ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「架空」の五輪

 演出家の宮本亞門さん東京五輪についてインタビューに応じている。8年前の2013年の招致決定の当初は、「世界一お金がかからない五輪」、「復興五輪」といった考えに賛同して、4年前に大会の公式イベントの演出を引き受けたが、大会経費は倍以上に膨れ上がり、福島第一原発事故の後処理も進まない現実を前にして、全て誘致のための架空のものだったと振り返っている。

以下は東京新聞5月8日付記事の引用。

復興五輪「架空だった」…罪悪感抱く宮本亞門さん、IOCや政府を「利己的」と批判 インタビュー詳報:東京新聞 TOKYO Web

―コロナ禍で開催される五輪をどう考えるか。
 健全な精神と肉体を高め合い、世界を1つにするという五輪精神は素晴らしい。しかし世界中が生死を思う未曽有の体験の中、インドのように多くの国で医療環境が整わず、ワクチンも分配されない。失業や貧困も広がった。救われるのはお金がある人だけ。五輪精神と真逆の事実が進行し、五輪の映像を見て勇気づけられる状況にありません。
―国内の世論調査でも開催に懐疑的な声が多い。
 昨年の安倍晋三・前首相の「完全な形での開催」発言以降、コロナ対策の遅れ、水際対策の甘さ、ワクチン供給の遅々とした流れ…。国民はどれだけ不安を耐え忍んできたか。
 私が出演したテレビ番組では「自分はこの状況で走っていいのか」と苦悩する聖火ランナーが報じられた。IOCや政府の利己的な考えは、「他人のことを思う」という利他的な精神と正反対。国民はその間で心が引き裂かれています。

―東京大会には期待をしていたか。
 2013年の招致決定当初、「世界一お金がかからない五輪」や「復興五輪」といった発言を信じようとした。これだけ政府が断言するのだから、と。17年には大会の公式イベントの演出を引き受けた。
 しかし大会経費は倍以上に膨れ上がり、福島第一原発事故の後処理も進まない、全て誘致のための架空のものだった。悲惨な現実を見て「何ということに加担してしまったんだ」と罪悪感にさいなまれました。

<以下略>

 前日(5月7日付)の東京新聞には、4月に調査したという千葉大学の学生の声(アンケートの自由記述)の紹介がある。

宮本亞門さん、東京五輪は「中止すべきだ」 参加を迷う学生ボランティアも コロナ禍で遠のく平和と平等の祭典:東京新聞 TOKYO Web
 
 ・選手への検査を徹底し、選手村をいい意味で隔離されたエリアとして作れば無観客試合は開催できる。(22歳、男性)
 ・盛り上がりを期待する一方、コロナによる世間のネガティブな雰囲気や感染への不安をぬぐえていない。(21歳、女性)
 ・組織委員会など運営側の意欲が見られなくなった。街に盛り上げるムードが見られない(21歳、女性)
 ・開催を期待している人はいると信じている。疲弊した社会を照らすイベントになることを信じている(20歳、男性)
 ・実施に関する部分で未確定な点が多いため不安が大きい(21歳、男性)
 ・こういう時代だからこそ、スポーツの力で元気や感動を世界で共有したい。(21歳、女性)
 ・アスリートファーストで実施してもらえたらうれしい(23歳、男性)
 ・五輪パラリンピックはスポーツを通して、平和な社会や多様性のある社会の実現を目指すものだが、現状はそうもいかなくなり、開催にそこまで期待はしていない。(20歳、女性)
 ・アスリートの視点に立てば開催すべきだが、世論や国内外の感染症の現状を鑑みれば開催しない方が妥当。(19歳、女性)
 ・現状の政治体制や日本オリンピック委員会(JOC)の動きが不透明であり、具体的な問題への解決策があがってこない。(22歳、男性)
 ・感染防止対策は大前提として、「世界の平和の祭典」。コロナで分断された今の時期だからこそ開催してほしい。(24歳、女性)
 ・開催することによって、コロナが増えてしまうのでは(19歳、男性)
 ・コロナが収束していない中の開催が不安。世界平和の実現とは思えない。(20歳)
 ・コロナというオリパラ史上かつてない条件下でどんなことができるか、よりワクワクしている。(22歳、男性)

 開催への期待と不安が相半ばするといったところかと思う。
 記事には、大会ボランティアに登録しているという9人の学生の声も紹介されていて、このうち4人は、感染の不安や海外観客の受け入れ断念もあり「参加を迷っている」と答えた。参加継続を決めた5人からは「少しでも大会の空気に触れたい」「平和の祭典に学生として関わる機会はもう二度とない」などの声があるという。

 オリンピックはこうしたボランティアの善意なしには運営できない。「少しでも大会の空気に触れたい」から、「学生として関わる機会はもう二度とない」から、こういう声は貴重である。そのボランティアが足らなくなったからと、組織委はこそこそと日給払いのアルバイトを募集して乗り切ろうというのだから、善意も何もあったものではない。多くのボランティアの誠意を冒涜している。

 宮本さんは「コロナ禍で感じること」を聞かれて、

 経済格差、人種差別、魔女狩りのような悪人探し…。人間の傲慢さ、愚かさを浮き彫りにした。でも反対に、人がお互いに分かりあおうとする連帯も生まれた。過去にペストなどの感染症や災害が起きるたびに人類は変化や進化を迫られた。コロナで人はどう変わるのか、期待して見守っていきます。

と答えている。狭量な小生でも、これには共感するし、そうありたいと自らを省みる。



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