ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「50点狙って0点」「北方領土問題」のこと

 「桜を見る会」の前夜祭について、公職選挙法違反容疑(寄付の禁止)で検察審査会から「不起訴不当」の議決を受けていたアベシンゾー氏を、東京地検特捜部は昨日12月28日、嫌疑不十分として再び不起訴処分とした。何とも釈然としない話だが、「嫌疑不十分」というのは、疑わしいけれども立証する証拠に乏しいという意味で、「逮捕・起訴されなければ何でもOK」と考えるアベ氏のような人間は、「だから私は無実だ」と言い張り、そのうちに「事件」そのものを無かったことにしかねない(いまだに領収書類を示して潔白を証明しようとしないし、知らないうちに勝手に?前夜祭経費の補填をして起訴されたはずの配川秘書は、懲戒・罷免されるどころか、今なおアベ事務所の私設秘書として事務所を取り仕切っているのである)。
 
 こうした all or nothing(全部か無か)式の二進法的思考は、交渉ごとにまったく不向きなのは言うまでもない。しかも、都合が悪くなると、文書を隠したり、偽装・捏造したりするとなれば、相手はますます信用しなくなる。「外交の安倍」などと喧伝されたアベ氏が、外交上具体的にどんな成果を上げたかと思うに、内閣の「最重要課題」のはずの北朝鮮拉致問題は1ミリも進展せず、中韓との信頼関係も失われたままで、ロシアについては、プーチン大統領と27回会ったことしか「成果」がないのである。むべなるかなと思う。

 アベ氏がロシアとの「北方領土」返還交渉について、今月17日、北海道新聞のインタヴューに応じ、「100点を狙って0点なら何の意味もない」と、実は四島返還から二島(先行)返還へと方針を切り替えていたことを明かした。周知のこととはいえ、本人が自ら認めたというのにはちょっと驚く。

<安倍元首相単独インタビュー>北方領土「2島返還軸」への転換認める 「100点狙って0点なら意味ない」:北海道新聞 どうしん電子版

 「100点を狙って0点…」という氏の発言をひとり歩きさせるのは本意ではないが、これには直ちに「で、50点を狙ったのに、0点だったんだ」という「反応」も予想できよう。そもそも100点満点の評価スケールを自分の思惑で50点(満点?)に変更していい話でもない。戦後の長い日ロ(日ソ)交渉の座標軸から言えば、第二次アベ政権発足の時点をゼロ・スタートとすると、この9年間で、プラスになったものは見当たらず、むしろ後退したと言うべきで、0点どころかマイナスなのである。「100点を狙って…」などという話は、10点でも20点でもプラスの成果を得た人が言うならまだわかるが、元島民の人たちに、この発言を擁護する人が見えないのは当然のことと思う。

 12月27日付北海道新聞の記事より引用する。

元島民、四島望む声強く 安倍氏「2島返還軸に転換」認める 「切り札」探る姿勢評価も:北海道新聞 どうしん電子版

 安倍氏の方針転換について、歯舞群島勇留島出身の角鹿(つのか)泰司さん(84)=根室市=は「北方四島は『日本固有の領土』で、親の代から四島の返還要求運動を続けてきた。それをいきなり『2島』に変えてしまうのは、複雑な気分だ」と漏らした。
 北方領土問題は戦後76年を経た今も、日ロ交渉が進展する兆しは乏しい。「まず1島でも2島でも返ってこないと、次につながらない」との懸念は強く、安倍氏の交渉方針の転換は停滞打開への「すごい切り札」だと感じたこともあった。ただ「2島の返還は、あくまで四島返還への足がかりであるべきだ」との思いは今も消えない。
 国後島出身の古林貞夫さん(83)=同=も「ロシアが強硬姿勢を取る中、まず2島返還を交渉の軸にしたことは理解できないわけではない。ただ国後島択捉島の交渉も続けるのが前提だ」と強調。安倍氏はインタビューで、岸田文雄首相に自身の対ロ交渉戦略の継承を求めたが、古林さんは「岸田氏には四島全ての返還交渉を続けてほしい」と求めた。
 父が色丹島、母が国後島出身の小泉和生さん(66)=札幌市=は「2島まで譲歩しても、ロシアは受け入れないことがはっきりした。この路線を進めても交渉が進展する確証はない」と指摘。根室市の80代の元島民は「2島を軸とする交渉に転換して、何か話が進んだならいいが、むしろ後退してしまった。安倍氏が岸田首相に引き継げと言っても、うまくいくとは思えない」と批判した。

