ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

ヤニス・バルファキス氏に聞く

 経済学者で元ギリシャ財務長官のヤニス・バルファキス氏のインタビュー記事を読みました。ギリシャの経済危機にあたって、その最前線に立ち、債務整理EUIMFらと交渉にあたった人で、何冊か日本語訳の著書も出ています。
「ピープルズ・プラン研究所」の小倉利丸さんの翻訳から部分引用させてください。

ピープルズ・プラン研究所 - ウクライナはこの戦争に勝てない―私たちは、プーチンに出口を与える道徳的な義務がある(ヤニス・バルファキス)

――対ロシア制裁についてはどうでしょうか、支持しますか?
独裁的な政権に制裁を加えると、独裁者ではなく国民が被害を受けるのはいつものことです。特にプーチンの場合はそうです。プーチンには軍資金があり、それはかなり大きい。そして、彼はロシア国民の窮状など気にも留めない。しかし、これだけははっきりさせておきたい。私は制裁に反対しているわけではありません。ロシア軍が立ち退いた町や村、ウクライナ東部の沿岸部の惨状を目の当たりにして、「この人たちと単純に取引したくない、ヨットやお金にアクセスさせたくない」と言う人がいるのはわかりますが、私はそれでいいと考えています。
しかし、結局のところ、西ヨーロッパの貧困層は、物価、特に電気料金の上昇によって、さらに多くの苦しみを味わうことになると思います。基軸通貨であるドルは、非常に大きな圧力にさらされていると思います。ですから、アメリカの政権は、ロシア中央銀行をドル決済システムから切り離したことを後悔することになるのではないでしょうか。
しかし、今この瞬間、そんなことはどうでもいいのです。なぜなら、重要なのは戦争だからです。フレディ、私が夜も眠れないのは、人々が殺されていることだ。どうすれば、ロシア軍の即時停戦と撤退を実現できるのでしょうか?
ウクライナを支持すると称し、私の立場を攻撃している人々について私が呆れるのは、彼らが、ウクライナが戦争に勝ってプーチンを打倒する可能性を真剣に考えようとしているように見えるからです。これは完全に絵空事です。そんなことを信じている人は、何十万人ものウクライナ人の命を危険にさらしているのです。
せいぜい膠着状態になるのが関の山です。ウクライナの人々にとって、膠着状態は最悪です。なぜなら、プーチンが何をしようとしているか分かっているからです。彼はグロズヌイでやったことをやるつもりです。彼は放棄する必要がある地域を徹底的に破壊するつもりです。ウクライナ軍は非常に英雄的であり、私は彼らの抵抗に賞賛を送りたい。しかし、彼らは戦争に勝つことはできない。この痛々しく、殺人的な膠着状態が延々と続くことを本当に望んでいるのだろうか。米国に扇動されたロシアの政権交代に、本当に介入したいのだろうか。米国が政権交代を試みるたびに、我々は完全な破滅を経験してきた。アフガニスタンイラクリビアを見ればわかる。そして、この国は核保有国です。この火と、この核の火と、戯れていたいのだろうか。
直ちに停戦すべきです。ゼレンスキー大統領は、その信用に応え、私が最初の日から行ってきた提案を採用しました。ジョー・バイデンとウラジミール・プーチンの間で──もちろん、ゼレンスキーと、欧州連合も参加して──非常にシンプルな取引、合意を行うべきだという提案です。ロシアはウクライナから撤退し、その代わりに西側は制裁をやめ、ウクライナは西側の一部にはなるがNATOの一員にはならないと約束する。

――EUの一員になることも含まれるのですか?
プーチンは逃げ道を求めているのです。米国とゼレンスキー、そしてEUが一緒になって、彼に出口を与えなければならないと思います。もし彼が勝利を収めたと見なすことができれば、つまり自国民に勝利として提示できるもの(「私はNATOの東方への拡張を終わらせた。私はNATOの拡張を止めるために戦争をし、成功させた」)、私たちは彼にこの出口を与える道義的な義務があると思います。今、彼がそれを受け入れるかどうかは保証できません。しかし、西側諸国は、殺戮を止めるために、彼にこの方法を提案することができます。

