ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

佐藤章『職業政治家 小沢一郎』

 清水有高さんの「一月万冊」で、佐藤章さんが出演する回で必ず紹介(推薦)される本。こういうのはふだんは買わないのだが、清水さんの番組をタダで視聴させてもらい、いろいろな政界裏情報を得ているので、“会費”代わりと思い、買って読んでみた。あにはからんや、実に興味深い。小沢一郎氏の意外な素顔が垣間見えておもしろかった。これは「お値段以上」の “お得感“ がある。日本の政治に興味のある人には必読文献だと思う。

 本扉をめくると、冒頭にオルテガの『大衆の反逆』からの引用がある。内容的にややいかめしい感じもするが、本書を一読すると得心する。

 生というものは、われわれがその生の行為を不可避的に自然的な行為と感じうる時に初めて真なのである。今日、自己の政治的行為を不可避的な行為と感じている政治家は一人もいない(略)。不可避的な場面から成り立っている生以外に、自己の根をもった生、つまり真正な生はない。
オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』、神吉敬三訳、ちくま学芸文庫、260頁)

自己の政治的行為を不可避的な行為と感じている政治家」——勘違いしている人はいざしらず、今の日本の政界で真にこれに当てはまる人を見つけるのはなかなか難しい。著者の佐藤さんも言及していたが、マックス・ウェーバーが『職業としての政治』のしめくくりで「……情熱と判断力の二つを駆使しながら、堅い板に力をこめてじわっじわっと穴をくり貫いていく」(岩波文庫 105頁)、「自分が世間に対して捧げようとするものに比べて、現実の世の中が……どんなに愚かであり卑俗であっても、断じて挫けない人間。どんな事態に直面しても『それにもかかわらず!(デンノッホ)』と言い切る自信のある人間。そういう人間だけが政治への『天職(ベルーフ)』を持つ」(同 106頁)と特徴づけた政治家などはさらに稀である。しかし、本書を読むと、小沢一郎氏はこれに該当しうる数少ない日本の政治家の一人ではないかと思えてくる。

 内容はインタビューを中心とした政治家・小沢一郎の半生の記録である。と同時に、この半世紀近くの日本の政治史(というより政治家関係史)でもある。朝日新聞の「論座」の連載記事(2019年3月~2020年3月)がもとになっているので、(編集加筆したとはいえ)重複部分が目立つのが玉に瑕で、また、インタビューも小沢氏が核心部分についてはあまり明確に答えていない箇所がいくつもある。しかし、1993年の細川非自民連立政権と2007年の民主党政権の二度にわたる政権交代の立役者である小沢氏が非自民政権で何をやろうとしていたのか。47歳で自民党幹事長になった次代のホープが、あえて党を割って出た理由やいきさつが細かにフォローされている。たまに小沢氏の口から出てくるいろいろな政治家の意外な「横顔」を知るのも楽しいが、それは聞き手の佐藤さんの取材力(ジャーナリストとしての力量)の賜物でもある。

目次は以下のとおり。

第1章 民主党政権とは何だったのか
第2章 辺野古埋め立ては必要か
第3章 自民党権力の中枢で何が起きたのか
第4章 細川連立政権は何を成しとげたのか
第5章 「陸山会事件」は国民に何をもたらしたのか
第6章 安倍暗黒政治からの脱却は可能か
特別付録・小沢一郎緊急インタビュー
 あきらめるな日本人、よい世の中に必ずできる

 どの章も興味深かったが、2章の辺野古の基地建設について。小生は知らなかったのだが、普天間飛行場の移設先として、米軍の本音としてはテニアン島が最適だと思っていて、事実、テニアン市長が基地の受け入れを表明していたのに、外務省や防衛省は一顧だにしなかったという。「辺野古が唯一の解決策」と政府が強弁し、思考停止すればするほど、深い闇と利権が関与していると思わざるを得ない。

 小沢氏の決意めいた話を2つ。

 〇民主党は役人に「お金がない、お金がない」と言われて、それで終わってしまった。まったく惜しいことをしたと思います。権力を取ったんだけど、ただそれがおもちゃのままにで終わってしまった。……だから、もう一回やろうと思っているんです……もう一回やる、必ず。このままじゃ死ねない。もう一度ひっくり返す。それは、別に自民党に恨みやつらみがあるんじゃなくて、国のためです。このままでは、民主主義はもう日本に定着しなくなってしまう。そうなったら日本は本当にアウトです。絶対にもう一度やる。それで、反対に自民党の方もしっかりしてもらいたいんです。
(99頁)

 〇<佐藤さんから自身の政治的使命、宿命を感じるかと問われて>私は、そうしなければいけないといつも思っています。だけど、そのためには、やっぱり己を捨てなければだめなんです。自分の身の栄達、栄誉ばかり考えていたら大業はできない。
 西郷南洲(隆盛)が言う通りです。「命も要らない、金も要らない、名誉も要らない、地位も要らない、こういう人たちはまことに扱いにくい、しかし、こういう人たちでなければ世のため国のための大業をなすことはできない」という意味のことを言ってるんです。
 本当にそう思いますね。みんな欲を持っているんですが、欲を抱くならもっと大きい欲を抱け、と私はよく言ってるんですよ。目先の小さい欲に囚われていては天は味方しない。だから、私は歳を取って、同じ年配の人で亡くなる人もいるけど、私は死については全然恐怖感がないんです。
 天が要らないと言えば、黙って命を差し出すし、もう少し働けと言えば命は天がちゃんとつないでくれるし、すべて天命に従っているというわけです。

(403頁)

 小沢氏が代表を務めていた政党(自由党)が一時期(2012年)「国民の生活が第一」という名を冠していたのは、まんざら(失礼!)偽善や媚びではなかったのだと改めて思う。

朝日新聞出版 2020年9月 420頁)


↓ よろしければクリックしていただけると大変励みになります。


社会・経済ランキング
にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ
にほんブログ村