うろおぼえの話ですが、前にTwitterで「んっ!?」と思う投稿を見かけました。ある学者さんが息子から、なぜロシアはウクライナがNATOに入るのを嫌がって戦争をするのかと訊かれたので、経緯をできるだけ丁寧に説明したところ、「ロシアもNATOに入ればいいのに」と返されたと。…では、そのNATOとは何か? この子の言うように入れてもらえばいいのかもしれませんが、入れてもらえる国ともらえない国があるとしたら、それはなぜなのでしょう?――本質的にはそういう問題なのでは、と思いました。
NATO(北大西洋条約機構)は元々は共産主義圏の拡大に脅威を感じた欧米諸国が(一方的に)結成したもので、順番で言うと、NATOへの対抗上、後から結成された「敵陣営」である東側の軍事同盟=ワルシャワ条約機構は、ソ連が崩壊した1991年に解散してしまい、以後、NATOは何のための軍事同盟なのか、その必要性や存在意義が問われてきました。これは日米安保(日米同盟)にも共通する問題ですが、この30年は、常に「敵」をつくることによって維持されてきたと言ってもいいくらいです。
その結果、テロリストの烙印を押される集団や国がいくつも現れ、その「脅威」が叫ばれてきました。今やロシアは最大の「脅威」でしょう。もちろん、今のロシア・プーチン政権の武力行使を是認するわけにはいきませんが、一方的にロシアに「脅威」や「悪」の烙印を押すだけでは、このウクライナ侵攻戦争は止められないように思います。
先日の河東哲夫さんの話が大変興味深かったのですが、ジャーナリストの神保哲生さんが、続けてNGO・国連職員として世界の紛争処理に関わった伊勢崎賢治さんにもインタヴューしていて、こちらの方も今のウクライナの戦争を、実際的にどう停戦に持って行けるのか、考えさせられました。こちらも少々起こしたものを引用させてください。
伊勢崎賢治×神保哲生:NATOの「自分探し」とロシアのウクライナ軍事侵攻の関係 - YouTube
神保:国内的にも、ある種追い詰められところがあるんでしょうが、国外的にもプーチンをそういうふうに仕向けた……というのは言い過ぎですが、なるべくそういうことをさせないようにする手立てはいくつかあったはずなのに、たとえば、ウクライナがすぐにNATOに入ることは現実的にはないわけで、まあ、いろんな密約などもありますが、ウクライナがNATOに入らないようにしてくれと(ロシアが)言っても、それを完全に拒否するなんていうけんもほろろな対応をしなかったら、もしかしたらあそこまではならなかったかも知れないし、ウクライナのゼレンスキー大統領がNATO、NATOって言い出したのも、最初選ばれたときは、彼はどちらかというとロシア寄りで、うまいこと交渉して自分たちの地位を勝ちとろうと思ったら、プーチンが手強くてできない。でも、人気取りが重要なんで、途中から変わり身早く、今度はアメリカなどに近づいたところもあって、結局、プーチンをそういう方向に仕向けてしまったという見方もできるんじゃないかと。陰謀論みたいなことは言いたくないんですけど、でも、結果的には本来避けられた戦争をあえて戦争に引き込んでしまったような、そこをどうご覧になっていますか。
伊勢崎:陰謀論みたいな話では…。線を引いて、お前はそっち側の人間だみたいになっちゃうから、そこは注意深く言わなければいけないんで、河東さんが言われているようなロシアにおける政局、それとウクライナのゼレンスキー大統領を中心にした政局、アメリカにはアメリカの、ヨーロッパはヨーロッパの政局があってブレグジットでユニティ(統一)が崩れだして、それを再結束させるという最新の事情があって、そういうのが絡み合っているのは事実で、結果としてこうなった。僕にも僕なりの思いはありますしね。あんな国は嫌だとか、プーチンが失脚した方がいいとか、ロシアの人民の力で何とか、ペレストロイカのようにね…。でも、そうであったとしても、それをウクライナの人の血で贖うんですか、それで我々は実現しようとしてるんですか、ということなんです。…今この状態で、ウクライナの人たちだけに戦わせて、我々はそれを応援するだけなんです。死ぬのは彼らです。それと、ロシアの政治が変わるということは時間がかかることなんです。その間、死に続けるわけです、ウクライナの人は…。だから僕は停戦を言ってるわけです。まず停戦合意です。
停戦には技術論的な話もありますが、そのときにプーチンがいけないんだ、戦争犯罪をどうするかとか、という話は逆に「雑音」なんですね。これは僕自身がそういうことをやってきたんで、武装解除、停戦…。僕も人権とか国際人権法のことはわかってるけど、まず大切なのは戦闘を止めさせることで、そんなことを言ってたら銃をおかないじゃないですか。だから、人権とか、そういう大義は本当に大切だけど、まずそういう概念の「真空状態」をつくらないといけないんです、一時的に。そのときにもね、いろいろ言われるわけですけど…、でも、それが必要な時期なんですね。それを言っているわけです。
だから、停戦となると、「悪魔」とも握手をしないといけないわけですよ。…言い分を聞かないといけない。今だって、プーチンは無理筋な事を言ってるわけでしょう。まず、クリミアはロシアのものだとか、ウクライナ全土の武装解除とかね。でも、売り言葉に買い言葉で本当はそこまで言ってない(考えていない)かもしれないけど、仲介者の立場では現実的な落とし所を探らないといけませんから。つまり、ロシアはなぜこういう行動をとったのかを理解しなければなりません。それは決してロシアの肩を持つことではなくてね。そこを区別しないといけません、我々、外野席にあるものは…。
…アメリカについて言うと、アメリカは今厭戦気分満載ですよね。だけど、政治家だけ、民主党も共和党も盛り上がってます。だけど、バーニー・サンダースさんとか、オカシオ・コルテスさんとか、初めてムスリムで議員になった方とか、ソーシャリストの組織(アメリカ民主社会主義者?)がありますけど、いち早く声明を出してますよね。議会では少数派かもしれないけど、これはアメリカの拡張主義が問題をつくっていると。だから、アメリカはNATOから脱けろ、と言ってるんですね(笑)。
これはヨーロッパの本音としては、NATOの戦争になってしまったら、アメリカが当然来ますが、アメリカの軍事力は圧倒的で他のNATO諸国とは比べものにならないわけで、これはアメリカ対ロシアの戦争なります。そうすると、ヨーロッパが「緩衝国」、つまり戦場になってしまうわけで、それはヨーロッパ諸国としては何としても避けたいわけですよね。ヨーロッパでは騒いでるけど、アメリカはちょっと「外野席」みたいになってる。だからこそ、今、アメリカは囁けばいいんです。プーチンの耳にちょっとだけ聞こえるように。「アメリカとしては、NATOの拡大については興味はない」と、「しない」とか何とかじゃなくて、「興味がありません」と、それを囁くだけでいいんですよ。プーチン側の言っている表向きの理由は、アメリカの拡張で、それで攻め入ってるんだから、そこを崩せるわけですよね。こういうのも外野席としては、今回の停戦合意を進めるために必要ですよね。アメリカ国民は絶対に文句なんか言わないはずですよ。…
<以下略>
とにかく、即時停戦、第三者の仲介…という段に早く進むよう、祈るしかありません。
割愛しましたが、最後の「ジャパニフィケーション」(日米 “同盟” ではなく “従属” )の話も非常に興味深かったです。
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