毎日毎日束になって営業メールが届くのでうんざりするが、昨日貴重なメールが紛れていることに気づいた。勢い余って削除しないで本当によかったと思う。
赤木さんの裁判を支援してきた記者の相澤冬樹さんから届いた12月23日付「ニュースレター」に、先日、国がいきなり「認諾」を持ち出して強引に裁判を終わらせた場面やその後の様子が「再現」されていた。最後に、拡散希望と記されていたので、以下に全文を引用させていただく。ご存じでない方は、是非ご一読願いたい。
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「私も殺されたような気がします」
「今頃、あの人たちは祝杯をあげているんでしょうね…」
赤木雅子さんがつぶやいた。財務省の公文書改ざん事件で命を絶った職員、赤木俊夫さんの妻。真相を知りたいと起こした裁判が、いきなり終わってしまった。その夜のことだった。
ラブ・ストーリーは突然に、でも構わないが、裁判でそれはなしだろう。突然の終わりは12月15日。雅子さんが起こした裁判の非公開の協議で、国の代理人が唐突に告げた。
「請求を“認諾”します」
聞き慣れない法律用語だが雅子さんはピンときた。裁判を始める前の去年(2020年)1月。それまでの近畿財務局出身の弁護士に代えて今の弁護団に提訴を依頼した際、松丸正弁護士から告げられた。
「少ない賠償額で提訴すると、国にすぐに認諾されて、何もわからないうちに裁判が終わってしまいますよ」
認諾は、被告が原告の請求をそのまま認めて賠償を払い、即座に裁判を終わらせる手続きだ。原告の望みがかなったように見える。
だが雅子さんはお金がほしいわけではない。夫が亡くなった改ざん事件の真相を知りたいのだ。「真相を明らかにせよ」という裁判は起こせない仕組みだから、賠償を求める裁判で証拠や関係者の証言を通し真相に迫ろうとしていた。
国が認諾しづらいよう、あえて1億円を超える金額にした。それでも真実を知られたくない国が冒頭で認諾する可能性はあると弁護団は警戒していた。だが国は全面的に争う構えを見せ、裁判は1年以上続いていた。
だから、さすがにこのタイミングで認諾するとは思わない。弁護団も裁判長も意表を突かれた。非公開の協議でも認諾は認められるのか、とっさに判断がつかない。すると国は即座に民事訴訟法の条文を指摘した。入念に準備していたのだ。
協議がいったん中断し、法廷から出てきた雅子さんは外にいた私に告げた。
「相澤さん、認諾された!」
見るからに動揺していた。弁護団も深刻な表情で相談していたが、法律上、打つ手が見つからない。協議再開後、裁判長は告げた。
「認諾しますと言った時点で、国との訴訟は終了したと判断します」
たまりかねた雅子さんは原告席で声を上げた。
「一言言わせてください!」
裁判長が「どうぞ」と促すと立ち上がり、向かいの国の代理人たちを見据えながら語った。雅子さんの記憶をもとに再現する。
「夫は国に殺されたと思っています。きょう、また殺されました。これで終われば皆さんは普通の生活に戻るでしょうが、夫は二度とこの世に戻ってきません」
国の代理人8人はじっとうつむいていた。
「私の方を見てください。あなたたちは国の代表ですけど、夫を殺した代表でもあるんですよ」
声が涙で震え出した。
「夫は一生よみがえることはできないのに…こんな気持ちを抱えて、私も殺されたような気がします。皆さん方の顔は一生忘れません」
雅子さんの言葉が終わると、国の代理人は一言も言わずそそくさと帰っていった。そんな彼らの顔を、雅子さんは法廷でスケッチしていた。うつむいて黙りこくったまま反応のない姿。嫌々仕事でやらされていると示すような態度だった。
偶然見かけた元上司の談笑
その夜、雅子さんを励まそうと集まった報道関係者との食事会で、冒頭の発言が出た。発言の「あの人たち」は国の代理人だけではない。改ざんに関わった職場の人たちも指している。中でも上司だった池田靖さんは、休日中の俊夫さんを改ざんのため呼び出した。改ざんのもとになった森友学園との土地取引の担当者でもある。事件に責任ある人物の一人だ。
実は雅子さんは2か月ほど前、池田さんを偶然見かけたことがある。俊夫さんが「同僚とよく行く」と話していた居酒屋の前をたまたま通りかかった。何気なく店内を見ると、そこに池田さんがいた。ジョッキを傾け同僚らしき人々と談笑していた。その笑顔が焼き付いていたから「祝杯」という言葉になった。「何もかも終わってしまった」という無念さがにじみ出た。
私は言った。
「まだ終わっていませんよ。佐川さん(佐川宣寿元財務省理財局長)相手の裁判は続いていますし、財務省に情報公開を迫る裁判もあります。闘いはこれからです」
「そうかなあ…」
理屈だけで元気づけることはできない。雅子さんは心にぽっかり穴が開いた気持ちだったという。
認諾後の記者会見
弁護団会議で決まった抗議文提出
翌日、16日に開かれた緊急の弁護団会議。生越照幸弁護士の事務所に入ってくるなり赤木雅子さんは明るく声をあげた。
「どうも~元気ですから~」
聞かれてもいないのに元気だと言うのは、から元気だ。無理をしているのがわかる。「自分が落ち込んでいたらみんなが責任を感じる」と明るく振るまったという。続けて言った。
「生越先生の方が元気ないですよ~」
「一晩中、朝になっても怒っていました」と生越弁護士。誰もが、国への怒りと認諾を止められなかった無念さを感じていた。
