ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

パンデミック五輪 異論続く

 昔ノロウィルスに感染したことがある。発熱下痢などの症状に気づいて、すぐに自主隔離したが間に合わず、時間をおいて当時の家族全員に次々と感染させることになってしまった。その感染力、おそるべしと今でも思う。現今の新型コロナ、特にデルタ株(インド株の改称)の感染力の強さからして、もし、自分があのときノロウィルスでなくこのデルタ株に感染していたら、と思うとゾッとする。

 このパンデミックに政府は何が何でも五輪をやろうとしている。感染症の専門家の多くは、「やるなら無観客」と言っているが、政府は耳を貸さない。開会式には2万人も入れる計画だという(学校の子どもたちも動員されるのだろうか)。無謀というしかない。

 こんな中、来日したウガンダの選手9人のうち、1人が陽性だったことがわかった。出国前にアストラゼネカのワクチンを2度打っているということだが、それでも完全に感染は避けられなかった。他の8人も「濃厚接触者」としてしばらく留め置かれるのかと思ったら、そのまま合宿所のある大阪へ移動したとのこと(ただし、練習はまだやるなよ、ということらしい)。また、同じ飛行機には80人ほどが搭乗していたというが、そちらの調査はどうなっているのだろうか。五輪1ヶ月前の「水際対策」がこれで大丈夫なのか。

 前にも一度引用したことがあるが、演出家の宮本亞門さん東京五輪への懐疑は今も変わっていない。しかも、今回はけっこう衝撃的な事実を述べている。「あるトップの方」というのは、森か竹田のことではないのか?
 日刊ゲンダイの6月20日付記事より引用する。

【東京五輪】宮本亞門さん「私が一番心配なのは国民の心が折れること」|日刊ゲンダイDIGITAL

このパンデミック禍でなぜ今、五輪をやらなければいけないのですか?
 IOCは国民の多くが中止を求めていても知らん顔。菅首相も国会では答弁ではなく、ただ同じことを繰り返すばかりで会話を遮断。国民はそれを悶々としながら眺めている。私が一番心配しているのは、このまま何も論じ合わず、説得することもなく開催したら、国民が「どうせ、何を言っても変わらないんじゃないか」「どうせ日本はいつもこう」「いちいち選挙に行っても無駄」と無気力になったり、心が折れることです。
……
 57年前の東京五輪は素晴らしかった、でも、それは五輪憲章に基づいていたからです。しかし今はコロナ禍で世界的格差が進み、予選も出られない選手や練習状況も悪化した中、選考もフェアではなく、五輪憲章が言う「人類の尊厳や平和な社会の模範」とは、正反対の強引な弱肉強食で強権的な状況です。
……
開催地の国民の意見を聞かないだけではなく、科学者や医療関係者の意見にも耳を傾けず、利権と損得を軸に、強引に開催へと進める。菅首相IOCの行動はどう考えてもおかしくないですか。どうしても五輪を実行するなら、単なる一つの「スポーツイベント」にして、五輪憲章を外してください。

 私がIOCや五輪関係者への疑問を持ち始めたのは、2016年、リオ五輪に行ったときです。航空機のエコノミー席の周りには、五輪の選手たちが鍛え上げた大きな体を小さく縮め、リクライニングを倒すこともなく座っていた。ところが、トイレへ行こうと近くのビジネスクラスのカーテンを開けると、そこは大宴会場。選手の雰囲気とはかけ離れ、背広を着たIOCや関係者がワインボトルをいくつも開け盛り上がっていた。
これは初めて言いますが、東京の招致決定後、あるトップの方とお会いした時、招致が決まった会場で、裏でいかに大金の現金を札束で渡して招致を決めたか、自慢げに話してくれたのです。驚いた私は「それ本当の話ですか?」と言ったら笑われました。
「亞門ちゃん若いね。そんなド正直な考え方で世の中は成り立ってないよ」
 それからです、透明性のない現実の恐ろしさを知ったのは。お金や利権の場所に集まる人はいます。でも、五輪は美辞麗句を盾にした、生半可じゃない利権だらけの集合体だったのです。

 途上国に対する対応や、反対意見を聞かない独裁的な判断。IOCこそが選手を守るべきはずなのに、選手も不安を感じながら、コロナ禍の強引なルールで厳しく取り締まられる。
 もう一度、言います。なぜコロナ禍の今、五輪を行われなくてはならないのですか?
コロナによって亡くされたご家族の思いは、一人でも同じような悲しみを味わって欲しくないはずです。この世界中が苦しんだコロナ禍の一年、我々は何を学んできたのでしょう?
 僕は、どんな宣誓が行われようと、誰が金メダルを取ろうと、何も感じないと思います。それがとても残念です。


 フランス・「リベラシオン」紙の特派員記者、カリン西村さんも「ニューズウィーク」6月17日付の記事でこう書いている。

国民の不安も科学的な提言も無視...パンデミック五輪に猛進する日本を世界はこう見る|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

