ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

アベノミクス急行は常に「道半ば」

 5月後半、自民党がまとめた政府の経済財政運営の基本方針への提言案の中には、当初、「初任給は30年前とあまり変わらず、国際的には人件費で見ても『安い日本』となりつつある」との分析があったようですが、アベ氏はこの「安い日本」という表現が許せなかったご様子で、「アベノミクスをなんだと思っているんだ」とひどくお怒りだったとのことです。しかし、アベノミクスとは端的に言えば円安誘導策なのですから、「日本」が「安く」なることはあっても「お高く(高級に?)」なることはあり得ません。それとも、企業は史上最高益を上げるなど大いに儲かったのだと、おべんちゃらでも添えれば氏は満足だったのでしょうか。でも、それは庶民は貧しくなったことの裏返しなのですが。トリクルダウンは起こりませんでした。私企業は基本的に国民の福祉増進のために活動するのではなく、私的利益増進のために活動するのですから、内部留保を膨らませたり、株主還元はするかもしれませんが、賃金の引き上げなどは最後の最後です。その間に働く人たちの雇用はどんどん流動化させられました。コロナで明らかになったように不測の事態でも起きれば、企業は、働く人の賃金を上げるどころか、いっそう「自己防衛」に走ることは当然予想できます。

 そして、毎度のことながら最後の決め台詞は「アベノミクスは道半ば」です(黒田・日銀総裁物価上昇率が悲願の2%を越えても金融緩和は止めないと言っています)。アベノミクスは始まってもう10年になろうとしていますが、この「道」は、国民をいったいどこに連れて行く「道」なのでしょう。気がついたときには、急行列車の運転席には誰も人がいないで、後ろの方で誰が運転席に座るかと、あみだで決めるか、それとも、ジャンケンにするか、いや他にも方法が……とか何とか、それさえも決められずに揉めている図が浮かんでしまいます。

 しかしながら、こうしたかたちで、ある意味生々しい自民党内の内輪話の断片が漏れ出てくるということは、党内対立が浮き彫りになって情報のリーク(今回は財政再建派から)が始まったということかと思います。偽情報に気をつけて操作されないようによく見ていかないといけません。
 6月2日付朝日新聞の記事より(年齢等は省きます)。

「アベノミクス批判するのか」安倍氏怒りの電話 許せなかった言葉 [自民] [岸田政権]:朝日新聞デジタル

 5月19日、自民の財政再建派を中心とする財政健全化推進本部の会合後、安倍氏は、自らの派閥に属する越智隆雄・元内閣府副大臣の電話を鳴らした。「君はアベノミクスを批判するのか?」。声は怒気をはらんでいた。
 推進本部で事務局長を務める越智氏は「批判はしていません」と理解を求めたが、安倍氏は「周りはアベノミクスの批判だと言っているぞ」と迫った。……話を終えても安倍氏は憤懣やるかたない様子で、周囲に「誰があんなバカな提言を書いたんだ」と言い捨てた。怒りの矛先は、その日の本部の会合で示された提言案だった。
 越智氏らが、政府の経済財政運営の基本方針「骨太の方針」への反映をめざしてまとめた提言案には、これまでの経済政策をめぐりこんな指摘が盛り込まれていた。

 「近年、多くの経済政策が実施されてきたが、結果として過去30年間のわが国の経済成長は主要先進国の中で最低レベル」。また、「初任給は30年前とあまり変わらず、国際的には人件費で見ても『安い日本』となりつつある」との分析も記された。

 これを、安倍氏は自らの政権の旗印だったアベノミクスへの批判と受け止めた。
 そもそも、機動的な財政出動を重んじ、「カレンダーベースで基礎的財政収支(PB)の黒字化目標を置くのは適切ではない」と繰り返す安倍氏と、黒字化の明確な行程を打ち立てたい再建派の主張は相いれないものがあった。
 「『安い日本』という表現もおかしい。アベノミクスをなんだと思っているんだ」。周囲に漏らした安倍氏の言葉は、再建派に攻勢をかける「宣言」でもあった。

<中略>(昨年12月以来、党内の積極財政派と財政再建派は党内論議の主導権をめぐってそれぞれ会合を重ねてきた)

「『安い日本』は自虐的」修正要求
 5月19日の推進本部(積極財政派)の直前にあった安倍派の例会で、提言案を事前に聞かされていた安倍氏は、「我がグループも(再建派の議論に)参加している。皆の意見を採り入れてもらい、満場一致の拍手になることが大切だ」と発言。派閥の議員は「推進本部を荒れさせる前振りだ」と受け止めた。
 それから約2時間後に始まった本部の会合は紛糾した。安倍氏に近い議員は「我々は譲歩した」「『安い日本』という自虐的な表現はやめてほしい」などと修正を要求。「官僚に丸投げしたとは思わないが………」と財務省の関与をにおわせると、再建派から「失礼だろ!」と怒号が飛び、一触即発の雰囲気に包まれた。2時間の会合で25人が発言し、とりまとめには至らなかった。
 翌20日の会合では、アベノミクスへの言及を大幅に加筆するなどした修正案が示されたものの、批判は収まらず、扱いは額賀本部長の一任となった。安倍氏が直接「交渉」に乗り出し、額賀氏にこう伝えた。「こんな提言を出したら、恥をかきますよ」
 23日午後、議員会館安倍氏の事務所に安倍、麻生、西田、額賀の4氏が顔をそろえた。この場で安倍氏側は「数十行」(再建派の一人)に及ぶ修正案を額賀氏に示したという。再建派内からは「とにかくアベノミクス批判は許さないということか」とのうめきが漏れた。
 文案の修正を重ねた額賀氏や越智氏らは26日、ようやく提言を発表した。PB黒字化の堅持は維持し、額賀氏は「基本的なことは変わっていない」と強調した。一方、アベノミクスに関わる部分は大幅に修正。「アベノミクスは道半ば」と追記し、「安い日本」などの記述は消えた。額賀氏は「強い経済をつくるのが最終目標。そういう中で財政健全化もめざす。その中で、アベノミクスは道半ばっていうことですよ」と説明した。

「日銀が思い切って輪転機回す」成果誇る安倍氏
 安倍氏は、積極派、再建派双方の提言がまとまると、こんな予測を周囲に披露した。「骨太の方針は、両方の提言を足して2で割ったものになるだろう。岸田さんは、黒字化目標は書き込まないだろう」。実際、31日の政府の経済財政諮問会議に示された骨太の原案は、「財政健全化の『旗』を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む」としつつ、例年記載してきた「2025年度」の年限は削られた。
 一連のてんまつについて、再建派の一人は「政権与党として、アベノミクスプロパガンダではなく、失われた30年を真摯に振り返る責任がある。日本経済の余命はあと何年か。早く持続可能な形にしないと、世界から見放される」と危機感を語った。
 一方の安倍氏は、参院選を前に各地でアベノミクスの成果を誇る。5月末の富山市の講演では「アベノミクスの大胆な金融緩和を簡単に説明すると、日本銀行が思い切って輪転機を回していくということだ」と説明。「日本には1千兆円近く累積債務があるが、半分は日本銀行国債を買ってもらっている。日銀が買った国債はずっと借り換えをしている。野放図というわけにはいかないが、日銀は何と言ってもお金を刷れる」と語り、「経済V字回復を」と訴えた。
 アベノミクスをめぐる騒動から距離を置いていた党幹部は、自嘲気味に語る。「日本は結局、長い間経済成長ができていない。でも次に何をやるかが全然はっきりしない。いまの政権内の構造では、これが限界なのかもしれない」






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