ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「国の指示権」の拡大

 昨日5月30日、衆院地方自治法の「改正案」が可決されました。非常時に自治体に対する国の「指示権」を拡大する内容です。現在自民党の裏金問題で政治資金規正法の改正に世間の関心が集まる中、「こっそりと」ということもありませんが、地方自治の根幹を揺るがしかねない法案が20日余りで通されることに憤りを感じます。以下は、今朝31日付の毎日新聞の記事からの引用です。
「想定外」の要件あいまい 乱用歯止めも不透明 国の指示権拡大 | 毎日新聞

……「極めてあいまいな要件のままでは、時の内閣の恣意(しい)的な判断で自治体に指示を行う余地を残す」
 立憲民主党の吉川元氏は30日、衆院本会議の討論で改正案に懸念を示した。
 改正案では「国民の生命等の保護のために特に必要な場合」には、該当する個別法がなくても、国が閣議決定を経て、自治体に必要な対策を指示できるよう特例を設ける。
 法改正のきっかけとして国が挙げるのが、新型コロナウイルス感染症が発生した当初の教訓だ。
 2020年2月、横浜港に帰港した大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で集団感染が発生。国が周辺自治体に指示する法的根拠がなかったため、患者の搬送調整が難航し、受け入れ先がすぐには決まらなかった。
 また、当時の安倍晋三首相は全国の小中高校などの一斉休校を突如要請。教育委員会や学校現場が混乱した経緯もあり、政府側は想定外の事態に備える法整備の必要性を強調する。
 松本剛明総務相は審議で、過去に国の役割が明確でなかった例としてコロナ対応のほか、島しょ部災害や広域災害を挙げた。
 これに対し野党は、個別法で対処できない具体的なケースをただしたが、松本氏は「具体的に想定しうるものはない」などと繰り返し答弁。28日の総務委での討論では、立憲の大築(おおつき)紅葉氏が「想定できない事態をあえて想定したもので、法案の根拠となる立法事実がない」、共産党宮本岳志氏も「国の恣意的判断を可能とするもので、極めて重大だ」と批判した。……

 そもそも個別法で対処できない「非常時」とはどういうものか、「具体的に想定しうるもの」がないのだとしたら、何のための法律なのかわかりません。これでは怪しげな意図を勘ぐられてもしかたないでしょう。国の裁量の余地を拡げる意図はもちろんですが、長期的に見れば(もはや「長期的」でもありませんが)、憲法理念と矛盾する個別の法律を積み上げ(既成事実化して)、憲法自体を骨抜きにし、「外堀」を埋めていく作業の一環(過程)と勘ぐりたくもなります。

 もしこの法律があったら、たとえば、ダイヤモンド・プリンセス号のコロナ対応がもっとスムーズで十全にできたかどうか。もちろんそれはわかりません。しかし、法律がなかったから「患者の搬送調整が難航し、受け入れ先がすぐには決まらなかった」かどうかは、恣意的な説明ではなく、より事実に即した検証が必要でしょう。もし地元の病院に患者を受け入れる余地がなければ、国の指示があろうが、自治体の指示があろうが、それは最初から困難です。全国の小中高校の一斉休校にいたっては(誰かの思いつきの側面が大きいと思いますが)、最初から保育園や幼稚園が除外されているのですから、指示それ自体の一貫性というか整合性に欠けます。国の指示が「混乱」を与えた典型例のひとつでしょう。

 「国」にフリーハンドを与え、それを拡大させて大丈夫なのかという疑念はつきまといます。今朝、新聞を眺めていて、小さな記事を見つけました。主観的には小さすぎる記事です。「森友学園」の決裁文書改竄問題で、夫を失った赤木さんが、関連文書の情報開示を認めない財務省に対し、総務省の情報公開・個人情報保護審査会に不服を申し立てたところ、審査会は「決定を取り消すべきだ」と答申しました。ところが財務省は再びこの請求を「無視」したのです。
森友学園:森友関連文書 財務省が再び不開示 | 毎日新聞
森友関連文書、財務省が再び不開示 「公共の安全に支障及ぼす恐れ」 | 毎日新聞

 このような例を出すまでもなく、「国の指示」が国民の信頼に値するものかどうかには、疑念の目を向けざるをえません。文書の改竄だけではありません。わが国は統計までも改竄してきた国なのです。しかも、ほとんど誰も責任をとらない(他方、米国は、不倫相手の「口止め料」支払いを隠すため、業務記録を偽造した前大統領に有罪判決(評決)を出しています!)。

 世間的な注目が他に向けられているあいだにとっとと通してしまおう――他にもそんな法案があるかもしれません。よくよく注意していないと危ないと思いました。メディアがもっと報道すべきなのは言わずもがなですが。


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