 今から振り返ってみれば、日本側が望むかたちで「北方領土問題」を「解決」できるチャンスがあったとすれば、多くの方が言うように、それは崩壊後のソ連を引き継いだロシアのエリツィン大統領(プーチンの前任者)時代の1990年代にしかなかったのではないか。その意味では、2010年代のアベ外交だけが「不首尾」だったわけではない。

 ロシアからすれば、「領土問題」は存在しないと言い切って、日本側と一切交渉しないよりも、「思わせぶり」に振る舞って、日本から資金提供のパイプ(だけ)を確保したほうがベターなのは当然で、ロシア側の姿勢としては、これはだいたい一貫している。
 11月17日付東京新聞の記事には、こうある。

<デスクの眼>強まるロシアの対日攻勢 心理戦に敗れた「安倍外交」 外報部・常盤伸:東京新聞 TOKYO Web

……安倍政権は、希望的観測に基づき、歯舞、色丹の2島返還を一気に実現しようと狙ったが、ロシア側に一蹴されただけだった。しかし、対ロ認識の甘さを考えれば、厳しい結果は容易に予想できた。2013年から7年8月に及んだ安倍政権の対ロ外交とはなんだったのか。…
 …2016年12月の首脳会談で、北方領土での共同経済活動を提案したのは、前年に行われた日ロ外相会談後の夕食会で、ラブロフ氏の「国際約束でやればいいじゃないか」という非公式の「極秘提案」が日本側を動かした…。強硬発言をしつつ非公式の場などで、期待を抱かせるような思わせぶりな言葉を投げかけると、交渉を打開したい相手は敏感に反応する。ロシアがソ連時代から徹底的に磨きをかけてきた心理戦の手法だ。
 プーチン政権は、安倍氏退陣後も、領土交渉が行われなくても経済協力は推進するという「安倍路線」から逸脱しないように、ますます攻勢を強めている。

 プーチン氏は7月、安全保障会議の場で、北方領土の現状に「特別な注意」を払うようミシュスチン首相に求め、択捉島に派遣。ロシア政府は外国からの投資を誘致するための「自由関税ゾーン」の設置などを進める意向を表明。先月には2人の副首相を択捉島に派遣し、日本側をけん制している。
 プーチン氏が安全保障会議北方領土をわざわざ取り上げ、内外にアピールするのは異例だ。極東開発に対する連邦予算支出が既に滞っており、クリール諸島発展計画への支出も困難になっている。あくまでロシアの主権下で日本や外国の資金を投入し、開発計画を進める方針は明らかだ。日本の望む「特別な法的制度」を断念させる狙いだろう。
 そもそも共同経済活動の推進に舵を切った日本側の思惑は、領土交渉が全く進展しないなかで、ロシアが支配を強化する北方四島に、ロシアの主権の及ばない領域を作ることにより、日本の存在感を高めながら、返還への足がかりにするという考えだった。だがそうした構想は、当初予想通り、絵に描いた餅に終わったというべきだ。

<以下略>

 アベ氏は先のインタヴューで岸田政権に対ロ外交戦略の継承を求めたという。上の引用文には、領土交渉なしに経済協力だけ進めていくのが「安倍路線」という趣旨の一文が見えるが、もはや、そんな「路線」を継続して、マイナス状況がプラスに転化し、今後領土交渉が進展すると期待する人がいるだろうか。ますます先細りが予想される日本の経済力(と影響力)から言っても、そんな「路線」はあり得ない。アベ氏は、こうした「重し」を現任者にかけるよりも、「隠居」して、回顧録でも残すことに執心した方がよいのではないか。もっとも、世間がそれを信頼に足る外交記録と評価するかどうかは別だが…。




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