<前略>
「今回のオリンピックはやらないほうがいいと思うので、協力しない。少なくとも僕の周りの人たちは、なぜオリンピックをやるのかという疑問を持っている人がほとんどだ」と、横須賀にある民間病院の病院長は言う。「東京に来ないでくださいとまで言っているのに、なんで世界から人を集めるの? もうちょっと一貫した議論をやってほしかった」
東京五輪の是非についての議論が全くないことは、海外から見れば大変な驚きだ。
本誌のインタビューに応じた山口香JOC日本オリンピック委員会)理事はこう分析する。「政府や五輪組織委員会JOCからはこれまで一度も、もしかしたらできないかもしれないという話が出たことはない。それはパリ行きの飛行機がいったん飛んだら、パリに着陸することだけを考えろというようなもので、途中で何かあっても、違う所に降りたり、引き返したりすることはないというマインドでいる。だから国民は不安なんですよ」
筆者が東京都や福島、大阪、長野、群馬の各県で数十人の一般人を取材したところ、東京五輪をやってもいいと答える人は1割以下だった。「いろいろな心配があるからやめたほうがいい、無理」と高齢者は強調し、若者も「普通にレストランにも行けないのに、なぜオリンピックだけOKなのか」といった意見がほとんどだ。東京五輪反対のデモ活動の参加者は多くない。でもその理由は、「コロナ禍でデモをするのはおかしい」という考えからだろう。
しかし7~8割の国民が東京五輪の「中止」や「再延期」を求めても、政府の立場は変わらない。上から目線のIOCにノーと言えない日本政府。アスリート、スポンサー、マスコミや他の関係者を満足させることが目的のIOC。「日本に対するIOCの姿勢があまりにもひど過ぎる。将来オリンピックを開催したいと思う国がどれぐらいあるだろうか?」と、フランスの雑誌記者のマチューは筆者に語った。
この状況は、日本の態度にも一因があるのかもしれない。「日本人は何かを頼まれたときに、できないと分かっていても『善処します』『頑張ってみます』と曖昧な答えをする。日本側が『なんとか頑張ります』と言えば、IOC側は『できる』と捉える。だからIOCとしては、『組織委員会や日本政府が大丈夫だと言っているのに、なぜ国民は怒っているのか?』と不思議に思っているのではないか」と、山口は言う。

<中略>
そもそも日本政府は開催反対、または抵抗を示す専門家の意見を軽視しがちだ。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は国会の専門委員会で何度も、大会開催が起こす感染リスクについて発言した。6月1日には「五輪をやれば、さらに医療に負担がかかるリスクがある」、2日には「今のパンデミックの状況で開催するのは、普通はない」と述べた。
しかし、こうした意見は政府や組織委員会に無視される。丸川珠代五輪相も「われわれはスポーツの持つ力を信じて今までやってきた。全く別の地平から見てきた言葉をそのまま言っても、なかなか通じづらい」と、尾身発言を片付けた。最近は政府や自民党から尾身への不満の声まで上がり始めている。
パンデミック下で開催することがすごい」という、もっと驚くべき発言も出始めた。平井卓也デジタル改革担当相は、5月23日に出演したテレビ番組でこう述べた。「パンデミック下でのオリンピックの開催というモデルを日本が初めてつくることができるのではないか」
東京オリンピックパラリンピック組織委員会橋本聖子会長は6月4日の定例会見で大会の意義について聞かれ、「どのような対策を講ずれば開催できるのかを示せれば、今後の日本に世界の観光客を受け入れることに向けて、大きな前進が見られることになる。世界共通の課題を東京五輪が乗り越える姿、レガシーを見せることが東京大会の使命」などと語った。科学的な議論とは全く異なるロジックだ。
また橋本は「このような困難な時代だからこそ大会を開催し、分断された世界で絆の再生に貢献し、スポーツの力で世界を一つにすることが五輪の価値であると確信している。安心してお越し下さい。アスリートの皆さんの健康は組織委員会が必ず守り抜きます」とまで述べた。

東京五輪は科学より、宗教的信念に近い言葉に支配されつつある。


 西村さんは昨日(6月20日)付のTwitterにもこう書いている。
東京大会の外国人関係者が泊まるホテルの社長を取材したら、スタッフにワクチンが提供されていないし、ホテル側は対策の指導も受けていないし、オリンピック関係のお客さんは数ヵ国から来るので「かなり不安で、断りたい」と本人が言う。現場の状況は菅総理が言う事と大きく異なる。
https://twitter.com/karyn_nishi/status/1406421944719745026


 6月18日付で組織委や五輪担当相宛てに無観客開催か中止の検討を求める要望書を送った東京都医師会は、「(このまま国民の懸念を無視して開催を強行すれば)一般市民が自粛要請に応じなくなり、感染防止への制御が利かなくなる」と懸念する。

都医師会長「理解不能」「感染対策に逆行」 五輪有観客に懸念 | 毎日新聞


 日本のことだけではない。東京五輪の開催は世界から人を集め、世界に人を拡散させる。これは五輪開催が新たなコロナ感染を広げる「ポンプ」になる危険性がある。これは何としても避けなければいけない。あと1ヶ月だが、まだ1ヶ月ある。



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