ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「法の支配」を拒む人たち

 「他人に適用する原理原則を自分に適用しない人を偽善者という」――これは妙な全能感を抱いた権力者(と取り巻き)が働いた身勝手極まりない判断と行為であって、「法の支配」などという、そんな「高尚」な話を持ち出すべきではないのかも知れません。そもそもが違法行為に手を染めた権力者が、「御用聞き」を検察トップに据えておけば自分は捕まらない、安心だ。けれども、その「御用聞き」が定年間近で検事総長にはなれないことに気づいたので、何とかならないかと誰かに相談したら、検察官も他の一般の国家公務員と同じことにして定年延長しちゃいましょうよ、などという話になって、ほとんど「思いつき」で、都合よく法律の解釈を変えることにした。だいたい話はそういうことだと思います。「一強」と呼ばれ、藤原道長じゃありませんが、当人も周囲もこの世の春を謳歌し、挙げ句に都合の悪いことは何でも閣議決定で済ませようという、堕落した為政者の姿があったということでしょう(もちろん「過去形」では済みません)。
 ただ、毎日新聞の一面トップを飾るこの記事の左下には、先月の日中韓首脳会談について、「『法の支配』同床異夢」という見出しの記事があって、この言葉との「落差」が気になったのです。記事には、

 「法の支配」とは、いかなる権力も、法の下に規制されるという考え方。国内では、公正で公平な社会に不可欠な基礎となる。……
日中韓首脳会談:日中韓首脳会談 成果文書(その1) 「法の支配」同床異夢 | 毎日新聞

とあります(下線は当方が施しました)。他国に「法の支配」を言うのであれば、自国が「法の支配」になければ「偽善国家」です。他国や自国民に「法にのっとって」と言いながら、言ってる為政者本人が法を守る気がないのはご都合主義というものでしょう。今朝の記事からの引用です。
法解釈変更「検事長定年延長のためとしか…」 地裁判決のポイント | 毎日新聞

 東京高検検事長だった黒川弘務氏の定年を延長した政府の閣議決定(2020年1月)を巡り、法務省が作成した関連文書の開示の是非が争われた訴訟の判決で、大阪地裁は27日、国の不開示決定を取り消した。徳地淳裁判長は閣議決定の根拠となった法解釈の変更について「黒川氏の定年延長が目的だったと考えざるを得ない」と述べた。
 政府はこれまで、法改正の過程で解釈変更し、黒川氏の定年延長についても「恣意(しい)的ではない」と説明してきたが、これらを否定する司法判断となった。
 検察官の定年は63歳(トップの検事総長は65歳)とされてきたが、政府は20年1月、1週間後に退官を控えた黒川氏の定年を半年延長すると閣議決定した。政府は従来、国家公務員法の定年延長規定は検察官に適用されないとしてきたが、法解釈を変更して黒川氏に適用。政権に近い黒川氏を検事総長にする人事だと野党が追及した経緯がある。
 神戸学院大の上脇博之教授は法務省が黒川氏の定年延長に向け、解釈変更を検討する際に作成した文書を情報公開請求した。法務省が黒川氏を巡って協議した文書は存在していないとして不開示としたため、上脇氏が提訴。訴訟で国側はこの文書について「法改正の検討段階で作成した」と述べるにとどめ、黒川氏の定年延長が目的ではないと主張してきた。

 判決はまず、解釈変更や閣議決定の経緯を検討した。法務省は19年12月から1カ月程度で解釈変更を決定。関係機関と8日間で調整し、その5日後には政府に閣議決定を求めていた。閣議決定は黒川氏の退官予定日の7日前だった。
 解釈変更の必要性について「直ちに変更すべき社会経済情勢などの変化があったと考えがたく、捜査現場からの要請なども見当たらない」と指摘。定年延長が全国の検察庁に周知されず、他に適用された検察官がいないことも踏まえ、「短期間で解釈変更した理由は、合理的に考えて黒川氏の定年延長しかあり得ない」と述べた。
 そのうえで、法務省は上脇教授が開示を求めた黒川氏の定年延長を目的とした文書を保有していると認め、不開示決定を違法だと結論付けた。
 検察幹部の定年を延長できる特例規定を盛り込んだ法案は廃案になった。その後、この規定が削除されて成立している。黒川氏は賭けマージャンをしていた問題が発覚し、定年を待たずに辞職している。

 裏金問題につづいて、ここでも上脇さんが大きな仕事をしてくれています。判決後の記者会見で、上脇さんはこう述べています。
「黒川氏の定年延長が目的」 大阪地裁、文書開示判決 - YouTube

 ……裁判所が常識的な法律の解釈をして、常識的な事実認定をしてくれたと、そういうことに尽きるかなあと思っています。法律学では、国家公務員法の定年の問題は、これは一般法ですので、特別法である検察庁法の検察官の定年延長の問題とは別個なんですね。常識的に考えれば、検察官に国家公務員法の適用があるというのは、どう考えてもあり得ない。それを裁判所も踏襲するかたちで判決が書かれていて、常識的に考えれば、検察官の定年延長をするんだったら、法律改正するしかないよね、という、ほんとにそこを出発点にしています。と同時に、事実認定のところで、どう考えても黒川さんのためにやったんでしょと、解釈変更したんでしょということを事実認定していただいています。そういう意味でも、ほんとにまっとうな判決が出てよかったなあというふうに思っています。……

 会見で上脇さんは「常識的な解釈」「常識的な事実認定」と「常識的」という語を繰り返しています。「非常識」が横溢するうちに「常識」離れが進んでいくでしょうから、この判決は実に大きいと思います。上脇さんには敬意しかありません。



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