ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

テレ朝の明日

 テレビ朝日は1977年まではNET(Nippon Education Television)テレビという名で、元々は教育番組や教養番組を専門に放送するテレビ局として出発した(はずだった)。それを認識したのは、会社四季報か何かで、筆頭株主が旺文社であることを知ってからだ。確かに、アメリカのドラマ「ルーツ」*が放映された1978年頃は、すでに日本テレビやTBSと同じ総合局に移行していたとはいえ、そうした雰囲気がまだ色濃く残っていた。

 * アレックス・ヘイリー原作の小説『ルーツ』(Roots: The Saga of an American Family)をもとに
  1977年に制作されたアメリカ合衆国のテレビドラマ。奴隷としてアフリカから連れてこられた先祖の
  クンタ・キンテから始まる子孫の系譜を描き、日本でも放映されて評判となった。

 その後1990年代に旺文社創業二代目の株式売却をめぐる騒動** などを経て、現在の大株主は朝日新聞社(24.5%)、東映(15.3%)となっている。たぶん電波行政をめぐる利権には闇深い話がいろいろあるはずで、それはそれで関心はあるが、ここでの趣旨とはズレるので(いや、よく知らないので)、これ以上は触れない。

 ** 「金のなる木」フジとテレ朝を股にかけ権勢ふるった「旺文社」創業者をご存じか 周辺にはカネ目当てのワルが集結 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

 このテレビ朝日から久米宏さんの「ニュース・ステーション」(1985~2004年)という人気番組が現れたのもうなづける。TBSのアナからフリーとなり、日本テレビ冠番組「テレビ・スクランブル」ですでに政府批判の片鱗を見せていた久米さんは、続いて立ち上げたこの報道番組で、すでに政権による圧力を受け始めていた。いつのことだったか忘れたが、国政選挙投票前の数日間だけ久米さんが(口封じのために?)番組に出演しない異例の事態になったこともあった。それでも、まだ2000年くらいまではテレビ局側にも、政権の圧力に抗したり、駆け引きをしたりする余力や元気が残っていた。2010年代になると、テレビ朝日にかぎらず、どこのテレビ局もほぼ総崩れの様相となり、2016年の4月には、番組改編に合わせて、NHKクローズアップ現代」の国谷裕子さんやテレ朝「報道ステーション」の古舘一郎さんら、降板させられるキャスターやジャーナリストが続出したのは周知のことだ。

政治がTV局に圧力 かつて久米宏のテレ朝やNHKは戦った

 4月3日付「一月万冊」の中で元朝日新聞記者でジャーナリストの佐藤章さんもこう言っていた。

絶望の日本のコロナ対策。正しい対策は菅総理と厚生労働省医系技官官僚によって弾かれる。元朝日新聞記者ジャーナリスト佐藤章さんと一月万冊清水有高 - YouTube

 ……「報道ステーション」とその前身の「ニュースステーション」、松原文枝さんという元のプロデューサーがいたんです。(アウシュビッツとかやってた、すごい有名な人ですよね?)そう。僕も一度じっくり話を聞く機会があったんだけど、本当に素晴らしい人で、まさに一人で古舘さんの「報道ステーション」時代を切り盛りして、最後はそのアウシュビッツの特集をやって、ギャラクシー賞をとった。その松原さんがプロデューサーを外されて……。これどういうことか、一言で言うと、見城徹さんていう幻冬舎の社長さん、この人がテレ朝の番組審査委員長なんですよ。で、いろいろと関係者に聞いたら、テレ朝の中で実質的な「社長」だっていうくらい権限をふるっていて、本物の社長もぺこぺこしてるという話で。見城さんは安倍さんと仲いいじゃないですか。そういう、放送とか報道とかと関係ない、政治的な関係で権威や権力を振り回すのはやめてもらいたいんですよね。そういうわけでテレ朝はそういう体制になってしまって、これはすごい問題だと思いますね。はっきり言って、テレビ局としては落ち目の一方ですよ(ほんと、そうですよね、これ)。松原さんのような方がカムバックしない限り、テレ朝の明日はありません。はっきり言います。僕はそう思いますね。……

 内部事情に精通しているわけではないから、誰がどうということはないけれど、4月のテレ朝のキャスター等の異動や番組内容を眺めていて、さらに行く末に暗澹たるものを感じた。心癒されると銘打って動物の動画の類を毎日毎日拾ってくるよりも、現場の当事者の声をひとつひとつ救い上げることの方がはるかに大事だということに内部の関係者が気づいていないわけがない。テレ朝の組織の中にも良識をもって(それゆえに辛く肩身の狭い思いをさせられながら)番組制作にかかわっている人は少なくないはずだ。彼らを孤立させ、無援の境遇においてはいけない。局の上層部も、このまま行けば、某隣局と同じ道を歩むことになると知るべきだ。


<追記>
 今朝、俳優の田中邦衛さんが亡くなったことを知った。心からご冥福をお祈りする。
 田中さん出演の代表作「北の国から」が放映されていた80年代から90年代、某局には勢いがあった。局内に何でもやらせてもらえる雰囲気があったと述懐する人もいる。そのおかげか、某局は2000年代まで、視聴率でも民放の先頭を切っていた時期があったが、いまやその零落ぶりは目を覆うばかりとなっている。視聴率至上に与するつもりはないが、政治家や局上層部に対する気兼ねや忖度によって制作された番組が視聴者にどんな魅力があるだろうか。
主要テレビ局の複数年にわたる視聴率推移をさぐる(2019年5月公開版)(不破雷蔵) - 個人 - Yahoo!ニュース
 



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