会議でも妙案は浮かばない。そこで生越弁護士が一つの案を出した。
「抗議文を出しましょう。このまま『はいはい』とはいかない。少なくとも今回の対応に抗議を示しましょう」
雅子さんもうなずいた。
「きのうの認諾の報道を見て、私に『おめでとう』っていうメールがたくさん来たんです。やっぱ世の中の人に『これでよかったんや』と思われてるので、『そうやないんや』ってことを抗議文で示したいです」
この日、国会で認諾をめぐり認識を問われた岸田首相は「真摯に説明責任を果たす」と答弁していた。これに雅子さんは…
「総理大臣、きょうも真摯にって言うなら、裁判から逃げんな!って思うんです。逃げてるのは間違いないんで、逃げてることに抗議したいです」
こうして財務省に抗議文を出すことが決まった。認諾後の会見で雅子さんが語った「ふざけるな」という強い言葉、「不意打ちであまりにひどい」という言葉も入った。
財務省に提出した手書きの抗議文
17日、抗議文提出を取材しようと報道陣が財務省前に詰めかけた。そこにTBS「報道特集」の金平茂紀さんの姿もあった。雅子さんが信頼する報道人だ。金平さんは私に話しかけた。
「この認諾はねえ、国はしてやったと思っているかもしれないけど、真相を隠そうという狙いがあまりに露骨なんですよ。世論は『けしからん』と盛り上がっているでしょう。これは案外、流れが変わるかもしれないよ」
あさって12月25日の「報道特集」で放送するという。マスコミが取り上げることで人々に伝わっていく。
赤木雅子さんにとっての真珠湾「最後に愛は勝つ」
国を動かすには世論の力が欠かせない。先例がある。国は「認諾」という予想もしない“奇襲攻撃”で、都合の悪い真実にふたをすることに成功した、かのように見える。だが、そうだろうか?
歴史を振り返ると80年前の12月8日、日本軍はハワイのパールハーバー(真珠湾)を奇襲攻撃し、米太平洋艦隊の戦艦4隻を撃沈する大戦果をあげた。それで戦争はどうなったか? アメリカ世論は「リメンバー・パールハーバー」を合言葉に逆襲に転じ、3年8か月後、日本を無条件降伏に追い込んだ。
そのことを紹介すると雅子さんは「私も国に奇襲されたんですから」とうなずいた。
これは赤木雅子さんにとっての真珠湾。「国への賠償請求裁判」という巨艦は撃沈されたが、「リメンバー認諾」を胸に、残る2つの裁判で逆襲に転じる決意が固まった。
そのためには世論の後押しが欠かせない。世論こそ最大の味方だ。
ある記者が「雅子さんを駆り立てるものは何ですか?」と尋ねたことがある。雅子さんは「照れくさいけど…夫への愛ですね」と答えた。
最後に愛は勝つ。平成初期のKANの大ヒット曲もそう歌っている。
改ざん問題の当事者に自らなった岸田首相
財務省の公文書改ざんは、森友学園への土地値引きを巡る安倍首相(当時)の「関わっていたら辞める」答弁が引き金になった。岸田現首相は関わっていない。
だが認諾は、前日に岸田首相に報告した上で行われた。最終責任は岸田首相にある。岸田さんは、自ら改ざん問題の当事者になる道を選んでしまったことに、気づいているだろうか?
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国の突然で一方的な裁判打ち切り。 「認諾」という聞き慣れない裁判用語に注目が集まっています。「認諾」について伝えた前回のニュースレターには、これまでになく大勢の読者の皆さまから憤りと励まし、赤木雅子さんへの共感のご意見をいただきました。本当にありがとうございます。赤木雅子さんにも皆さまのお声をお伝えしております。
ぜひ皆さまのご意見をフェイスブックやツイッターをはじめSNSなどで発信してください。お近くの皆さまにお話ししてください。それが世の中を動かす力になっていくと信じています。どうぞよろしくお願いいたします。
(「リメンバー認諾!~赤木雅子さんの「最後に愛は勝つ」」より)
「認諾」するということは、賠償金を払うだけでなく、原告側の主張をすべて「その通り」と認めるということではないか。
赤木雅子さんは、裁判の口頭弁論で、
・夫の俊夫さんの上司だった池田靖・統括国有財産管理官(当時)から、「これ(赤木ファイル)を見たら我々(近畿財務局)がどういう過程で改ざんをやったのかというのが全部わかる」と聞き、
・伊東豊・財務省秘書課長(当時)が、2018年10月、「(私や妻が関係していたとなれば…という)この首相の発言によって野党が理財局に対して資料請求するなど炎上したため理財局は改ざん前の文書を出せなかった。その意味で、首相の発言と改ざんは関係がないとはいえない。」と雅子さんに述べ、
・もし、佐川宣寿・理財局長(当時)らの関係者が「裁判に来なかったり、裁判に来ても事実を話さなかったとしたら、国が本当にあったことを国民から隠し、全てなかったことにするために止めたのだと思います」
と述べている。
(森友・公文書改ざん損害賠償請求訴訟/赤木雅子さんの陳述)
これらも含めて、赤木さん側が言ったことは一切合切すべて「その通り」ということになろう。
岸田首相は事件当時の直接の関係者ではないが、いくら周りから言いくるめられたとしても、今回「認諾」を「認諾」した以上、その責任は免れない。我々としては、金平さんの言うとおり、「してやったり」どころか、むしろ逆効果だということを示さないといけない。
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