ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「凪」が「止んだ」とき

 今もテレビで盛んに流されているCMで、今年の末までにマイナンバーカードをつくれば最大2万円分のポイントを付与するとしていた政府が10月13日に、2024年秋から紙の健康保険証を原則廃止し、マイナンバーカードと一体化する方針を発表したのは、ポイント付与と並行して進める話とはいえ、“アメ” から “ムチ” への方針転換のように映ります。官僚を怒鳴りつけているという噂のK太郎氏が、言わば岸田首相の頭越しに、この方針を公表したこともあって、いっそう政府の「強権性」「統制性」が露わになった印象もありますが、しかし、より大きな「文脈」で考えると、今後日本政府は国民に対し「強権的」「統制的」な構えをとらないと、経済、財政、社会保障……と、あらゆる困難(崩壊)に対処できないということ(自信のなさ 不安)の「現れ」なのかも知れません。

 10月30日付「デモクラシータイムス」で、岸田政権の経済政策を「アホダノミクス」(アベ・アホノミクスの岸田バージョン)と呼ぶ経済学者・浜矩子さんのインタヴューを見ていて、「国債を発行し続けても自国通貨建てだから大丈夫だという意見もあるが、どうか」と問われた浜さんが口にした「独裁体制を前提にしないと」という一言が、頭の中でずっと残響しています。話の前後を引用させてください。

アホダノミクスの断末魔!浜矩子さん【ここが聞きたい】22221027 - YouTube

 山田:諸外国がみんな利上げに走っているときに、日本にはそれができないのは、政治にその意思がない、岸田さんが政策転換ができない、ということなんですが、これはいったいなぜなのでしょうか?
 :政策転換して金利が上がり始めると、政府の債務返済負担が一気に膨らむことになりますよね。今は事実上金利はゼロに抑え込んでいるわけですけれど、それが上がり出すと、日本国政府は絶対に債務を返済できない、到底返済できる金額ではないということが明るみになってしまうわけです。それは絶対に避けたい。国債が暴落し、円が暴落し、株価も暴落して日本経済が完全にひっくり返ってしまう、そういう方向に行くわけにはいかない。しがって、異次元緩和という、要は財政ファイナンス(日銀が国債を買い上げて政府の財政資金を供給し続けること)ですけど、政府のためにお金を提供するという打ち出の小槌政策をどうやっても止めることができない。そういうところに、政府も日銀も自分たちを追い込んでしまっているということです。これは国民に対するとんでもない裏切り行為をしているということですが、もはや変えるに変えられない、動くに動けないという状態になってしまいました。……
 山田:「財政ファイナンス」の問題点は何でしょうか?
 :政府は全然財政の健全性など考えずに、お金をいくらでも遣いたいように遣いたいところで遣えてしまう、つまり財政節度がまったくなくなってしまうということにつながっていきます。今、岸田政権下では国防費倍増という話が出ています。その倍増のための資金も国債を発行して賄うんだという話になっていますが、そんなことは日銀が財政ファイナンスをやっていなければできることではありません。こんなに借金をしている政府が発行する国債を、日銀以外で誰が買ってくれるのかという話になるわけで、禁じ手の財政ファイナンスを日銀が行うということが前提となって軍備増強を進めようというわけですから、まったくけしからん話ですよね。
 山田:政治を見ていると、一方では国防費を2倍にするという意見もあれば、いや教育費だって上げてほしい、社会福祉費用にしても、年金があんなかたちでどんどん切り下げられていくのは困るからしっかりやってほしいし、介護だって、医療体制だって、もっと充実させてほしい、などと、増やして欲しいという考えはたくさん出てきます。他方で、増税、消費税増なんて、どうしてできるんですか、という話もあります。法人税所得税増税も同じで、こうなると、与党も野党も、国債しかない、という方向に流れていくのかなという雰囲気もあります。中には、日本国政府は、自国通貨で国債を発行しているから、絶対に破産することはない、いくらでも国債を遣っていいんだという議論が野党の間からさえ出ていますよね。この辺りをどう考えていますか?
 :まず、自国通貨建てで発行していれば国債は心配ないというのは、国家の権力は揺るぎないという統制経済的、独裁体制的なしくみを前提にしないと、それを言い切ることは絶対にできません。実際には、日本の国債は日本の機関投資家がどんどん持たないようになっています。逆に、外国人投資家が多くないから大丈夫だという話もありますが、実は外国人投資家も15%くらいを占めるようになっていて、なかなか軽視できないスケールになっています。それでも、日本の機関投資家が日本国債から腰が引けているのは事実ですから、自国通貨建てだから大丈夫という理屈は成り立たないし、それは「理屈」ではないと思います。国が強権であることを前提に、国債を割り当てで押しつけるというなら別ですけど、そういうような状況ではない中では、国債の発行は問題なしという「理論」は、「理論」の体を為さないと思います。……
 山田:……イギリスでは政治がある意味「勝手なこと」をやったがゆえに、市場が反乱を起こして、政権をぶっ倒してしまった大変な事態になりました。イギリスの状況をどうご覧になっていますか?
 :自国通貨安がどんどん進んで、政策が窮地に陥っていくというところはイギリスと日本はよく似ていて、「同病相哀れむ」という感じになっていますが、「同じ病気」に見舞われながらも、それがもたらしている結果が大きく違うところがおもしろいですね。イギリスでは、このあいだ就任したばかりのトラス首相が一月半で辞任に追い込まれることになりましたが、その理由は、支離滅裂と言ってよいと思いますが、彼女が財政の大盤振る舞い政策を打ち出した。金持ち減税はやるは、補助金は出すは、法人増税も見送るは、とかなりの規模のバラマキ財政をやりますと言ったものですから、それに機関投資家たちが怯えて、イギリス国債を叩き売るという状況になり、ポンド安がさらに進み、年金基金会計も怪しくなるというようなかなりハチャメチャな状況になったので、しかたなく電撃辞任ということになったというわけです。日本も、この円安下にとんでもないバラマキ財政をしていますが、(対照的に)まったくの「凪」状態ですね。アホダノミクスのこの男は、のほほんとずっと首相の座に居座っていて、そこに大きなちがいがありますが、理由は二つあると思うんです。
 一つは、トラス氏が辞任に追い込まれたのは、英国債がものすごい勢いで売られて、歯止めなく値を下げ、ポンドも売られ、それで辞めざるを得なくなってしまったわけですが、日本の場合は、国債を日銀がほとんど持っていて、管理し続けられる限り、国債の暴落という事態は起きないので、英国みたいに政策責任者が辞めざるをえなくなることにはなっていないわけです。だから、日本の国債市場は統制市場であるということが、イギリスの展開とのちがいになって現れていて、あのようにドラマチックな辞任劇は、国債の資本市場がまともに機能していれば起こりうるんだということを我々に見せてくれたと思うんですね。裏を返せば、日本の資本市場がいかに異様な状態になっているかということが、イギリスの状況を見ることによって、とてもよくわかったということです。

