ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

アベ政権の8年 御厨貴さん談

 御厨貴さんが第二次アベ政権の8年を振り返っている。
朝日新聞デジタルの8月24日付の対談記事から引用する。(聞き手・小野太郎氏)

「安倍政権のレガシーは政策よりも…」御厨貴さんの洞察:朝日新聞デジタル

――なぜ安倍首相はここまで政権を維持することができたのか

 一つはやっぱり、自民党民主党政権の時代に3年数カ月、野党でいたでしょう。あれが嫌で嫌でしょうがなかったわけ。そこから政権を奪還してくれたのがまさに安倍さんだったから、政権が始まってからしばらく、主義・主張に反対であっても何も文句は言えないというのが自民党の雰囲気でしたよ。しばらく「俺たちの春」を楽しんでいたかったから。
 もう一つは、要するに安倍さんが選挙が強いってことです。これまでの衆院選参院選計6回、これを全部勝つ。しかも、最初に政権を奪還したときの勢力を維持しつつ、繰り返し繰り返し勝つ。スキャンダルがあっても選挙でリセット。野党が何を言おうとも、選挙で勝っちゃうんですね。だから野党を弱らせることもできた。この勝敗の構造はだんだん効いてきて、自民党内では安倍さんと選挙をやればスキャンダルも飛ぶし、全部チャラになって新しく続いていけるとなる。これが8年近く政権を持たせた大きな要因です。

 ――弱い野党も長期政権をお膳立てしてしまった

 当然そうですよ。小選挙区制ではね、強い与党も出る代わりに、次の選挙でオセロゲームみたいにひっくり返って、あっという間に代わるはずだった。事実、民主党政権が失敗して自民党政権に戻った。ところが今度は野党の方がとにかくあの調子で内部対立も激しくて。本来ならば小選挙区制で政権交代、しかも二大政党制ができるはずだったのに、安倍政権の間に潰れた。これ全部、死語になっちゃったわけです。

 ――安倍政権の「レガシー」と呼べる功績は
 安倍さんは次から次へと政策に手をつけて「やってる感」を演出するのが内政上の技ですから。それなりの成果が無かったわけではない。でもね、長きが故に尊(たっと)からずとは言いますが、個々の中身よりは、続いたってこと、そこにレガシーがあると思います。5年半の小泉政権の後、平均すれば1年で1人ずつ首相が代わった。あの間の政治の不安定さは特に外交にとってはマイナスなんですよ。毎年首相が代わっていたら国際舞台で信用してもらえませんから。ただ、安倍さんが力を入れていた北方領土や拉致の問題は、悪化させたとは言わないけれど、現状維持。あまり高い点数は与えられませんね。

 ――長期政権ならではの弊害はどんなところに
 この政権は森友・加計問題とか、けっこうスキャンダルがあったでしょう。政権が長くなると、スキャンダルに対する感覚が鈍くなって、一つや二つどうでもよくなってくる。安倍内閣のすごいところはそこで黙らず、一応「説明」はする。でも、この説明がわかんないわけ。さらに説明を求めても、「説明は終わった」と。昔なら党内から声が出たはずだけど、全然ない。安倍さんが政権を奪還してくれた重みは大きくて、なかなか彼を引きずり下ろせなかったんだね。
 この政権は次から次に(スキャンダルなどを)「流す」。この「流しの態度」というのは全部、長きが故の欠点ですよ。そうなると今度、それを見ている官僚もそれでいいんだと思い始めるわけです。何かあっても、そこをしのげればいいという話になる。この惰性にうまく乗れた人は、首相や官房長官と親しいということでどんどん重用されていきますよ。

 ――過去の長期政権と比較して見えてくることは
 吉田(茂)さんの場合は講和独立と戦後復興。それから、佐藤(栄作)さんの場合は何と言っても沖縄返還をやったからね。そういう大目標があったわけです。安倍政権も憲法改正とは言ったけども、その中身はくるくる変わった。はっきり言ってこの約8年間、憲法改正で「頑張りました」とは到底言えませんよ。この政権は大きいことをどんとやらないんだよね。
 それとね、後継総理に値するような人、佐藤さんなら「三角大福中」に手をつけているわけですよ。敵になるにせよ、味方になるにせよ、育てていくのは自分の役目だと思っているから。首相は自分の後継者だけじゃなくて、その後も育てていかないといけないんです。中曽根(康弘)さんのときは「安竹宮」、小泉(純一郎)さんのときには「麻垣康三」がいた。でも、安倍さんはカムバックしたときに副総理を麻生(太郎)さんにしたり、谷垣(禎一)さんを法務大臣にしたり、「若返る」という発想ではないんです。年寄りがもう1回やってきて政治をやる。これが安倍政権の特徴たるところ。安倍さんからは育てる気は感じられないし、誰かを後継者にしようと本気で思っているとも思えない。自民党から指導者を輩出していく機能が絶えて無くなっちゃったわけですよ。

……以下略。




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