ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

円安・アベノミクス・日銀

 ビッグマックなんてもう何年も食べた覚えがありませんが、マクドナルドが世界中で営業していることに目をつけて、各国で売られているビッグマック1個の価値を尺度にして、その国の通貨の購買力平価(通貨の総合力)を測った「ビッグマック指数」というのがあります。ビッグマックは生徒にとっても身近なので、このデータ、むかし授業の教材でよく利用させてもらいました。エコノミストによると、2022年1月時点のデータは以下のとおりです(1ドル=115.23円)。「世界経済のネタ帳」さんから借用します。

世界のビッグマック価格ランキング - 世界経済のネタ帳

 昔の授業プリントを調べたら、2009年に授業で使ったデータがありました。これと比較するため、いくつか国を選んでまとめてみたのが、以下の表です。上が2022年最新版で、下が2009年2月です。

ビッグマック指数(2022年)
              ビッグマック価格       指 数
           現地通貨     日本円換算  (日本=100)
アメリカ     5.81 USドル  669円   172
ノルウェー   57    クローネ  737円   189
オーストラリア  6.40 AUドル  520円   133
中国      24.40 元     442円   113
EU       4.42 ユーロ   571円   146
フィリピン  142.00 ペソ    321円    82
日本     390    円     390円   100


ビッグマック指数(2009年)
              ビッグマック価格      指 数
           現地通貨    日本円換算  (日本=100)
アメリカ     3.57 USドル  321円   100
ノルウェー   40    クローネ  554円   173
オーストラリア  4.36 AUドル  303円    95
中国      12.5  元     165円    52
EU       3.31 ユーロ   416円   130
フィリピン   99.39 ペソ    185円    58
日本     320    円     320円   100


 上と下の指数(日本=100)を比べるとわかることですが、すべての国で13年前よりも数字が上がっています。ということは、この間、表にあるどこの国の通貨に対しても日本の円の価値は下がっていることになります。この1ヶ月ちょっとでさらに10円以上も円安になっているのですから(3月9日前後で1ドル=115円台 →4月15日現在1ドル=126円台)、過去を知る人たち、上の表の中でもとりわけ中国の人やアメリカの人にとって、日本の物価は相当安くなったと感じられるはずです。

3月15日付「PRESIDENT Online」に野口悠紀雄さんの記事が掲載されています。
日本のビッグマックはタイより安い…日本が急激に貧しくなったのは「アベノミクス」の責任である (1/2)

 野口さんは、2013年以降のアベノミクスが円安を誘導し、日本を、国際的に見て、急速に「貧しく」したのだが、これは最も大きな経済的事件だ。しかし、この異常な円安に対して、「番犬」が吠えなかったのが、日本の問題だと言っています。「番犬」とは誰か? もちろん野口さんも含めた識者や専門家、ジャーナリストは、その役目を負っているでしょうが、最も責任のある「番犬」は何をおいても日銀のはずです。しかし、日銀ははじめから「吠える」ことをやめていました。それどころか、泥棒や家に侵入する側の「飼い犬」になってずっと頭をなでられていたのです。

立澤賢一氏が同じ「PRESIDENT Online」の4月15日付記事で、こう書いています。

「やっぱりアベノミクスが元凶だった」金融緩和を続ける日本が貧しくなる当然の理由 じゃんじゃん紙幣を刷っても市中に出回る金は増えていない | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

円の大暴落を引き起こした「日銀の指値オペ
2022年3月28日、日本中の金融関係者を「戦慄せんりつ」させる、「ある大事件」が発生しました。
それは、「日本円の暴落」です。
この日の円相場は、一時1ドル125円まで下がるなど、大幅な円安となりました。1日に3円以上下がったのは、2014年10月以来、実に8年ぶりの出来事です。
ただ、世界中の市場関係者がこの事件に「戦慄」したのは、単に「円が大幅に下落した」というだけではなかったのです。この事件の最も重要なポイントは、円相場暴落の原因をつくったのが、ほかならぬ日銀だったというところにあります。

<中略>
目下起こっている「悪い円安」は、「日米金利差」の結果、円を売って、ドルを買う動きが強まっていることが理由なのです。
日銀は「指値オペ」によって日米金利差拡大を明確化したことで、「円の大暴落」の引き金を引いてしまったのです。

「悪い円安」に対して、日銀が取りうる選択肢は大きく2つあります。
1つ目は、今後も「指値オペ」を継続的に行い、10年国債の利回りを抑えて、今後も円安進行を容認する、という選択肢です。
2つ目は、10年国債の利回りの上昇を受け入れ、急激に進んでいる円安傾向を抑えるという選択肢です。
ただ、円安による輸入物価上昇と、景気後退が同時発生し、「スタグフレーション」となるリスクを考えると、日銀としては後者を選択するしかないように思います。

円の購買力は半世紀前の水準まで低下している
いま日本円はかなり円安で、円の購買力は50年前の水準まで低下していると言われています。わずか10年ほど前、当時の民主党政権下で「1ドル=80円」前後で推移していたことを考えると、大きな変化です。
それがなぜ「円安」になっているかですが、1つの理由として「アベノミクス」の影響であると考えて差し支えないように思います。
アベノミクス」とは何かを語るのは簡単ではありませんが、その最大の「売り」が、日銀による大規模金融緩和であることは間違いないでしょう。
2012年末に第2次安倍政権が発足し、2013年3月に日銀総裁黒田東彦氏が就任して以降、日銀は「大規模金融緩和」を実施しています。金融緩和とは、簡単に言うと、市中に出回るお金の量を増やす政策です。要するに、お金をたくさん刷っているわけです。

