むかし学校に勤めていた頃、同僚と、どういう校長(管理職)がよい校長か、という話になりまして、さすがにそのとき挙がった具体的なお名前を書くわけにはいきませんが、その同僚が言うには、某校の校長だった〇〇氏は、上意下達でなく学校を変えていこうとする意欲があり、見るべき問題をしっかりと見ていたし、自分は名校長だと思うということでした。小生は、その〇〇氏と実際に話をしたこともあり、確かに平均的な管理職より豪胆な人だという印象はありましたが(大酒飲みでしたし)、教育委員会の出世街道の本流を歩いてきたキャリアもよく知っていたので、「それは〇〇氏が他の人とちがって、それほど教育委員会の顔色を気にしないで動けたからでしょう。まあ〇〇氏がどうかはともかく、自分が学校を変えてやろうなどと思っている校長には、ろくでもないのが多いのを自分は見てきたので、その点では、むしろ何もしない人の方がいいくらいです。」と返しました。同僚の彼は、〇〇氏を信奉していたし、旧態依然とした学校のあり方には常々不満を持っていたので、何度かこういう話になっても、小生の意見に与することはありませんでしたが、もし若い頃だったら、たぶん小生の方が彼と同じことを言っていたはずです。
こんなむかしの会話を思い出したのは、今週から始まった臨時国会で、岸田首相の所信表明や代表質問に対する答弁を知ったからだと思います。総理大臣になろうとする者に、「改革意欲」とまでは申しませんが、人々から何かを成し遂げた首相だと言われたいという気持ちがないとは思えません。岸田首相の場合も同じでしょう。7月の参院選が終わって以降、支持率が急降下し、誰か人に書いてもらっているシナリオも冴えないし、やることなすこと的外れで、もう少し、側近や官僚とのパイプ役によい人材がいないものかと。「適材適所」などと言い張って、長男を首相秘書官に就けている場合じゃないと思うのです。これではなかなか負のスパイラルから抜け出せないでしょう。それは岸田さんの不幸というより、我々の不幸です。
郷原信郎さんの「日本の権力を斬る!」#181 を眺めていたら、ゲストのジャーナリスト・鈴木哲夫さんがこう言っていました。
【ジャーナリスト鈴木哲夫氏と語る、「国葬」後の政治状況】郷原信郎の「日本の権力を斬る!」#181 - YouTube
鈴木:(国葬の理由として)「弔問外交」が挙げられてましたが、こんなみっともない結果になっちゃってね。G7では誰もトップは来ないし、「リレー外交」とかってどこかが書いてましたけど、40人を(平均)一人15分ずつでやるわけでしょ。何が話せますか、これ? こんなの外交じゃないですよね。
僕、取材したんですけど、外務省の現職の人が言うには、日程の設定がおかしいと。9月の後半のあの時期というのは、国連総会が開かれていて、それに合わせて総会が大きな外交の舞台になるんだそうです。だから、そういう時期に、国葬をやっても、外国の要人は来られないというんですね。それ自体、外交を考えてない日程設定だと言うんですね。
郷原:ずぶの素人のようだと?
