ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「ヤジ排除訴訟」判決のこと

 昨日の昼、テレビ・ニュースで「ヤジ排除訴訟」の札幌地裁判決を知りました。原告は、3年前、札幌で、街頭演説中だった当時首相のアベシンゾーに「アベ、やめろ」とヤジを飛ばした男性と、「増税反対」と叫んだ女性で、二人は警察官によって強制的に別の場所へと排除移動させられました(当日は他にも同様の排除を受けた方がいます)。女性の方は、その後も長い時間しつこく警察官につきまとわれたようです。判決は、北海道警の違法行為を認めただけでなく、表現の自由や移動・行動の自由、名誉権、プライバシー権など、憲法の人権保障にも踏み込む内容でした。以前、これを検証したHBCテレビの番組「ヤジと民主主義」を見て、ブログに書いたこともありましたが、当然のこととはいえ、まずは安堵しました。

HBCテレビ『ヤジと民主主義~小さな自由が排除された先に~』2020年4月26日放送 - YouTube
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 しかし、こうした判決を当然のこと、確固たるものとするには、それなりの裾野が必要だと思います。ずっと気になっていたのは、原告の女性が、警官によって強制排除されているあいだ、周りの人は傍観するか、スマホで様子を撮影をしているだけだったことです。
 彼女曰く、「ほんとにもう、ずっと助けてほしくて。ひたすら、ずっと、怖かったんですよ、なんかもう……(周囲の人は)なんで見てるだけなの、カメラ撮ってるだけなのっていう感じなので…すごい悲しかったですね」と。実際、これが札幌以外のところで起こっても、残念ながら傍観者と撮影者ばかりになりそうな「空気」は確かにあると言わざるを得ません。

 こうした「群衆の空気」と警察の排除姿勢は連動していると思います。Yahooニュースのコメント欄には、演説を聴きたいと思って集まった人たちからすれば、ヤジは迷惑(興ざめ)な妨害行為で、警察が取り締まるのもやむを得ない式の書き込みがかなり見られます。
安倍元総理の街頭演説でヤジ 排除は「違憲」の判決(テレビ朝日系(ANN))のコメント一覧 - Yahoo!ニュース

 実際、北海道警察は、裁判で、排除の正当性を示す証拠として、警察に肯定的なネットニュース上の書き込みを提出して、裁判長から「立証責任は道警側にある」と指摘(注意?)されたといいます(失笑)。朝日新聞3月25日付記事(部分)は以下のとおりですが、権力が「快楽」や「嫌悪」といった情緒に寄りかかるのは非常に危険です。

ヤジ排除の理由、立証できなかった道警 原告「そもそも説明に無理」:朝日新聞デジタル

事案発生から2年8カ月余。道警側の対応には疑問の声もあがった。
 原告2人が排除された翌日、道警は朝日新聞の取材に「選挙の自由妨害の疑いがあった」と説明したが、その後に撤回。排除の法的根拠を公式に明かしたのは、7カ月ほどたった翌年の20年2月の道議会だった。
 裁判では、排除の正当性を示す証拠として、自分たちに肯定的なネットニュース上の書き込みを提出。広瀬孝裁判長から「立証責任は道警側にある」と指摘される場面もあった。

 また、排除に関わった警察官らが「(原告の)男性に怒鳴る人や小突く人がいた」などと発言し、安全確保を排除理由に挙げたが、その場を撮影した複数の動画などで事実とは認められないと判断された。
 判決後の会見で原告の男性は「にせものの主張を持ち出された」、原告の女性も「聴衆と私が一触即発だったかのような主張をされた」と憤りを隠さなかった。小野寺弁護士は「そもそもの説明に無理があったから、その後の訴訟でも荒唐無稽な主張を続けた」と批判した。

 「表現の自由」にしろ、「移動の自由」にしろ、これらを「猫に小判」や「豚に真珠」にしてしまうかどうかは、私たち次第だと思えます。もし、今回、札幌地裁が、警察に違法性はなかったという判決を出していたとしたら…。あるいは、北海道警察が判決を不服として上告し、高裁判決で逆転判決が出てひっくり返されたら、どうなっていくでしょう。私たちはロシアで「戦争反対」の意思表示をした人が次々と拘束される様子をすでに見ているのです。

<追記>「毛ば部」さんのおっしゃるとおり、二人への感謝も忘れてはいけないなと思いました。大げさでなく人生を賭けて国家権力と対決し、「おかしい」と言い続けてくれたのですから。
220326 「安倍やめろ」街頭演説にヤジ訴訟 原告の勝訴 - YouTube



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