アベノミクスの看板政策がもたらしたもの
日本円をたくさん刷るとどうなるか。
いわゆる「リフレ派」の人々の理論によりますと、円の「量」が増えれば、円の「価値」が下がることになります。円の「価値」が下がるとは、要するにインフレになるということです。
安倍元首相や黒田総裁をはじめとする「リフレ派」の方々は、日本経済が低迷する原因は「デフレ」にあると考えました。よって、円をじゃんじゃん刷って、インフレにして、デフレから脱却すれば、日本経済は回復すると訴えていたのです。
ただ、円をじゃんじゃん刷れば、為替相場はどう動くでしょうか。
円の価値が下がるわけですから、当然、対ドルでの相場は「円安ドル高」になります。そのため、「アベノミクス」開始以降、日本円は大幅な円安となったのです。
アベノミクスとは要するに円安政策だった」と言っても過言ではないでしょう。

輸入依存の日本にとって「円安」こそ危険
かつて、円安は日本経済にとってプラスだと言われていました。円高だと輸出品の価格が上がり、世界市場で売れなくなります。そのため円高は日本経済にダメージを与えるというのが「定説」でした。
しかし、いまは経済構造が大きく変化しています。
製造業を中心とする輸出企業は、すでに現地生産に切り替えています。アメリカに輸出するものをアメリカで生産しているのですから、取引はドルで行われます。日本円の相場が変動しても、さほど影響はありません。
一方、日本全体で見ると、「輸入依存」が目立ちます。特に、福島第一原発事故を受けて、原発を停止して以降、原油天然ガスなどの輸入が増えています。エネルギー以外でもわたしたちの生活を見渡してみれば、輸入品に囲まれています。
つまり、現在の日本の経済構造は、むしろ「円安」に弱くなっているのです。
円安になればなるほど、輸入品の価格が上がっていきます。そんな中、黒田日銀は、「異次元緩和の継続」を宣言し、「指値オペ」を実施して、大幅な円安を招いたのです。

アベノミクスに日本経済を成長させる力はなかった
そもそも「アベノミクス」で日本経済は成長しているでしょうか?
GDP成長率、実質賃金、どれも「横ばい」がやっとというのが現実ではないでしょうか。それもそのはず。「アベノミクス」にはもともと、日本経済を成長させる力などなかったのです。
先ほど、「アベノミクスで日銀がじゃんじゃん円を刷った」と言いました。実際、日本円の「総量」とも言うべき「マネタリーベース」は、2022年3月の時点で「662兆円」まで膨らんでいます。「アベノミクス」開始前の2012年12月の時点では「132兆円」でしたので、「激増」しています。
「マネタリーベース」とは、簡単に言うと「日銀が直接供給するお金」です。その内訳は、「日銀当座預金」と、市中に出回る現金がほとんどです。
しかし、マネタリーベースが増えても、お金が市中に出回らなければ、意味がありません。その「市中に出回っているお金」は、マネタリーベースではなく、「マネーストック」が該当します。
その「マネーストック」の推移を見てみると、実はあまり増えていないのです。

大きな「ツケ」をいま国民が払わされている
2012年12月に1135兆8000億円だったマネーストック(M3)は、2022年2月には1532兆4000億円と、1.35倍にしかなっていません。「マネタリーベース」が約5倍になっていることを考えると、ほとんど増加していないといっても過言ではありません。
つまり、日銀がじゃんじゃんお金を刷っても、市中にはほとんど出回っていないのです。
アベノミクス」には3本の矢が配備されていました。「第1の矢」は大胆な金融政策、「第2の矢」は機動的な財政政策、そして「第3の矢」が民間投資を喚起する成長戦略でした。
ところが、実際に行われたのは「第1の矢」だけで、残り2本の矢は放たれなかったのです。
仰々しいキャッチコピーや、メディア対策によって、「アベノミクス」は世論の圧倒的な支持を集めました。しかし、それはイメージ戦略にすぎなかったのかもしれません。
一方、いま発生している「円安」と「物価上昇」は、アベノミクスの「ツケ」といっても過言ではありません。
……

 アベノミクスで喧伝された「トリクルダウン」とは、タワーのように積まれたグラスのてっぺんからシャンパンを注ぎ、溢れたシャンパンが下へ下へとしたたり落ちていくというイメージでした。しかし、立澤さんのマネタリーベースの話に当てはめれば、上から大量にシャンパンを注いだのにほとんど下へは溢れ出なかった。つまり、この10年、じゃんじゃん刷られたお札はほとんどが企業か資産家の懐に吸収され、国民のところには行き渡らなかったのです。今やそのツケやしわ寄せが目の前に露わになってきたのに、日銀はそれに対応できず(対応せず)、さらにシャンパンを注ぎ続けようというわけです。これは病です。「依存症」に近い。知っていてなおも続けるなら「犯罪的」です。

 むかし母親が亡くなる前に担当医に呼ばれて、延命治療をするかどうか、意思確認をされたことを思い出しました。延命治療をすれば命は長らえますが、もう話はできなくなると言われ、お断りしました。今でも、このときの判断でよかったのかと自問することはあります。
 日銀の黒田総裁も、責任逃れや体裁を繕うために「指値オペ」を指示したのでなければ、同じような悩みをおもちでしょう。とはいえ、引き返せる時点はとうに過ぎているかもしれません。政策転換をして「痛み」を引き受ける覚悟がないのであれば、身をひくべきではないかと思います。「相棒」は「仮病」をつかってもう退場してしまいましたが…。





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