持するのか、ということになるので、僕が考えるに、中国はこの機会に「優等生」になってやろうと。アメリカにすり寄って、点数を稼いで、少し関係をよくしてもらおうと思うかもしれない。
 それから台湾のことにどう響くかは、日本にとっても一番心配なところではありますが、中国は台湾に武力で侵攻するのは当面棚上げしている感じがありますよね。今年の秋には共産党大会があって、そこで習近平の終身党主席を認めてもらうというのがあるんで、それまでは安穏と行きたいでしょうから。台湾については平和的手段で政権をひっくり返すという方向に方針を変換した感じがあるので、今ウクライナの情勢がどうなったかで、中国が台湾侵攻に動き出す可能性というのは少ないと思います。

 河東さんは、三ヶ月前にこう指摘していました。12月15日付「現代ビジネス」の記事から引用します。

欧州の厄介の種、ウクライナ迷走の裏舞台と落とし所をすべて解説する(河東 哲夫) | 現代ビジネス | 講談社(7/7)

ロシアを世界経済から切り離すのは困難
ところで、米国がちらつかせる「これまでに例のない厳しい対ロシア経済制裁」とはどんなものだろうか? まだ何かやれる制裁は残っているのだろうか?
「ロシアを世界経済から切り離す」のは難しい。日本も含めて西側諸国はロシアにずいぶん投資をしているし、何と言っても欧州にとってロシアの石油とガスは不可欠だ。この秋も、欧州での天然ガス価格は昨年の約10倍にも跳ね上がり、ロシアは増産コールを受けている。そしてロシアは今や他ならぬ米国にとっても、重油など第2位の石油製品輸入相手になっている。
「例のない厳しい経済制裁」の候補としてよく言われるのは、「ロシアに海外市場での国債社債の起債をさせない」、「ロシアにドル決済をさせない」、「そのためにSWIFTシステムから締め出す」ということだ。

だが国債社債の起債禁止は、今のロシアに響かない。貿易収支は黒字で、外貨準備は膨れ上がり、財政も黒字だからだ。
一方、ドルを使わせないことはどうか? 世界の貿易では決済にドルを用いることが大半で、それは米国の銀行を必ず経由する。その途上、グローバルな送金指示システム、インターネットのルーターのようなSWIFTという、ベルギーに本拠のあるシステムを使うことが大半だ。
ここから締め出すと――と言ってもSWIFTは民間組織だから、政府の言うことをすんなり聞くわけではない――、ロシアは対外貿易ができなくなる……と米国政府は思っているのかもしれないが、ロシアにとって逃げ道は多い。欧州諸国とはユーロで決済すればいいのだし、中国とは、現在、ルーブル人民元で決済することも始めている。ロシアはウナギのようにつかまらない。

ただ、ウナギでも頭を打ち落とすことはできる。それはロシアの膨大な利権、資金の流れを握るプーチン側近の事業家(「寡占資本家」と言われる)たちの海外資産、そして資金の流れを、米国・英国はほぼ完全に把握しているはずなので、ここを凍結すれば、さしものウナギも力を失う。
だからロシアは、進めばひどい目に会う。さりとて中途半端に引き下がると、ウクライナの攻勢を食らう。手詰まりなのだ。そこをロシア指導部が正しく認識しているかどうか。2008年のグルジア、2009年のシリアでの軍事的成功と、当時の西側の反発の弱さに味をしめ、今回計算違いをすることはないだろうか。

 計算違いをしたのはロシアだけなのでしょうか。そこは気に留めておかないと、と思いました。

 なお、河東さんの、2024年ロシア大統領選とウクライナ侵攻についてのコメント(メルマガ記事)も興味深かったので、下に貼り付けさせてもらいます。
Japan and World Trends [日本語]: ウクライナ情勢と2024年ロシア大統領選挙


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