鈴木:そうなんです。それで、取材してたら、構造的なこともわかってきて、岸田さんは外務大臣を5年以上やってたんですけど、5年もいたんだから、外交には強いはずだし、国葬で弔問外交するんだったら、日程でいろいろなアドバイスを受けたりとか、外務省なんかとそういう関係ができているはずですけど、それができてないという話なんです。えーっ、何でですか、と訊いたら、安倍政権のときの外務大臣は安倍さん本人だったんですって。(なるほど!)つまり、外交も安倍さん本人がやるってことなんですね。だから、何かひとつ事をやるにしても、安倍さんと外務省の官僚が直接話をしてシナリオをつくって、それを後で外務大臣をしていた岸田さんが見て、僕の出番はここだねと。つまり、安倍外交を円滑に支えるのが岸田さんの役割だったわけで、岸田さんは外務大臣だけど、外務官僚は岸田さんのところには行かなかったんだそうですよ。そういう意味で、岸田さんは外務省に本当に話せる人がいないし、パイプがない。だから今回の弔問外交でもうまくコミュニケーションがとれずに、こんなことになってしまったんだと。
……
(安倍国葬について)政治家としては、その後に武村正義さんが亡くなられましたよね。僕も武村さんにはいろいろ取材してきたし、それは彼にもいろいろありましたよ。けれども、取材してきた者として、個人的には、弔意はあります。だから、時間があるときにお墓参りにでも行ければいいなと思いますが、それは安倍さんに対しても同じだと思うんですよ。だから、亡くなった政治家に弔意を示すことは何の問題もない。それが「国葬」になっていることが問題なんで、そこを切り分けて、しっかり検証しないといけなかったのに、全部一緒くたにして。だからモヤモヤしたと思うんですよ。安倍さんには弔意がある、でも(国民は)反対してる、うーん、確かに国葬はおかしい……全体がモヤモヤしている。でも、これって、岸田さんがずっとやってきた政権運営なんですよ。きちっと理念なりを示して、批判されてもこうなんだ、と言って動いているんじゃなくて、何となくモヤっとしながら動いている。だから、今回の国葬の件は岸田政権の象徴なのかなと思いますね。
……今、やらなければいけないことは山ほどあって、岸田さん自身も「国難」と言ってますけど、言葉が上滑りしています。僕がいつも引っかかるのは、「全身全霊」とか「全力で」とか「必ず」とか……。「必ず」と言って、できなかったら責任とってくださいよと思いますが、強い言葉が表面をすぅーっと行くのにまずがっかりしますね。それから、経済、経済って言いますけど、これ端的には庶民生活だと思うんです。人の命が原点だということで言うと、僕らからするとカップラーメンの値段が何十円のレベルで上がったって話で済むけど、若い人の中には、それで三食食べられなくなって、一食抜いたりという、そこまで一人ひとりの生活にかかってくる問題なんですね。それを、ざっくりと5年後、10年後を見据えてお金を、なんてね。おい、ちょっと待てと。今すぐ目の前の消費税をゼロにしろと。そういうところもぼんやりとしてるんですね。……
コロナもそうですよね。僕、計算してみたんだけど、今年に入ってから10月までで、第7波を含めてですけど、2万6千人亡くなってるんですよ、人の命が。これについて、この前の所信表明で、岸田さん、何と言ったかというと、「夏を乗り切った」って言うんです。2万6千人の命はどうなったんですか! そういうことには触れないで、また、旅行(支援)を始める。あんなのも、代理店じゃなく、観光地に交付金として出した方が身になると思うんですけどね。……という具合に、もう、やることは山ほどあるんですよ。
郷原:そういう状況で驚いたのが、自分の息子を秘書官にしたことですよね。
鈴木:これはねぇ、もう呆れましたね。空気が読めないというか。自分の信頼できる人を秘書官に、という理屈はあるとは思うんですけど、しかし、そもそもの前提として、世襲とかね。彼(息子)を官邸に入れたら、彼は公人になるわけです。身内を公人にするわけで、自分の後継者だから「公人」にして鍛えてとか。いや、ちょっと、あんた、いったい何やってんの!って……。
郷原:能力がある人間をちゃんと育てたいということなのかもしれませんが、それにしても、自分の息子をつかまえてですからね。じゃあ、世の中に能力があって、意志があっても、機会に恵まれなくて、非正規に甘んじざるを得ないという人はどれくらいいるのか。いっぱいいますよね。で、どうして自分の息子に任せようという気になるのか、ちょっと考えられませんよね。……まさに「公私混同」で、これだけでも国民から見放されて、もういい加減にしてくれ、と言われるやり方だと思いますね。早く内閣をリセットさせないといけないと思います。……
トップが何もしなくていいのは、「下々」に任せて、国にしろ、学校にしろ、うまく回っているときであるのは言うまでもありません。しかし、今はそんな人任せにして、寛容というか、暢気に構えていられる状況ではないでしょう。
首相なんですから、「国難」にふさわしいというのは変な言い方ですが、国民の一人としては、トップとしての国難相応の緊張感を感じたいものですよ、岸田さん。
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