 山田:イギリスの場合、確かに、国債が乱発されてくれば、そんなものは買えないよ、ということでマーケット(市場)で金利が上がって、おのずとブレーキがかかるという、これが元々の国債市場、債券市場の役割だったんですが、今の日本の国債市場、債券市場は、日銀が管理していて、おかしくなっても警報が鳴らないようなしくみになってしまっている。ここが大きなちがいだということですね。
 :そうです。そこが、根源的で怖いちがいですね。さらに、日本の場合は株式市場も同じですよね。多くの企業にとって、日銀は安定株主になってしまっていますから、株式市場にも危険を知らせるシグナルが鳴らないシステムになっていて、株式市場も国債市場も「凪」状態ですが、実はとんでもない波乱の状況になっているのに、「凪」が前面に出てしまうという、危険な状況になっていますね。だから、まともならイギリスのようになるところを今回見せてもらったのは、よかったことだとは思いますが。
 それから、あともう一つ、今回のドタバタで日本とイギリスではちがうなと思ったのは、要は政治家の正直度のちがいですね。トラスさんは、自分が目指すのは一に成長、二に成長、三に成長だと、絶叫していたんですね。この3つの目標達成のためなら何でもすると言ってたんです。金持ち減税とかを言うので、あまりの過激さに嫌がられてしまったんですけど、正直は正直ですよね。そこには自分の思いをごまかすというところはない。それにひきかえ、このアホダノミクス男さんの方は、成長と分配の好循環と言ってみたり、社会的課題の解決と成長戦略の二兎を実現するとか言ったり、逃げ口上とアリバイづくりとしか思えないモヤモヤとした言い方を並べる。その誠意のなさ、正直度の低さというのも、トラス氏と比べると、はっきり見えてきたんじゃないですかね。……
<以下略>

 「凪」が「止んだ」とき(妙な日本語ですが)どうなるかは、歴史的、経済的知識の範囲で想像はできますが、小生にとっては、実感をともなう世界ではありません。浜さんは、そのときどうしたらよいか、どういう心構えでいるべきかと問われ、地下に潜って(政治世界の住民たちとは異なる)自分たちの信頼関係に支えられた共同社会をつくって生きのびていくしかないというような話をされていました。それも実感としてわかる世界とは、正直なところ、言いがたいのですが、小生にとっては生前のこととはいえ、この国は戦後の「廃墟」を経験し、そこから立ち直っていった過去があります。そんなことはもう一度経験するのはできれば避けたいことですし、そこから予定調和的に立ち直れる保障もないとは思いますが、心の準備だけはしておかなければと思います。

 



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