――数週間前までは、プーチンに逃げ道を提供することは、人気を博したかもしれません。しかし、今は状況が違うように感じます。キエフ周辺からロシア軍が全面撤退し、本格的な敗北のようなものが実際に見えてくるかもしれないという確信が高まっているようです。それについてはどうお考えですか?
それは狂気の沙汰です。マリウポリやクリミア、ドンバスでウクライナ軍がロシア軍の全軍を撃破できるわけがない。それができれば万々歳だ。ゼレンスキーがそれを信じているとは思えない。誰も信じていない。そう、プーチンキエフに堂々と乗り込まなかったのは喜ばしいことです。彼は血まみれになったが、それはとても良いことだ。今こそ平和を訴えるべき時です。
西側諸国がユーゴスラビアのひどい内戦の後にそうしたように。スレブレニツァを思い出してください。ボスニア全土で残虐行為が行われました。ボスニアだけでなく、クロアチアウクライナユーゴスラビア内の内戦で荒廃したさまざまな地域で。しかし、アメリカ大統領の支援のもと、西側諸国はミロシェビッチと話し合い、ボスニアに不完全な平和を作り出し、それが今に続いているのです。それは間違いだったのでしょうか?一方が他方を完全に消滅させることを願いながら、血を流し続けるべきだったの でしょうか。私はそうは思いません。

――ウクライナの戦争を支援するために送られる武器の量を大幅に増やすという話もあります。あなたはそれに反対なのでしょうか?
ウクライナ軍が抵抗している間、私たちは彼らを軍事的に支援する道徳的義務があると思います。私やあなた個人ではなく、欧米がウクライナ抵抗勢力に武器を送ることを批判するつもりはない。しかし、抵抗することの要点は、和平を訴えられるところまで到達することです。誰もが少し不満に思うような協定を結ぶことができれば、それが最適な協定となるのです。例えば、ウクライナNATOに加盟せず、武装解除をする。ロシアとウクライナの国境の両側には非武装地帯ができるかもしれない。クリミアは10年後くらいに議論すればいい。
このような合意は、ウクライナEU加盟を妨げないという理解で補強することもできるでしょう。まあ、その合意は、双方の軍拡競争を終わらせることと密接に関係しているの ですがね。だって、もしかしたら明日のプーチンは中国軍の支援を受けるかもしれないんですよ?そんなエスカレーションを私たちは本当に望んでいるのでしょうか?

――そのような発言をすれば、裏切り行為と見なされるようなことが、突然起こってしまったのです。
戦争が始まると、私たちの頭は混乱します。戦争が始まると、私たちは冷静さを失い、温情主義が主流になります。今、ヨーロッパには絶望している冷静な人たちがいることは間違いありません。しかし、彼らは声を上げることができない。ドイツでは、連邦共和国政府の中にそれが見て取れます。自分たちの髪を引っ張っているのです。なぜなら、もし彼らが声を上げれば、戦争屋が大はしゃぎして、すぐに責任を取らされるからです。
だからこそ、私たちは団結して、議論にわずかな理性を取り戻し、今重要な唯一のことに集中することが重要なのです。それはお金ではありません。貿易でもない。天然ガスでもない。ウクライナの人命だ。どうすれば人の死を止められるのか。なぜなら、もしこのままでは、ウクライナの人々の命よりも、ウクライナ人がNATOに加盟する理論上の権利を優先させ、人々の命よりもウクライナEU内やNATO外の西欧民主主義国家として繁栄する機会を優先させるような人たちが、泥沼を作り出すことになり、その結果二つのことが確実に起こるからです。第一に、救えるはずの何千人もの人々が犠牲になること、第二に、ウクライナは砂漠と化すということです。

<以下略>
https://unherd.com/2022/04/ukraine-cannot-win-this-war/

国際政治学者の伊勢崎賢治さんも、Twitterで連投しています。これは多くの人にも見ていただきたい内容です。おっしゃるとおり「東大入学式の祝辞なんかに膝蓋腱反射」している場合じゃないと、自省しています。戦闘が長引いてほくそ笑んでいるのは、武器商人くらいなものです。

伊勢崎賢治 on Twitter: "週プレで僕を取材してくれた川喜田研さんが見事なフォローをFBに書いてくれました。
★みんなに聞きたい質問こーなー★
①「プーチンのロシア」が絶対的な悪だとして(まぁ、俺も正直、そう思う)それを支持するロシア人も絶対的な悪なのかな?(どうやら、未だにロシア国内の支持率80%らしいけど…)"




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