主要なマスメディアの記者諸君が為政者の「一座」に取り込まれ、台本どおりに「寸劇」(記者会見)を演じて、終わると「主役」が一目散に舞台(会場)から逃げていく状況下で、このようなメディアをあてにしていては、国内情勢はもちろんのこと、世界の趨勢や実際の姿を見通すことはなかなか困難なことに思えます。相応の識者や他より、自ら情報を取りに行かないと、「正確」なところに近づくことさえできないのではないか。雑誌『地平』の最新号で、弁護士の猿田佐世さんの論考を読んでいて、改めてそう感じました。
猿田さんは、今年の2月、東南アジアのいくつかの国の安全保障の専門家や政府関係者に「あなたの国にとって中国は脅威かどうか」という趣旨の質問を、手を変え品を変えてぶつけてみたが、「脅威」どころか、中国に対するネガティヴな感情(の本音?)さえ容易に引き出せなかったと言っています。
違う場所で見る世界地図
東南アジア諸国は日本との共通点も多い。距離的に中国と近く、安全保障を米国に頼ってきた。しかし、今、経済力も軍事力も日本とは比べものにならない中小国が、米中バランスを取り、実利を取って中国と付き合いながら、米国に対しても時に声を上げ、実にしたたかに全方位外交を行っている。リアリズムとして、全方位外交を実践して自国の安全を守り、発展を実現しているのである。
日本は微妙なバランスを取ろうとするその東南アジア諸国を米陣営に引き寄せるための働きかけを懸命に行なっている。しかし、中国包囲網の戦術では、さらに緊張を高めてブロック間の対立を激化させ、地域の安全保障環境を悪化させていくのみである。そもそも、その程度の働きかけでは、東南アジア諸国の中国傾斜を止めることはできない。
インドネシア政府関係者と話せば、「どうして日本はそんなにアメリカばかり見ているのか」と、理解できないとの表情で聞かれ、シンガポールの著名な研究機関のトップを務めた研究者と話せば、「なぜ日本はアジアに戦争を呼び込もうとするのか。やめてくれ」と怒りを交えた口調で伝えられる。
こういう現実は、日本国内ではほぼ知られていない。
この原稿を書いていたら、米国の主要世論調査機関であるピュー・リサーチセンターからさらに衝撃的な調査が発表された(2026年7月15日)。「多くの国の人々は今や、米国よりも中国に対して好意的な見方をしている」と題して、調査対象36か国の多くで中国を米国よりも肯定的にとらえる人が多かった、と発表した。米国を中国よりも肯定的にとらえている国はたった6か国しかなく、米国をもっとも肯定的に見ているのがイスラエルで、次いで日本であった。
日本は変わらず日米同盟一辺倒の安全保障政策を貫くが、世界は激しく変化している。……
……他所から見る世界地図は、日本の私たちが見ている世界地図とは異なるのである。日本の情報がいかに一面的か、メディアや政府発信の情報を見る際にはこのことは心したいし、全方位外交やバランス外交で国家の安全を保っている国が身近に多数あることを認識しながら日本の安全保障の在り方を考えたい。
(猿田「東南アジアの模索と選択」、『地平』・9月号、37-38頁)
猿田さんが上に書いているとおり、ピュー・リサーチセンターのこの調査は、普通に日本で生活してTVや新聞を見ている人には、えっ!? と思える内容でしょう。孫引きですが、以下にかたちを変えて引用しておきます。
36か国の人々は米国と中国をどう見ているか
(米国と中国に好意的な印象を持つ人の割合 %)
対米国 対中国 差(=中ー米)
パキスタン 15 90 +75
マレーシア 19 75 +56
ヨルダン西岸・東エルサレム 9 57 +48
インドネシア 29 72 +43
シンガポール 34 73 +39
タイ 36 69 +33
スリランカ 42 72 +30
バングラデシュ 26 56 +30
トルコ 13 43 +30
スペイン 30 54 +24
イタリア 31 51 +20
メキシコ 40 59 +19
ギリシア 37 55 +18
南アフリカ 35 52 +17
ナイジェリア 63 78 +15
ケニア 63 76 +13
チリ 37 49 +12
カナダ 33 44 +11
ペルー 51 61 +10
フランス 27 36 + 9
オランダ 25 34 + 9
スウェーデン 19 27 + 8
オーストラリア 24 31 + 7
アルゼンチン 44 50 + 6
ドイツ 27 33 + 6
英国 41 46 + 5
コロンビア 60 63 + 3
ブラジル 47 46 - 1
ガーナ 68 64 - 4
ハンガリー 58 53 - 5
ポーランド 49 39 -10
フィリピン 56 40 -16
韓国 45 28 -17
インド 45 23 -22
日本 50 11 -39
イスラエル 81 19 -62
People in Many Countries Now View China More Positively Than the US | Pew Research Center
※赤は米国よりも中国に好意的な人が多い国、青は逆に米国に好意的な人が多い国、緑は同程度。
日本の首相は「世界に平和と繁栄をもたらすことができるのはドナルドだけ」だと米国トランプ政権を賛美し、イスラエルの蛮行も批判しない(どころか、イスラエル製の兵器を買おうとする)わけで、こういう様子を眺めている外国の人の中には、日本のことを「悪の枢軸」の(一味の)ように見ている人がいるかもしれません。日本の人は他人の目を気にする国民のはずですけどね。外国人の「目」は気にならないのでしょうか。
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